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放課後になった。
僕が次に向かったのは、報道委員会写真班の一室だ。
そこには、丁度良いことにもう一人の公然の情報屋、白瀬が単独で作業していた。
「白瀬先輩っ」
「うわっ、びっくりした! あああ、山辺補佐様!」
「海ですっ」
「海様、海様、生海様っ!」
テンションがただ上がりの様子の白瀬先輩は、バシャバシャと今時珍しいデジカメではないカメラで僕の写真を何枚も撮った。
赤ぶち眼鏡をかけた、くせ毛の先輩は、誰かの親衛隊でもないのに、人気者を崇拝してやまない性格で、学内でも色物だと称されている。人気ランキング上位者から、頼まれれば一般生徒までの写真を隠し撮りしては、販売しているため、親衛隊とも仲が良い。
それもあってか、彼は風紀委員直属の情報屋だ。
「最近ハルちゃんが、風紀委員会にいるから、どうしてるかなと思って。白瀬先輩なら知ってるでしょぉ?」
「元気そうですよ」
「そっかぁ」
「一ノ宮遥が来なくなって寂しそうな、海様萌え!!」
バシャバシャとシャッターを切られながら、僕は小さく嘆息した。
「恭ちゃん会長と、風紀委員長、仲が悪かったから心配なんです……」
カマをかけてみると、白瀬先輩が短く息を飲んだ。
一瞬だったが、視線が彷徨った。
これは何か知っているなと思い、僕が来るまで白瀬先輩が作業していたと思しきデスクの上に視線を向ける。
そこにはエレベーターに乗る会長と、降りてくる会長の写真があった。
「――恭ちゃんの写真?」
「そ、うです。なにせ学園一の人気者と言っても過言ではないですから!」
「日付が、昨日の夜と、今日の朝方になってる」
「っ、ああ、それは、その」
「隠し撮り?」
「まぁね」
白瀬先輩が肩を竦めて視線を背けた。
「恭ちゃんはこんな時間に何をしてたんだろ」
「……昨日、会長の部屋の電気は、一度もつかなかったんですよ」
どうやら白瀬先輩はなにかに気づいているみたいだ。
「そうなのぉ? じゃあ、誰かの部屋にいたのかな?」
「会長がエレベーターで上の階に上がってから、電気が付いたのは、我らが風紀委員長、神宮寺様のお部屋なんですよね……」
「えええ!?」
僕は大げさに驚いてみせる。
「まさかとは思うんです……が……」
白瀬先輩は、全校生徒が知る、神宮寺先輩の信者だ。
愛なのか恋なのか崇拝なのかは知らないが、もし神宮寺先輩が風紀委員長じゃなければ、恐らく親衛隊長くらい務めていたことだろう。
「あの二人、実は仲良しだったんだね!」
これ以上探りを入れて感づかれても嫌だったので、僕はそう言って、部屋を後にした。
僕は、傍観者だ。
この学園のあるがままの姿が見たい。
だから生徒会長を手伝う気もなければ、正直言ってしまえば風紀委員長のことも、編入生のこともどうでも良い。
ただ、観察して、楽しみたいだけなのだ。
それくらいしかこの学園には楽しみなんて無いのだから。
僕の純粋な興味の対象なんて、陸だけだ。
「なにやってるの?」
風紀委員室前で、遥の手を引いている陸を見つけて声をかけた。
「ハルちゃんを、お昼に誘ってるの」
「あ、僕も行きたい! ハルちゃん、早く」
陸の横に並んで、遥の逆の腕を僕は取った。
確かに陸は好奇心旺盛だけれど、まさかこのマリモに惚れているとは思えない。
僕は監視カメラ越しに、編入生が変装していることを知っているけれど、陸はそんなことには気がつかないと思う。
とても単純――よく言えば、純粋なのが陸だ。
「俺は、風紀委員室で食べるって言ってるだろ!」
モジャモジャのカツラを揺らしながら、遥が声を上げた。
「たまにはいいじゃん、僕たち”友達”でしょ?」
陸が昼食をどうしても食べたそうにしていたから、僕は遥が断れないだろう言葉を口にした。すると暫し迷ったように俯いた末、遥は僕たちと昼食を取ることを了承した。
たぶんこれはまだ、始まりなのだと僕は思う。
これからこの学園は、どうなっていくのだろう。