翌日。

「苦労している森永が面白かったの?」
僕は兄の助言通り、率直に聞いてみることにした。

「へ?」

すると、神宮寺が珍しく、目を丸くした。
切れ長の眼差しが、いつもとは違って感情を宿している。

「仲が悪いって言っても、相手の苦労を面白がるような性格じゃないと思ってたんだけど」

やっぱり神宮寺はそんな性格じゃないだろうなと思いながら、僕は尋ねた。
神宮寺は、僕をじっと見ている。
何か言いたそうに見えたが、逡巡しているようだったので、僕は言葉を続けることにした。

「それとも『知っていて』、僕に森永の手伝いにいけって事だったの?」

僕が森永と一緒に、弥生に生徒会の仕事を押しつけられていたことを知っているのだろうかと、僕は尋ねた。

「そうだ」

結果、一拍の間もおかずに、神宮寺が頷いた。
風紀委員会には、神宮寺の大ファンの白瀬君という、学園情報に詳しい生徒が良く来るから、彼に聞いたのかも知れない。

「じゃあ此処で生徒会の仕事を手伝っても、構わないよね?」
「勿論だ。バ会長が、香坂のことを”葵”と呼んでいたからな。適任だと思ったんだ」

なるほどなぁと思いながら、僕は森永から預かった書類の束をごっそりと机の上に置いた。

「二人はどういう関係なんだ?」

そうしたら、神宮寺がおかしな事を言った。

「さっき、知ってるって言っていたじゃないか」
「あ、ああ、そうだったな……」

書類仕事を再開しながら、神宮寺が頷いた。
そこで僕は、兄からのもう一つの助言を思い出した。

「神宮寺は、一ノ宮のことが好きなの?」
「――なんだって?」
「だって、最初から妙に気にしてるし」
「気になるか?」
「僕はあんまり。だけど、森永が気にしてた」

否定しないところをみると、まだどうなるか分からない。
どうしたらいいのだろうかと考えていると、森永が、うっすらと笑った。
思わず見とれそうになる笑みだった。

「好きだと、森永に伝えてやってくれ」
「そう、森永のことが好きなの」
「は?」
「両思いだったんだね。今すぐ伝えてくるよ、丁度書類を持っていくところだから」

すぐに問題は解決した。
兄の言う通り、上手く事は運びそうだ。
僕は書類を抱えると、図書館の地下書庫にある資料室へと向かった。
二度ノックしてから扉を開けて、僕は森永の隣の椅子を引いた。
「森永、良い報せが二つあるよ」
「なんだ? あの馬鹿副会長共が仕事を再開始でもしたのか?」
「神宮寺のことだよ」
するとピクリと森永が反応した。
「単純に神宮寺は、一ノ宮君に仕事を教えて回っていただけみたいだよ。今日から正式に委員会に入って貰ったみたい。今日の放課後からは、規定通り、同学年の1Sの生徒と見回りに行ったよ」
「本当か?」
「うん。少なくとも、一ノ宮君に恋はしてないみたいだよ」
「遥を連れて至るところで笑顔を振りまいていたって聞いたけどな」
「間違いないよ。だってさっき、『好きだと、森永に伝えてやってくれ』って言ってたから。どうやら両思いみたいだよ、良かったね。これが良い報せ二つ目」
「なッ」
僕がそう告げると、森永が息を飲んで目を見開いた。
「これ以上すれ違う前に、行動した方が良いんじゃないかな」
「今からちょっと神宮寺に会いに行ってくる」
「うん。仕事は僕が引き受けたよ」
僕がひらひらと手を振ると、森永は勢いよく外へと出て行った。
それを見送ってから、僕は、森永がやりかけだったと思しき書類の山に向かった。