0
俺ってば、伊崎製薬の御曹司の父と、バイオリストの母の間に生まれた次男。
会社は兄ちゃんが継ぐからなのか、物心ついた頃から俺はバイオリンを習わされて育った。
その結果、初等部時代の大半はウィーンで過ごした。
いくつかのコンテストで賞を貰い、CDも出したりしている。
だけどバイオリニストになりたいのかと言われても、正直分からない。
俺は、空気を読んで生きてきたのだ。
だからこの鳳凰学園に中学から本格的に通い始めた当初も、空気を読むことに注力した。
そして身につけたのが、AKY――あえて空気を読まないって言う術。
俺は思ったんだ。
俺も周りも、みんな楽しく生きられたらいいなって。
仮面夫婦の両親を帰宅する度に見ているからなのかも知れないし、兄との仲が冷え切っているからかも知れない。
俺にはバイオリンしか取り柄がない。
バイオリンがなければ、家に、居場所もない。
だから鳳凰学園の居心地が、とても良かったのだ。
――そう。
あの編入生が来るまでは。