「親衛隊総括は、大丈夫だったの?」
放課後、資料室の手前で偶然落ち合った、葵ちゃんにそう聞かれた。
「大丈夫みたいだよぉ? ちょっと額を縫ったんだって」
「大丈夫じゃないよ、それ」
「だよね」
「ごめん、一ノ宮君を連れて行った僕のせいだ」
「葵ちゃんが気にすることなんてなんにもないよ」
「だけど……」
「断れなかった俺の方がだめだめじゃん?」
「……やっぱりやめにしない?」
「どうして?」
「莉央って、親衛隊総括のことが、好きなんでしょ?」
今まで誰にも言われたことのない言葉を、率直に葵ちゃんから言われた。
そう言う噂が立ったことはこれまでに何度もあったけど、面と向かって言われたのは初めてだ。
「……どうしてそう思うの?」
「見る目が、違った」
「見る目?」
「誰に対するよりも優しくて、瞳にちゃんと映ってたよ、親衛隊総括のことが」
俺自身、自分の気持ちが分からなかったから、YesともNoとも言えない。
「好きな人が出来るって、本当に貴重なことだと思うよ。だから、大切にしてあげなよ」
「フリとはいえ、恋人の葵ちゃんがそー言う事いうの?」
「手を離すと、大事なモノって、すぐになくなっちゃうんだよ」
「無くした経験があるの?」
「……そう、だね」
「だけど、俺と葵ちゃんは違うよ」
「……」
「別に俺は、誰かと恋愛ごっこがしたい訳じゃないから」
きっぱりとそう言いきると、葵ちゃんが俯いた。
「はぐらかしてるよね」
「え?」
「僕は、親衛隊総括のことが好きなんでしょって聞いたんだよ、一人の友達として」
「それは――」
「僕と友達になってくれるんじゃなかったの?」
「……降参」
「うん」
「そうかも知れないけど、だけど、それって意味なんて無いじゃない」
「それはこれから、どうするか次第だよ」
「親衛隊長と崇拝者は結ばれない運命なんだよ」
「そんな運命、変えればいい」
「葵ちゃんは簡単にいってくれるなぁ」
思わず喉で笑ってから、俺はポケットに両手を入れた。