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本日は親衛隊総会の日である。
二ヶ月に一度、各親衛隊の隊長と副隊長が集まるのだ。
「だからッ!! 森永様はお仕事をなさっているし、神宮寺様との仲も順調だって言ってるじゃないですか!!」
会長親衛隊隊長の雛先輩が叫んだ。
「でもっ、僕は馨様の言葉を信じるんだもん!!」
反論するように、副会長親衛隊長の千尋くんが叫ぶ。
「そんなのどっちでもいいし。俺は、莉央様が仕事してるの知ってるから、くだらない言い争い、止めてくれない」
伊崎様の前以外では柄の悪い、沙樹先輩が面倒くさそうにそう言った。
夕波沙樹先輩、我が会計親衛隊の副隊長である。
どんどんヒートアップしていく彼らの争いを眺めながら、俺は華道部部長の親衛隊長がいれてくれた緑茶を静かに飲んでいた。
「そっちこそ香坂様と会計様が付き合って嫉妬してるくせにっ」
千尋くんの言葉に、沙樹先輩のこめかみに青筋が立った。
「ったく、話しになんねぇなぁ、一年」
「親衛隊に学年なんか関係ないでしょう!?」
みんな元気が良いなぁと思いながら、俺は空の雲を眺めた。
緩慢に、動いていく。
「雄輔、先に進めて」
あきれかえったような調子で、沙樹先輩に言われた。
「今回の議案は、編入生である一ノ宮遥くんの親衛隊結成の可否だ」
「そんなの許せるわけ無いじゃん、これまでどれだけ親衛隊に迷惑かけてきたと思ってんの!?」
千尋君が叫ぶが、俺は静かに瞼を伏せて考えた。
親衛隊の情報網は侮れない。
だから俺は知っていた。
一ノ宮君が千尋君の事を好きだという事を。
この二人の仲を取り持てば、副会長親衛隊もおとなしくなるはずだ。
額の包帯に触れながら、俺は溜息をつく。
問題は、副会長を妄信的に愛しているらしい千尋君をどうするかだ。
「副会長の幸せは自分の幸せだとか思えないわけ?」
沙樹先輩が目を細める。
「相手が神宮寺様や香坂様なら、僕だって納得するよっ。それが、あんな、ちょっと前までマリモだった、ちょっとばっかり顔が良い相手なんて納得できないっ」
確かに編入生は、数日前まで、マリモっぽかった。
奇跡の変身を遂げたマリモ――改め、一ノ宮君のファンは既に学内でも多数いる。
確かに多少の強引さは残るものの、天真爛漫だといえないこともない。
俺自身は、伊崎莉央に被害が及ばなければいいと思っている、一応は。
だが、彼はそんなミスをしないと思う。
親衛隊隊長になって確信したのは、伊崎様がキレものだという事だった。
学内で噂されているような、下半身ユルユルのチャラ男ではない。
寧ろその噂を増長させて、被害を最小限にとどめている気がする。
「直接一ノ宮君と話しをしてみたらどうだ?」
俺が言うと、千尋君が目を見開いた。
「本当に一ノ宮君が悪しき者だとすれば、生徒会副会長の見る目がないと言うことになる。そうでなくとも、直接話しをして、副会長がだまされているのか確認した方が良いだろう」
彼が制裁行為で、既に編入生と接触していることは知っていた。
しかしきちんと話したことはないはずだと思い、そう提案してみる。
「親衛隊総括の言う通りです」
すると会長親衛隊長が、後押ししてくれた。
「……――わかりました。それでやっぱり一ノ宮君が悪いって分かったら、親衛隊の結成を待ってもらえますか?」
千尋君の声に、大きく頷いてみせる。
このようにして、今回の親衛隊総会は幕を下ろしたのだった。