それから俺は、梓から聞いた情報を元に、まだ全校生徒が集合している場所へと向かった。教員の姿がないあたりが、本当に生徒の自主性を尊重しているように見える。嫌実際には、一教師の権力では、大概生徒の家柄に勝てないからに他ならないのだろう。
――しかしこれからは違う。
俺は背後にいる全ての教師を一瞥してから、頷いた。
すると生徒に鬱憤が溜まっていたらしい教師陣が、強く強く俺に頷いた。
その筆頭にいるのは、ホストにしか見えない数学教師、高瀬四季たかせしきである。俺が到着するまでの間に、扉の外で教員をまとめてくれていたのである。
「じゃ、行くか」
そう言って笑うと、皆が強いまなざしへと変わった。

俺がわざと大きく音を立てて扉を開けると、全校生徒の視線が俺に集まった。
すぐに、困惑した気配が会場中に広がっていく。
次第にそれはざわめきへと代わり、疑問の声が溢れかえった。

「先生方がどうしてここに……?」
「なんで一宮がそこに……?」
「生徒不可侵の原則は?」
「え?」
「何がどうなってるの?」

そんな疑問をよそに、俺は壇上へと近づいた。
そして階段の下へと立ち、親衛隊総括と視線を合わせた。あちらはと言えば、スッと切れ長の瞳を細めて俺のことを見ている。――俺の恋心に気づいて、さんざん利用された相手だが、その手腕には恐れ入る。
「梓がほしがるのも分かるわ、土方雄輔」
「光栄です、理事長」
淡々と土方に言われた。瞬間会場中が静まりかえった。シンとした後、会場中が阿鼻叫喚した。

「「「「「「「理事長!?」」」」」」
「「「「「「なにそれどういう事!?」」」」」

大別すればそんな言葉だった。
俺は笑顔を返して堂々と壇上へと通じる階段を上っていく。教師陣は、会場を包囲するように四方へ散った。

「鳳凰学園新理事長の一宮遥だ。今後は生徒会の特権と風紀委員会の特権は全て廃止する。教員の注意には従ってもらう。並びに、三部界の決定であっても全ては教員の許可制度の力を最上限にする。なお今回のリコール宣言に関しては、『教職会』漫然一致で承認する」

俺の言葉に、生徒達が皆ポカンとしていた。
それも当然だろうと思ったし、気分が良かった。だが俺はこれから、愛しい人を糾弾し、なおかつちょっとした復讐を親衛隊総括にしてやるつもりだ。

「これより二人の生徒を停学にする。一人目は副隊長親衛隊隊長の山吹千尋。ぼや騒ぎの真犯人だから、警察に通報する。事によっては退学させる。もう一人は――……校内で制裁行為という名の『イジメ』を助長した、生徒会”元”副会長、滝波馨」
「なッ」
俺の言葉に目に見えて滝波の表情が変わり、眉間にしわを刻み息をのんでいた。自慢の作り笑いが崩れている。
「これは理事長としての決定だ」
「遥――どういう事ですか?」
「お前の動向は全て記録されていた。そうだよなぁ、”泡沫”」
そう言ってわざとらしく山辺海を見ると、まるで観念したかのように、目を伏せ生徒会補佐の双子の一人が頷いた。
俺はそれから、他の情報屋二人を見たら、どちらも目を見開いていた。
「――そんなことは認められない。第一僕の滝波財閥が――」
「もう無いに等しい権力だな。そうだろ、御神楽弥生」
大きく滝波の声を遮り、前生徒会長を見れば哄笑していた。そして拍手している。
「株を半分、つい数分前に手に入れた。今後は俺の御神楽の傘下に滝波財閥は入る。形だけでも残してやったんだから感謝しろよなぁ滝波。去年生徒会役員じゃなかったら、完璧に潰”させて”たよ」
その言葉に、滝波が目を見開いた。顔が真っ青になっている。
俺はその様子に満足しながら、改めて親衛隊総括を見る。

「もう一人の大株主様が、”元”副会長のリコールを宣言したんだ。もう逃れられないぞ、滝波馨。そうだろ、土方雄輔。お前はよくやったよ。生徒会選挙の期間中は、滝波は停学扱いだから無論投票はされない。その資格がない。お前ここが、匂ノ宮学閥参加だと知っていたんだもんなぁ」

全校生徒の視線が俺から、親衛隊総括へと集中した。
土方はと言えば、無表情のまま俺を見ていた。これが俺の小さな復讐だ。
「――土方君どう言うこと?」
あっけにとられた顔でポツリと、会計だった伊崎莉央が呟く。
しかし親衛隊総括は何も言わずに、伊崎を見据えている。強く静かなまなざしだった。相当な覚悟があったんだろうなと思いながら、俺が代わりに答えることにする。
「そいつは、匂ノ宮学閥の総帥に身売りして、滝波財閥の株を買収させたんだ。俺の悪友の夕霧梓にな。で、管理をさせるために、御神楽財閥に売りつけたんだよ。いやぁ、メールでやりとりしながら、危うくこの学園自体も買収する気だったんだから恐れ入る。俺が理事長じゃなきゃ終わってたぞ。なぁ?」
「――全ては”学園”のためです。学園こそが、本当の”居場所”ですから」
ようやく土方が答えた。

誰の居場所なのかは聞かなくても分かる気がした。
そんな風に思われることが羨ましいだなんて、珍しく俺は思ったのだった。

「身売り……?」
「安心しろ伊崎。これまでずっと夕霧家から引き抜きかけられていたのを断っていたのを翻しただけだ」
「なんでそんな……」
「全部お前のためだろ――なーんてな。決定した土方の気持ちなんか俺には分からない。ただ俺は”公平”に、教職員をまとめる立場として宣言する。生徒の自主性と自分勝手をはき違えるな」

このようにして三部会によるリコールと、俺の理事長就任披露は終幕したのだった。