惰性で餌を噛む




そんな俺の世界、俺の生活。
正直、その未来に悲喜こもごも織り交ぜた”日常”が訪れるだなんて、この頃は考えもしなかった。


鉄火丼を作って、箸を動かしながら、重々しい動きをする秒針を眺める。


嗚呼、歪んでしまった俺の時間。
もう誰も俺を見てなどいない。その事実に気づかないわけではなかった。
だから多分、俺は引き際を、上手い終わり方を探していた。
その結果到達したのが、引きこもるという選択だ。
皆が俺の前から去っていく。
ならば俺が残る皆の前から去ろう。

それは退屈な人生の始まりかも知れなかったが、これ以上心に傷を作るよりはずっと、ずっとずっとずっとマシだった。
俺は堪えかねて席を立ったのだ、人生の椅子取りゲームなど放り投げた。


俺も神話のように雪に埋もれてしまいたかった。
この世界は、旧文明の人々から見れば、冒険心に充ち満ちた”剣と魔法の西洋ファンタジー”風らしい。
ファンタジーという語は、今でも存在する。
昔から残っている言葉は多い。

俺は、最後に見た星空のことを、何とはなしに思い出しながら、何故素直になれなかったのかと自分に問いかけた。


想い人に好きだと言ってみれば良かった。
弟子に出て行く理由を聞いてみれば良かった。
師匠にもっともっと教えて欲しいと請えば良かった。
友人に、寂しいから助けて欲しいんだと、求めれば良かった。


結局何も出来なかった俺は、弱虫なのだろう。
だから俺は後に思う。


殿下に無理と言おう。
宰相に無理と言おう。
教師に無理と言おう。


これは、そう、そんな物語が始まるまでの、



「……っ、何かくだらない夢を見ていた気がする」

息を飲んでから呟く。
気づけば俺は、箸を取り落として、鉄火丼を見据えていた。
時に俺は予知夢を見ることがある。そんなものの存在には懐疑的なのだが。

――俺が家を出て引きこもりでなくなるのは、この三日後のことだった。