暇つぶし




「でもな……教育が画一的だからなのか、生徒まで人形みたいになってしまうんだ」
「殿下、しーっ」

宰相が人差し指を持ち上げた。
黙れという合図だ。
重労働をしているだろうにこの言われようでは、若干可哀想でもある。
ただ俺も、新時代の才能有る若者には会ってみたかった。

「一度くらいは見に行っても良いな」
「「有難う!」」
「それで、孤児院というのは何だ?」

まぁ明日以降の日程になるだろうし、雑談を続けることにした。

「貧しすぎて子を捨てる親が多いんだ」
「なるほど」
「貧しすぎて避妊具も買えないっすからね」
「避妊具……」

俺は生々しい単語に視線を背けた。
枯れきった生活を送ってきたので、免疫が行方不明だ。

「そうだもんだから、良識有る大人は、同性愛に走る傾向にあるんすよね」
「困ったものだ」
「……は?」
「同性ならば子供は出来ないだろう?」
「そうそう。だからネルさんも気をつけて下さいよ。お顔立ちは良いっすから」
「やっぱり恋の第一関門は外見だよな」
「殿下、不純だ。俺は、中身だと思うすよ」

二人が恋愛談義を始めてしまった。
俺は……同性愛が悪いとは言わない。言えない。
なぜならば、最後に俺が恋をした相手は、同性だったからだ。
けれど同性愛などとても人に言えることではなかったから、押し殺し噛み殺し、消滅させた。もう俺は恋なんてしないと誓ったものである。
思い出したら、心の中にぽっかりと穴が開いた気がした。

「それはそうと、他にも問題は山積みなんだ。ネル、頼む、この国に仕えてくれないか?」
「お願いします」

そろって頭を下げた殿下と宰相を見てから、俺は俯いた。
誰にも期待されない日々を送る時間が長すぎた。
だから今更になって思う。
俺がいて何か変わるのだろうか。俺に何かが出来るのだろうか。俺は必要なのだろうか。
寧ろ、むしろだ。

「――それぞれの専門家を集めた方が良いんじゃないのか?」
「お金がない」
「そこで一番重要な節約の専門家に絞ったんすよ」
「俺が、その、探してくるから」

俺にも少しくらいは人脈がある……と思いたい。
直接誰かと会うことはなかったが、魔導書の関係で、手紙でのやりとりや交流はある。

「助かるけどな、俺はネルにこの国にどうしてもいて欲しくなったんだ」
「分かる分かる、俺もすよ」
「どうして?」
「「優しいから」」

この二人は一体どこに目がついているのだろうかと思った。
俺は、優しさの対極にいる。
けれど言われて悪い気はしなかった。自然とお世辞だという気もしない。

――たまには、誰かに仕えてみるのも悪くはないだろうか?

変化のない日常で、惰性で呼吸し続けるよりも、あるいはそれは有意義なことなのかも知れない。それに……少しだけ俺の知らない新しい時代の国の姿を見てみたいとも思ったのだった。