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それから、一人で向かったのは、【ホーム】を建てることが出来る場所だった。正直どこに建てても、≪空間転移魔術≫が使えるので問題はない。と言うことで、適当に転移を繰り返して良さそうな土地を探した。そこに、書籍上で家を購入して、【配置】を押した。
すると僕の真正面には巨大な問うが現れた。斜塔な感じだ。

中へと入り、僕はまず、一室にどーんと魔術ウィンドウを出現させた。そこに周囲の風景を映し出す。侵入者がいればすぐに分かる上、ウィンドウ上の操作でも『排除』できるように整えていった。他にもキッチンや寝室に家具を配置したりもした。一番重要なのは、作業部屋で、そこに魔術ウィンドウを開き、巨大なキーボードを取り付けた。パソコン代わりである。

そうなのだ。
この場所にいながらにして、どうやら小説の投稿・更新作業もできるようなのだ。

しかし『ひきこもり矯正』のため、毎日一定のポイント消費をしないと、その作業は出来なくなるのだという。閲覧も同様だ。日間、週間、月間、四半期、年間などのランキングも、いつも通りらしい。

折角なので本日のBLランキングを見ていたら、ふと他の作者さんのことが気になった。
この世界にはひきこもりの人しか来ていないようだが……もしかしたら、何人かは……と、活動報告を見に行ったら、やはり、いた。まじか。会って萌え語りがしたい。

ちなみにポイント消費は食事でも出来る。料理をするのにもポイントを使う。
せっかくなので、作業分のポイントを稼ぐため、僕は贅沢な食材を呼びだした。なおこのポイント、朝五時にリセットされるのだという。追加分は増えるが、持っていた分は減らないそうだ。なので僕はそこそこ贅沢な生活が出来そうである。

ちなみに僕のBLポイントは。
長編完結作品約20で、大体それぞれ1000から7000で、40000ポイント前後。
長編連載作品約20で、500から5000で、30000ポイント前後。
短編10で、100から2000で、9000ポイント前後。
非公開で1000ポイント。
合計80000ポイントくらいだ。
この内20000ポイントは常にサーバーの管理に回すことになる。

一度に使える【ジャンルスイッチ】は二つなので、BLスイッチの他に僕は、FTスイッチか、既読スイッチのいずれかを選択できる(BLを除くという選択肢は僕にはない)。それで僕には書き手魂のような謎の創作意欲があるため、FTスイッチを選択した。

僕のFT作品は二つだけだ。
長編完結作品、500ポイント。
長編連載作品、20000ポイントだ。

こちらの合計は25000だ。しかし、単体攻撃力で言えば、FTスイッチの方が強い。

まぁクエストはやってみたい(帰りたいという以上に好奇心がある)が、基本的に僕はあまり戦いたいとは思わないので、そんなに攻撃で使うことはないと願いたい。

BLとFTのポイントをあわせた総合で、約10万。これが僕である。10ポイント1000円くらいなら、1000万くらいを毎日使えると言うことだ。優雅だな。

両刀(書き手であり読み手であるの意。僕はノーマルだ)として常々、ポイントはあんまり関係ないと僕は思って生きてきた。しかし残念ながらこの世界では、ポイントが重要になってくるらしい。改めて読んでくれた方に感謝する。本当に有難い。

その日はパスタを食べて、シャワーを浴びてから、僕はふかふかの寝台に潜った。



翌日。
僕はフレンチトーストを食べながら、ランキングを見ていた。

BLの日間ランキングだ。

一位は、昨日活動報告で、異世界にトリップさせられた事を報告していた、ミギワさんの、『TSトリップ実録記』だった。早速この世界へ転移させられたことをモティーフに書いたらしい。汀さんの作品は面白い。胸がキュンとするものが多い。だから実録記というのが少し意外だった。前書きに注意書きがしてあって、ポイントが衣食住戦闘(後帰還のためのクエスト攻略)に必要なため、良かったら支援のためにポイントを入れて欲しい旨が記されていた。

そして僕は発見した。なるほど、ポイントを使うとTSも可能らしい。汀さんは女→男に現在TSしていると告白(脚色もあるだろうが)している。と言うことは、僕もポイントを駆使したら、理想の外見になれると言うことだ。

改めて本を捲ってみると、外見変化が可能だと書いてあった。
だったら折角だ。僕だって違う外見になってみたい。僕は最近単体萌えをすることも多い。
そうだ、そんな萌えキャラの外見になってみるってちょっと素敵だ。

そこで僕は、本の【外見変容】の頁を開き、『アバター作成画面』に触れて、魔術ウィンドウを表示させた。魔術ウィンドウは、宙に半透明の板のようなものが浮かぶのだ。
どうしたものか。黒い髪が僕は好きだ。だから髪色はこのままで良い。瞳の色は……緑か青が良いな。堀は深めにしようかな。だけど少年風が良い。

そこで僕は、二次性徴後くらいの、均整の取れた体つきをした、美少年(重要)のアバターを作成した。10000ポイントを消費した。アーモンド型の大きな目をした美少年の姿を、手鏡を出現させてみてみる。ちょっと目を惹く。一度で良いから僕は美形になってみたかったんだ……元は、平々凡々だから。身長や体重は実際とあまり変わらないが、ちょっと腰が細くなり、だが筋肉は着いた気がする。これぞ、理想の……受けだ。あ。僕、ノーマルなのに無意識に受けっぽいアバターを作っていた。まぁいい。性的嗜好はまた別の問題だ。

それが一段落したので、僕はランキングを見る作業に戻った。
すると二位は、アカネさんだった。茜さんは、活動報告も面白い書き手さんだ。個人的にツイッターでもやりとりをしていた。学園モノの名手だ。僕は彼の書く非王道小説を熱心に追いかけている。タイトルは『異世界トリップ』だった。珍しい。彼が異世界トリップを書くのは初めてだと思う。さらっと読んでみたら、やはりこの世界がモティーフだった。茜さんは、更新の度に活動報告を書く方なので僕は見に行った。

そして目を瞠った。
以下抜粋である。
――黙っていましたが、私は……俺は、腐男子です。ずっとネカマをしていてすみませんでした。
僕は呆然とした。ど、同士だ……!

ちなみに三位は僕が昨日つらつら書いて更新した短編で、『浮気をされてもしかたない!(仮)』だった。どんな話しかというと、ネガティブな主人公が、浮気場面に遭遇するのだが、自分は所詮その程度なのだと鬱々とするのだ。しかし浮気自体が勘違いだったというハッピーエンドである。僕はファンタジーBL作品をどちらかというと多く書いているのだが、なんとなく、現実に未練があるようで、現代物を書きたくなったのだ。

なお、僕も更新の度に活動報告を書いている。
大抵は、更新情報と、それにまつわる小ネタと、お気に入り(ブクマ)や拍手をしてくれたことに対するお礼を書いている。
そうなのだ。某投稿小説サイトには、『ブクマ』という機能があって、1つのブクマにつき、2ポイントはいるのだ。

だが今回は僕はまだ活動報告を書いていない。
ここは僕も……腐男子だと告白してしまおうか。異世界にトリップさせられたことを告白してしまおうか。ちょっと悩んだ。

だけど。

やっぱり自分の作品に関しては、余計な先入観を持たずに読んで欲しいと思った。
ひきこもりだと露見するのが嫌だというのも若干あるし、腐男子バレもまだ僕にはハードルが高い。だから汀さんと茜さんを尊敬する。

なおランキングは、上位5作品にはマークが付く。
そして300まで公開されている。だから魔術ウィンドウ上でスクロールして、下へ下へと見ていくと、僕の既存作も出てきた。そのため、作品ごとのランキングだが、総合してみるならば、僕は今回ランキング1位かもしれない。

【情報】タブで、本日の増加分のポイントを確認すると、1000ポイント程度だった。日に三度、ランキングに載るたびに僕のポイントは加算されていくのだ。やはりポイントが多いに越したことはない。それに僕は毎日のように、書きたいという意欲に突き動かされているから、今日も何か書こうと思う。

しかし昨日の今日だから、街の人々の動向や、クエストの情報も気になった。
だから昨日とは一転して、僕は外見を晒し、流行にも一応のっているだろう洒落た服を書籍上で購入して、街へと出ることにした。