<14>☆





帰宅して僕はすぐにシャワーを浴びた。本当、冗談じゃなかった。
第一禁句だ。腐道の禁句を帽子屋は言ったのだ。自分がされたいことを妄想しているだと? ふざけるなという話しである。BLは夢が詰まってできあがった代物だ。現実の生々しさなど、寧ろいっさい排除されてしかるべきだ(リアル路線のBL小説も好きなんだけどさ……)。しかし若干嫌な事実だが、中途半端に触られた性で、僕の体の奥で熱が燻っている。あんな風に触られた事など人生で初体験だから仕方がないのかも知れない。我ながら免疫が無くて嫌になる。

シャワーから出て髪をかわしてから、僕はダイニングへと向かった。

するとレグルスとジャックが立っていた。二人はそろって、卓上の小瓶を難しい顔で見ている。何をしているんだろう?

「どうかしたの?」
「ん、ああ、レグルスと二人で作ってみたんだ」
「何を?」
「師匠のお題。ジャックと二人で試行錯誤しながら、801媚薬を作り出したんだ」
「へ?」

まさかの自体に僕はポカンとした。作った、だと……? 確かに魔術師は魔法薬の生成が出来るが、それの応用だろうか。だけど何も作らなくても良いではないか。困惑していると、僕がお風呂上がりだと見て取った様子で、レグルスがアイスティを出してくれた。有難く受け取って飲むと、少し甘かった。だがすっきりとしていて美味しい。

「腸からしか吸収しない仕様にして、挿れる側には問題がないように作ったんだ。な、レグルス」
「ああ。後はやっぱり中出しだな。何をされても、出さないと収まらないようにした。イけなくしたんだ。十五分で効果は切れるけどな」
「これについての萌えは、嫌なのに体は熱い、って言うところだろ?」
「淫乱とか言われて受けは涙ぐむ感じが良いよな、ジャック」
「もちろんだ。嫌よ嫌よも好きの内とか言われて屈辱を感じるんだ。まぁでも、素直になれない相手に使って素直にさせるって言うのも良いよな」
「悪くないな。とっくに好きなのに意地を張っていた受けが、ついに体を開かれると同時に本心を吐露する」
「後重要なのは快楽責めだな。訳が分からなくさせる感じで」

この二人、やはり出来る。師匠としても誇らしい。
――全身がカッと熱くなったのはその時のことだった。

「!」

目を見開くと、二人がそろって僕を見て、そうしてニヤリと笑った。僕はその場で崩れ落ちた。ただでさえ体の奥で燻っていた熱が、一気に腰に集まる。

「やっぱり師匠は危機感が足りねぇな。あんなお題を出しておいて、あっさり飲み物出されて飲むんだから」
「な」
「なぁ師匠。そろそろ実地で教えてくれないか?」
「や、やぁあ」

思考が霞みはじめて、体の熱い以外なにも考えられなくなり始める。

「ひっ」

その時ジャックに抱き上げられて、その感触だけで僕は果てそうになった。

「あ、あ、あ」

そうして寝室へと連れて行かれて、僕はシャツをはだけられて、下衣を取り去られた。太股が空調のひんやりとした冷気に晒されたのに、体は熱くて仕方がない。レグルスが僕の後ろに回り、ジャックが僕の両足をおり立てて、押し開くようにした。なさけないことにとっくに反り返っていた僕の陰茎は、既に先走りの液を零していた。

「や!! あ」

その先端をぺろりとジャックが舐める。それだけでイってしまいそうになったのだが、それは叶わなかった。そうだ、言っていたではないか。中出しされるまで収まらないと。嘘だ、こんなの嘘だ……! 僕はノーマルなのに……!

「うあッ」

後ろからレグルスに両方の乳首をはじかれて、僕は思わず声を上げた。じんとした疼きが乳頭を通じて全身へと広がっていく。気持ち良かった。その事実に愕然とする。怖くなって藻掻くと、両腕の間から抱きしめるようにされた。これでは身動きが取れない。
そんな僕の陰茎を、ツツツとジャックが指でなぞる。ああ、出る、と思って体を震わせたのだが、やはりそれは出来なかった。そして絶望的なことに、僕は体内が熱いことを自覚してしまった。そんなところを触られた経験など一度もないにもかかわらずだ。もどかしくなってきて、自然と腰が動いてしまう。涙がこみ上げてくる。羞恥から頬が熱くなった。
緩慢にレグルスが、乳首をなで始めた。時に緩急つけてはじかれて、その度に僕はガクガクと震える。全身が汗ばんできたのが分かる。ジャックが僕の陰茎を口に含んだのはその時のことだった。

「ああっ、ふァ……や、ヤん……ン……フ」

僕は声を押し殺すことに躍起になった。そうしていたら、レグルスが一方の手を僕の顎に添えて、顔を持ち上げてきた。

「!」

そのまま深々と貪られる。逃げた舌を絡め取られて、ひきずりだされて甘噛みされた。びくんと肩が跳ねる。しかしキスしながらも胸への刺激は止まらない。それ以上に、ダイレクトに陰茎を刺激されて、完全に僕の腰の感覚はなくなった。雁首を重点的に刺激される。しかし出そうなところで、それが出来ない。

「あ、ヤ」

僕がそう口にした時、ジャックが先ほどの小瓶を手に取った。媚薬だ……! これ以上それを使われたらおかしくなってしまう気がした。

「止め、止めろ、や、ァ――うああああ」

しかしそれを二本の指に垂らしたジャックは、ただ笑うだけで、僕の菊門に触れた。ぬるりとした感触がして、まずは一本指が入ってくる。
だが一本とはいえその存在感は絶大だった。媚薬がグチャグチャと音を立てる。それが恥ずかしくてきつく目をつむった時、レグルスに首筋を舐められた。

「おいおいキスマークついてるぞ」

その言葉に帽子屋のことを思い出して、僕は息を飲んだ。

「中は初めてって感じだけどな」

ジャックが冷静にそんなことを実況した。それから浅く指を抜き差しされる。それが尋常ではなく気持ちが良かった。明らかに媚薬のせいだ。すぐに指は二本に増え、今度は激しく抜き差しされる。

「ああっ、うあ、あ」
「ちょっと緩められないか?」
「あ、ハ……ッ、ぬ、抜いて……」
「この状態でか?」

苦笑するようにジャックが言った。そして指先を器用にくいと曲げた。瞬間、全身に電流が走ったようになり、頭が真っ白になった。あ。多分そこは、前立腺だ……。目を見開いた僕の頬に涙が伝う。しかし何も考えられなくなって、ただ僕は、嫌々とするように首を振った。

「ここが好いのか」

今度は楽しそうに笑い、ジャックがそこばかりを刺激し始めた。その度に意識がクラクラとした。

「や、やァあ……」

しかし胸もまたレグルスに再び両手で摘まれ、その上舌を耳の中へと差し込まれて、僕は全身から力が抜けてしまった。熱い。熱くて仕方がない。だけど。

「うう……」

認めたくなかったが、尋常ではなく気持ちいい。僕の先端からはたらたらと止めどなく蜜が滴っていく。酷い。こんなの酷いではないか。くやしさからなのか、本気で認めたくないが快楽からなのか、僕はボロボロと泣いた。
その時、アラームの音がした。

「あ、媚薬の効果切れた」
「チ。さっさと挿れれば良かった」
「あのなぁジャック。俺だって挿れたかったんだよ! 指でも!」

二人の声に我に返れば、少しだけ体の熱が引いていた。しかし達したいという思いは消えない。どうしたらいいのだろうかと震えていると、指を引き抜いたジャックが、もう一方の手で僕の陰茎を撫でた。

「うあ」

そして僕は呆気なく果てたのだった。そして賢者タイムに突入した。全身が気だるいのだが、覚めた理性が、二人をそれぞれにらみつけさせた。

「なんでこんなことしたの」
「作ったら試したくなるだろ」

当然だという風にレグルスが言う。問題はそう言う事じゃない。

「何で僕で試すんだよ! 二人でやってればいいだろ!」
「ジャックじゃ萌えないし」
「俺もレグルスじゃちょっと起つ自信がない」

なんだその言い分は……! 僕はメロスなみに激怒した。

「次の課題は『純愛』だ! それと二度とこういう事をしたら破門だからね!」

本当はすぐにでも破門にしたかったが、それでは二人の家が無くなってしまうと理性が言うので、我慢した。
そんなこんなで一日は終わった。全く、波瀾万丈な一日だった……。本当に最悪だ!