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昨日は夕食後、抱き枕を抱きしめて眠った。
疲労感はそんなに無かったが、無性に眠い。今日は起こさないでいてくれた様子で、もう十四時を回っているというのに眠い。だからベッドの上で、枕を抱きしめて、しばしゴロゴロしながら妄想にふけった。次の弟子へのお題を考える。玩具責めにしようかな。オーソドックスに。そう考えて、嗚呼、こんな日々はもうすぐ終わるのかとふと思った。
半身を起こし、ベッドサイドから分厚い本を手に取る。
よく見てみれば、代表者の所に、皆月ヒルトと書いてあった。本名がヒルトなんだろうか……? とりあえずジャックの双子の弟だと言っていたな。双子も萌える。そもそも兄弟に萌える。だがジャック×帽子屋×ジャックはあまり浮かんでこない。攻め×攻めは大好物なのだが。帽子屋は攻めな気がするのだ。

「うーん、どちらかと言えば、帽子屋×ジャックかな」

そんなことを呟いてから、ぱらぱらと本を捲った。ギルドについての説明頁を開く。
そこにはギルド特典についても書いてあった。
なんでも、『ギルドホームの使用可』『ギルドポイントの取得』『ギルド全員へのポイント配布』『ギルドと特定の場所への転移魔術相互許可』『ギルド酒場のオープン(ギルドないでクエスト承認可)』『公開魔術ウィンドウの非公開選択』等々とつらつらと書いてあった。酒場に行かなくても、ギルドホームで受諾出来るのは、結構魅力的だ。酒場は人の目がありすぎる。しかし……最近話を聞く限り(酒場によった時に聞こえた話し声)、ギルドに入っていない人の方が少ない気がする。素直に入れてもらえばいいと言うことは分かるのだが、朝何時までに来いとか言われるのが辛すぎるのだ。僕だってひきこもりになる前は、大学卒業後三年ほど働いていた。ブラック企業だった。まさに社畜だったのだ。もうあんな生活には戻りたくない。僕はネト充として生きて行ければ、ただそれだけで満足だったんだけどね……。まぁ折角異世界へと来たわけだから、異世界を堪能したいとは思うけれど。実際、魔術を使えるようになったのは楽しすぎる。

「師匠、起きてるか? 起きてなかったら流石にいい加減起きろよー」

そこへ扉の外からレグルスの声がした(中に入ったら破門だと言い聞かせてある)。

「起きてるよ」

本を閉じて僕はきちんと起きあがり、寝台に座り直した。それから立ち上がる。
扉を開けると、レグルスが視線で僕を促し歩き始めた。二人でダイニングへと向かう。すると珍しく(というか寧ろ初めて)ジャックの姿が無かった。

「ジャックは?」
「央とヤマネと話し合い。あの三人がギルドの創設者みたいなものだからな。そもそもジャックの発案に、あの二人が乗っかったんだし」
「そうなの?」
「ああ。お前が入らないかもしれないって聞いて、ジャックは地味に凹んでたぞ」
「……そう。ちなみにレグルスは、創設者には入らないの? 一緒にいたんでしょう?」
「そういうのガラじゃ無いからな。ま、ジャックが行くんなら着いては行くけど」
「レグルスは受け? 攻め?」
「おいちょっと待て、俺で妄想するな! いつもお前が言ってる言葉だろ!」
「ごめんごめん」
「ちなみに俺は攻めだと思う」
「いや、答えなくて良いから」

そんなことを言い合う。レグルスは草嗣ながら、僕に遅めのブランチを用意してくれた。
食欲をそそる匂いがする。本日はキッシュだった。

「ちなみに師匠は何で、ギルドにはいるのを渋ってるんだ?」
「……朝起きる自信がないんだ」
「え」
「笑ってくれて良いよ。正確に言うと、自信もないけど、起きる気もおきないんだ」

僕は俯いて自嘲気味に笑うと、レグルスが座ってから腕を組んだ。

「それだけか? 本当に、それだけなのか?」
「うん」

頷きながら、僕はフォークを突き刺した。僕にとっては重要な問題なので、断言した。

「BLサーバー管理の危機を分散するためにヤマネと離れていた方が良いとか、この斜塔の位置的に、魔導石サーバーに向かって結界を張りやすいからだとか、一人でクエストを攻略したいからだとか、魔術の研究に打ち込みたいからとかじゃなくて?」
「へ?」
「昨日ジャックと話し合ってたんだよ。お前が入りたくない理由。俺はちなみに、小説を打つのに集中したいからだと踏んでたんだけどな。思いっきり妄想にふけりたいのかと思ってた」
「……た、確かに小説と萌えに関しては、一理あるけど」

僕のこれは自慢だが、僕はどこにいても小説を書けるのだ(背後に人がいないことは必須条件だが、それは見られる時に羞恥が募るからだ。はじめから理解がある人だと分かっていれば必ずしもその限りではない)。それに妄想も、本当に自慢だが、どこでだってしている。できるではない。呼吸するように僕は妄想しているのだ。例えばトイレに立った時、ふと道を歩いている時、等々だ。それくらいBL妄想と生活は切っても切り離せない関係にあるのである。僕の生活――いや、人生の一部といえる。

「それなら、好きな時に行って、好きな時に帰って、まぁクエストとか、会議は出なきゃとしてもだけどな、それは今まで通りだし――まぁようするに自由参加なら、入るのか? 家も、こっちに帰ってきてOKで」
「その条件ならすぐにでも入るよ」

当然ではないか。僕の不安が全て払拭されるのだからな。それにひきこもりたくなったら、会議やクエスト以外ではいつでもひきこもれるのだ。大変美味しい条件だ。逆に言えば、寂しくなったら行ってみると言うことも出来る。もし仮に暇そうな人を見つけられたら、異世界観光に頑張れば誘えるかも知れないし。

「多分それでOKになるな。ジャック、喜ぶぞ。俺も師匠とこれからも一緒だと思うと嬉しいし」

そう言ってもらえると純粋に嬉しかった。僕は良い弟子を持った。



さて。僕は一つの決意を固めた。昨日魔術ウィンドウで公開されたわけだし、猛威を決して活動報告を書くことにしたのだ。
まずは文面を下書きしてみる。

改めまして、こんにちは。
僕は実はひきこもりでした。そのため、現在異世界にトリップしています。
ならびに僕は腐男子です。

駄目だ。三行で終わってしまった。もうちょっと何かひねりを加えよう。
ええと。

こんにちは、いつもご覧頂き、ならびに活動報告にまで目を通して頂き僥倖です。
活動報告だけご覧の皆様は、お時間がある時にでも、作品の方もご覧いただけたら嬉しいです。滾る萌えを書き殴っております。
今回更新したのは、王道学園モノと、書きためていた短編をまとめて連載形式にしたものです。ファンタジーものの続きは後ほど更新します。
ファンタジーと言えば、実は別PNで、BLではないファンタジーも書いております。機会がありましたらご覧下さい。
と、宣伝ばかりになってしまいましたが、実はご報告があります。

僕はひきこもりです!

そのため現在異世界トリップしております。ひきこもり支援の一環だそうです。
そして、既にご存じの方もいらっしゃるかも知れませんが、私は腐男子です。
私――改め、僕はですね、ノーマルなのですが(最重要)、どうしようもなくBLが大好きです。なので異世界にはおりますが、今後も滾る萌えを綴っていこうと考えています。宜しければお付き合い下さい!


うん。こんな感じでどうだろうか? これで行こう。僕は、投稿することにした。どんな反応が返ってくるのか少し怖かった。ちなみに活動報告は、R18であっても、コメントが投稿できる仕様だ。専用のメッセージボックスもある。最近整備されたのだ。
僕は指を組んで反応を待った。時計の秒針の音が嫌に耳についた。
それから更新ボタンで画面を更新すると、赤い文字が出た。
――新着のコメントがあります。
うわああああ。僕はドキドキして、目をきつく伏せた。反応が怖い。それでも片目を開けて、ウィンドウに触れて、活動報告を開いて下部を見る。すると。

『茜:僕も腐男子です!』
『汀:昨日見てました!』

と、おおおおおおおお、既にカミングアウト(?)をすませていた二人から反応があった。
僕からすれば雲の上の作者さん達だ。嬉しいような複雑な気持ちで胸が震えた。
他にも沢山のコメントがすぐに返ってきた。
一番多かった反応は――……新作の誤字脱字報告だった。
後は、印象に残っているコメントは、『更新速度的にひきこもりだと思っていました。ですが、異世界トリップしたと報道された後も速度が変わらないため、ひきこもりではなかったのかと疑っていたので、すっきりしました』だった。何でも続きを読んでみると、『異世界トリップ後、更新が滞っている作品が多いため、更新されると嬉しいです』と書いてあった。嬉しい……嬉しい! 僕の方がそのコメントに嬉しさと喜びを感じた!
僕は投稿当初の頃は、コメントや感想、拍手に返事を逐一していたのだが、最近ではしていない。今回はしてみようか……しかし今の僕はネットでもコミュ障なのだ(ネト充になりきれない)。しかしおおむね快く受け入れられて、僕はBLサイドの心の広さを知った気がした。本当に皆様有難う! そう考えて、僕は今日は良い夢が見られそうだと思ったのだった。