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さて弟子達と離れて、僕の生活は早速不規則になった(まだ一度も【ギルドーホーム】には行っていない)。目が覚めると午後の十八時頃なのだ。そこから小説を書き始めて、翌日の二十時頃眠る。そしてまた翌日十八時頃起きるのだ。二十六時間活動して二十時間寝ている。ある意味規則正しい。大体起きている間と起床後三時間ほどで更新しているので、更新は予約投稿を用いてはいないが毎日している。
短期集中更新を決意したのだ。今はひたすらそれのことだけを妄想していて、ずっと打ち込んでいる。打っていない時も、立って歩いている時、お風呂に入っている時、そのほぼ全ての時間、呼吸するように妄想が広がっていく。こうなった僕は手がつけられない。
見る物聞く物もすべて、ネタの一部となっていく。例えば食事をしていれば、登場人物達の食事妄想が開始されるのだ。大体一日約二万字ペースで打っている(更新しない分を含めるともうちょっと多い)。今十五万字くらいだ。このペースが僕にはあっている。まぁぼくの一日は現在二十四時間計算ではないが……。
ちなみに僕はこのガッツリ寝る型の他に、ナポレオン型の睡眠ペースも体内時計に気ざまられている。そちらは十八時間活動して三時間眠るのだ。どちらもベースとなっているのは、学生時代のテスト前の一夜漬けではないだろうか。僕は自慢ではないが、集中力はあるが持久力がないため、短期集中型なのだ。集中力は持って一週間から二ヶ月。だからなんとしても集中力がある間にこの連載を終わらせたい。
今回の連載物は、執事ネタだ。だが、主従ではない。主人がいなくなってしまった執事の総受けだ。次ぎに執事を(愛故に……総愛され)我が物にしたい人々による争奪戦だ。目指せらぶえっち! 総受けでらぶえっちは案外ハードルが高い。というからぶえっち自体が僕にとってはハードルが高いのだ。僕は愛があり痛くない系の無理矢理を書くことが多い(!)。悔しいがジャックが言っていたことはあたっているのだ。
そして今日の更新分で完結予定だ。僕は視界の隅の手紙マークのアイコンが点滅していることにも気づかずひたすら打った。打ちまくった。兎に角書きまくったのだ。そして。そ・し・て! 完結した――!! やった――!! 完結ktkr。完結したよ! 完結したよ! 全身を高揚感に襲われる。歓喜で僕は震えた。この瞬間の嬉しさといったら無い。読み返すのもそこそこに更新する。そして次話投稿ボタンを押した瞬間、僕はガッツポーズをした。喜びにうちひしがれて、立ち上がり……踊った。ステップを踏み、感動を全身で表現した。僕は音痴の上に音楽センスはなくリズム感0だが、誰も見ていないのだから良いのだ。その後、遅れてやってきた完結への安堵に脱力し、近くのソファにぐったりと座り込んだ。手は握りしめたままだったが。片手を広げて、珈琲を出現させて、にやけきっている顔を沈めるべく、一口飲んでみる。それにしても完結した。うわ、嬉しい。どのくらい嬉しいかというと、感想で『続きを楽しみにしています。お体に気をつけてご自愛下さい。いつまでも待っています』と言ってもらった時なみに嬉しい。
「失礼する」
そこへ凛とした声が響いた。驚いて顔を上げると、怜悧な目をしたヤマネが立っていた。≪空間移動魔術≫だ。僕は、以前侵入者が出てから結界を強化していたのだが、この魔術は、ひきこもり特有の魔術らしく、結界にひっかからなかったのだろう。
「さっきの変な動きは何だったんだ?」
「――へ?」
「お前がギルド会議への呼び出しに応じないから、みんなで魔術ウィンドウを開いてこの部屋を表示させたら、お前がくねくねじたばた動いていた。書きすぎでおかしくなったのか?」
「っ」
見られた。見・ら・れ・た! 僕の先ほどの歓喜の舞を、見られた――!!
羞恥で僕はクッションを神速でたぐり寄せ、顔に押しつけた。はずかしい。穴があったら入りたい。どうしよう。なんて返事をすれば良いというのだ。
「それとも新しい魔術行使の動作か? もうちょっと見目に気を遣ったらどうだ? 魔法陣でも呪文でもなく、動作で発動させるという案は悪くはないだろう」
「……それって各地の全員に見られてたの?」
「安心しろ。ギルド特典の、ギルドメンバーの所在地確認ウィンドウで見ただけだ。見たのは俺と央だな」
安堵しながら、ぐったりとソファに沈み込み、僕は少し考えてから大きく頷いた。
「いつも君たちが、飲み物などを出現させる時に手の動作だけで出していたから、動作で発動する魔術も良いかなと思ったんだ」
そして言いつくろった。恥ずかしくて、嬉しさのあまり踊っていたとはバレたくなかった。
幸い今回は歌ってはいなかったが、いつもは歌まで歌っている時もあるのだ。
「なるほど。で? 最近は環の所にも顔を出していないそうだが」
「あ」
すっかり忘れていた。それだけ書くことに熱中していたのだ。勿論薬も飲み忘れている。
「ギルド会議の連絡に出ないのも、環が自分のせいだと言って落ち込んでいたが、何かあったのか?」
「え……え、え、あ、いや、な、何もないよ?」
「そうか。開催は一時間後だ。来られるか?」
「ああ、うん。分かった」
「では先に戻っているから、時間になったら来てくれ」
ヤマネはそう言うと姿を消した。僕は、腕を組んでそれを見送った。
ふと考えたのだ。足で二回地面を踏むと発動する魔術だとか、右手を振ると発動する魔術だとかを仕込んでおくのは悪くない。現在は、そうしながら魔法陣を脳裏に描かなければ発動しないのだ。思い浮かべる余裕がない時用に、攻撃と結界の魔術を仕込んでおこうかな。ヤマネ、良い事考えてくれたな。
さて思い立ったら即実行の僕である。完結の心地の良い疲労感があるし、実際には普段は、例えば掃除だったら、掃除しよう掃除しよう掃除しようどこからしようええとあれをこうして、と考えるだけで終わる僕ではあるが、今回は即実行した。
そうしていたら一時間はすぐに経ったので、僕は移動した。
「新しいS級クエスト内の一つに、帰還カードとおぼしき物が見つかりました」
僕が行くと、既にみんなそろっていた(みんなここに住んでいるから早いのだろうか?)。
一応僕は時間厳守したのだが。
なんとはなしに皆を見渡しながら席に着く。ネックウォーマーに深々とフードを被った姿は変わらない。何せこの会議の方は、各地で中継されるだろうと踏んでいたからだ。
やっぱり僕は顔を出すことには抵抗がある。そんなことを考えていたら、環がこちらを見て安堵するように吐息していた。僕の中では既に過去のことになっているが、すごく気にしているらしいのが伝わってくる。僕は嫌なことを忘れるのが人よりも早いのだ。嫌な事なんて言うのは失礼かも知れないが、媚薬ウイルスは僕にとっては間違いなく黒歴史だ。
三月がそれからも概要を僕に説明してくれた。
「次は”魔術師”の館で、地上型ダンジョンです」
「魔術師とついているくらいだから、チェシャは気をつけた方が良いかもね」
帽子屋が頬杖を着いてそんなことを言った。何に気をつければいいのかは分からなかったが、兎に角ウイルスには気をつけようと、僕は頷いた。
「決行は明日にしようと思うのですが、急ですか?」
三月が僕を見た。作品が完結した今、僕は少し執筆ペースを落とそうと決意しているので、そこまで忙しくはない。ま、まぁ勝手に忙しくしていたのは自分なのだが。
「大丈夫だよ」
頷きながら答えると、ヤマネが大きく頷いた。
「一刻も早く制覇しなければならない。頼んだぞ」
「僕も、早く他のジャンルも読みたいから、恋愛とファンタジーとBLしか読めないここから、早く帰還したい」
時計兎もまた頷いた。終始無言なのは環だけだった。
僕が言うことではないかも知れないが、そんなに気にしないで欲しい。僕は断言してノーマルだが、本当に環が悪いとは思っていないのだ。
そんなこんなで、その日の会議は終わりを告げた。