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翌日、僕達四人は、魔術師の館へと向かった。
外観は普通の洋館だった。普通……江戸川乱歩の世界に出てきそうな洋館が、僕の中の普通である。蝋人形の振りをして入り込んでいた人間が歩き回っちゃう感じだ。幼い頃僕は少年探偵団に入りたかった物である。思えばあのころから、僕には空想癖があったんだな……。まさかBL道に転がるとは思ってもいなかったが。僕の小説の読み手としての歴史は、乱歩からだ。だから処女作(小五)は、推理小説もどき――と思いきや、忍者物だったのは良い思い出だ。僕はあのころ、え、あれ、この世界に忍者いたら、忍者最強じゃないか、等と考えていたのである。この世界というのは、当時の現代日本で、僕の中で忍者はチートだった。チートと言えば、主人公最強もの小説は美味しい。性行為の時だけ最弱化するところまでがテンプレだろう。全然最強じゃないのだ。あ。性行為が主人公最強の総攻めも美味しいんだった。僕の各作品は圧倒的に受けが主人公であることが多いが、たまに攻め視点でも書く。ちなみにリバも嫌いではない。ただリバは好き嫌いが分かれるからな。TSと同じくらい好き嫌いが分かれると思う。僕は女体化・妊娠何でもこいなのだが。我ながら節操がない。なお、いつの日にか書いてみたいのは、オメガバースだ。
ちなみに出発前に弟子達二人に、課題として「乳首責め」と伝えてきた。帰還が楽しみな限りである。

「入りますよ」

三月がそう言ってとビラを開けた。僕が最後に入る。すると、視界が二重にぶれた。え?
驚いていると、アナウンスが響いてきた。

「魔術師トラップ――魔法陣封じ、呪文封じ、完了しました」

ポカンとした。すると帽子屋が片目を細めた。左右非対称なその表情を見る。

「魔法陣と呪文が使えないんじゃ、魔術師はここでは無力だね」

実はそうでもなかった。ヤマネのおかげで、今の僕は、魔法陣や呪文無しに魔術が使えるのである。試しに踵を二度慣らしてみると、≪反重力魔術≫が無事に起動し、鉄板を仕込んだ靴の重みが消えた。これがなかったら、普通に歩くのは無理だ。

「チェシャのことは私が守ります。命に代えても」

しかしその事を言う前に、三月が僕に振り返り、儚く笑った。
ちなみに僕は胸の中で顔面イケメンランキングを創っているのだが、三月はその堂々たる一位だ。ちょっと同性でも見惚れてしまう笑みだった。曖昧に頷いた時、ギュッと隣から手を握られた。視線を向けると、僕を見ないままで環が呟いた。

「俺も命を賭して守る」

環に握られた手が温かい。そう言えば全然関係ないが、僕は最近猫の手手袋が欲しいのだ。巨大なぬいぐるみっぽい手袋なのだが、爪がついているため、物理威力がある。家に帰ったらポイントで買ってしまおうかな。猫の手スリッパも欲しかったりする。あちらは足音を完全に消してくれる効果があるらしい。何故なのか最近、放送ギルドのニュースを食事時などにみると猫グッズが流行っているのだ。なんでなんだろう? 僕も猫は大好きだけど。そうして手を大人しく握られていたら、なんと三月が眉を顰めて、急に僕を抱きしめるようにして引き離した。

「結構ですよ、ハンプティ・ダンプティ。私が守るので」
「離せ。チェシャを守るのは俺だ」
「貴方にそれが出来るのですか?」
「っ……そ、それは……」
「貴方は寧ろ足手まといです! 魔術が使えないチェシャよりも!」

二人が口論を始めると、呆れたように帽子屋が溜息をついた。

「三月、君は言い過ぎだ。環の回復力はあてになる。そして環。確かに君にチェシャを守れるとは思えない。大人しく僕達の後を着いてきてもらえるかな」

帽子屋が笑顔で言い切った。言っていることは的を射ている気がするが、結構毒々しい。ヤマネの方が毒舌というか酷いことを言うが。ただ冷静なのは間違いない。頼りになりそうだ。

「それと二人は迫り方が露骨すぎるね。僕のようにスマートに行くべきだ」
「「は?」」
「チェシャを最終的に手に入れるのは、恋愛経験値MAXの僕だと思うよ」

にこやかな帽子屋と、眉を顰めている二人。僕は所在なく無言で立っていた。
それはそうと、確かに今回、僕は足手まといだろう。――少なくとも敵にはそう思わせておいて損はない。ちなみに今僕が使える攻撃は、鉄板を仕込んだ靴を叩き込むという半物理的な魔術、右手を斜めに下ろして二回転させると発動する『【BLスイッチ】――、琥珀ベルンシュタイン』(相手の真上に氷柱っぽい琥珀を直撃で落とす)、両手十回拍手すると発動する『【BLスイッチ――、珊瑚コラレ真珠ベルラ水晶クリスタッロ】(範囲魔術で、巨大な宝石がスタンプのように敵を押しつぶす)、五秒目をつぶると発動する『【FTスイッチ】――インストール』だ。名称が、独語、伊語、英語とごちゃ混ぜなのは、僕の仕様である。中2心をくぐられれば何でも良いのだ。今回は、攻略なので、攻撃魔術を使うとばかり思っていたから、治癒魔術と結界(防御)魔術をしこんでこなかった事が悔やまれる。
まぁ、守ってくれるらしいので、任せよう。人に守られた経験など無いので、ちょっとだけ楽しみだ(不謹慎だけど)。

それから僕達は進んだ。最初の部屋は、魔術師向けの先ほどのトラップだけだった様子だ。

次の部屋にはいると、家具が全部ひっくり返った部屋だった。ギンガムチェックの床の上に、巨大な机や椅子がひっくり返っておいてある。壁も同様市松模様。視界がチカチカする部屋だった。そんなことを考えていたら、僕の周囲から人がいなくなった。あれ? ふと見上げてみれば、僕以外の三人が天井に激突していた。ああなるほど、僕は鉄板を仕込んだ思い靴を履いている上に、重力を思いのままにする≪反重力魔術≫を(ひっそりと)用いているため、何ともないのか。すぐに飛び降りてきたのは、帽子屋だった。
杖で天井を強くついた反動で飛び降りて、その杖をくるりと回して、その場の磁場を変えたらしかった。ネクロマンサーは、横たわっているものを無理矢理立たせて動かすから、その術の応用なのだろう。上を見上げて帽子屋は、再び杖を振った。すると上下が治ったようになり、三月が降りてきて着地した。環は、今度は床に激突している。
僕はただ一人平気だったことをなんと言い訳しようか考えていたのだが、誰も何も言っては来なかった。

その後も僕達は進んだ。次の部屋では、横の壁に全員が叩き付けられそうになったが、三月は床を蹴り倒して足を引っかけて無事だった。帽子屋は最初から磁場を作り出していた。激突したのは環だけである。僕は当然平気だ。その時が右の壁で、次が左の壁、最後が床だった。(環以外は)ほぼ無傷で進み、最後の部屋の前に立つ。すると環が言った。

「良いか、今度こそ最後まで人の話を聞けよ」

気まずそうに帽子屋と三月は視線を逸らした。僕は静かに頷いた。
こうして中へとはいると、そこには、黒いローブを被った人物が一人立っていた。

「我が名は”魔術師”。すぐにお前達を塵芥と化してやろう」
「結構です。それよりも貴方を倒すとどうなるのか教えて下さい」
「帰還カードがオープンされる」
「それは分かってるんだよね。そうじゃなくてさ、前の”塔”みたいに、ウイルスとかあるの? それとも”恋人達”みたいになにもないの?」

帽子屋の声に、媚薬ウイルスのことは知られていないのだとわかり、僕はホッとした。

「――獣にする”呪い”を我は持っている」

なるほど、ウイルス――もとい、呪いか。あれは呪いだったのか。確かに呪いだったよ……。

「それも一週間もあれば消えるのか?」
「続かぬ、死せば」

環の問いに魔術師が言った。素直に答えてくれるのだから良い敵だ。僕が敵だったら絶対に言わないよ。こういうところは、やはり基本的には、ひきこもりがなおったら帰還させようという意志が見える。とすれば、問題は、この異世界自体――ピーチティ王国なのだろうか。そう考えていた時、魔術師が両手を広げた。瞬間、大量の魔物が現れた。

「まずい、これは範囲がないと」
「私達の速度でも一対ずつ倒すのは時間がかかりますね」
「うーん、困ったね」

三人がそう口にした時には、僕は、動作を開始していた。範囲殲滅魔術をぶっ放す。すると魔物は一度に全滅した。しばしそこには無言の空間が生まれた。それから三人がそろって僕を見た。

「やっぱり魔術、使えたんだね。予知してたから知ってたけど」

帽子屋がにこやかに言った。すると三月が首を傾げた。

「呪文も魔法陣描画も無しにですか?」
「どうやったんだ?」

環に聞かれたので、僕は、動作で発動する魔術について説明した。
すると三人が頷いてくれた。それに僕が頷き返した時には、三月が魔術師の腹部に膝を叩き込んでいた。同時に帽子屋が杖をふり、魔物の以外全てを操って立ち上がらせた。やはりあの杖は、ネクロマンサーの武器なのかも知れない。傘の柄にしか見えないけど。それからすぐにアナウンスが響いてきた。

「帰還カードオープン――三つ目のカードが公開されました。攻略、マッドティパーティ」

そしてギルド名までアナウンスに入った。情報タブを見ると、ギルドにもポイントが入っていた。これならばすぐにギルドのポイントはたまりそうだ。本を読んだ限りだと、ポイントが溜まれば溜まるほど、様々な恩恵を受けられるらしいのだ。例えば回復の温泉などが着いたりするらしい。それに入れば、残存ダメージや疲労感まで消えると書いてあった。是非とも入ってみたい物である。

こうして僕達の今回のクエスト攻略は終了したのだった。