<26>★
そして獣ウイルスであるが――僕は気がついた。ウイルスへの対処法を聞いていないと言うことに。そう思ったのは、自分の頭部に違和を感じた時だった。おそるおそる手を伸ばしてみると、なんとそこにはネコミミがついていた。え。ポカンとして他の三人を見る。三月の頭の上には、ウサミミがついていた。しかし帽子屋と環には変化がなかった。
「ぷは、可愛いね」
帽子屋がお腹を抱えて笑い始めた。何で二人は平気なのだ。同じ事を三月も思ったようで、彼は目を細めた。
「何故あなた方は平気なのですか?」
「俺は感染予防の空気の膜を自分の周囲に張ってる。残念ながら、自分の周囲にしか張ることは出来ないんだけどな」
「僕は倒す時に、息を止めたんだ。息というか心臓を一時的に止めた。自分の命も操れるから。ええ? 君たち何も対策してなかったの?」
馬鹿にするように帽子屋がにこやかに言った。やっぱり腹黒微笑だ。それにしてもなんと言うことだ。対策をしていなかったのは、僕と三月だけだったらしい……。どうせなら事前に僕と三月にも教えて欲しかった。
気づいてみれば、尻尾もついている。おそるおそる手を見れば、肉球まであった。僕は獣人ネタは好きだが、自分がなるのはお断りだというのに。
だがどうしようもない。どうせ一週間の辛抱だ。ということで、僕達はそのまま家へと戻った。そして僕はこんな姿を人に見られたくないので、引きこもることに決めた。
異変に気がついたのはその日の夜だった。
熱い、熱いのだ。やはり風邪の熱とは違う熱さだった……これは、これは、あれだ、801媚薬的熱さだ。しかも今回は、801媚薬以上に酷い。ガクガクと、座っているだけで体が震え、息が上がった。なんだこれ。最初は何が起こっているのかさっぱり分からなかった。どうしてネコミミがついたからと言って体が熱くなるのだ。両腕で体を抱く。その間も背筋をもどかしさが這い上がっていく。必死で僕は考えた。そして理解した。それもまたからだが本能的に悟った感覚だった。
――発情期……?
それ以外考えられなかった。もう脳内が、ヤりたいという感情で埋め尽くされていく。他には何も考えられない。触っているわけでも何でもないというのに、自然と僕の陰茎は立ち上がっていた。うあ、辛い。思わず椅子に座ったまま、太股を擦り合わせてしまう。吐息するだけでも辛くて、涙ぐんだ。
三月がやってきたのは、その日の夜だった。シャワー(冷水)につかり、必死で快楽を抑えていた僕が浴室を出ると、立っていたのだ。
「無断で入って失礼します」
「……ううん、それはいいんだけど……」
体が良くないのだ。そう思った瞬間には、僕は気づけば、近場のソファに三月を押し倒していた。自分の体が制御できない。
「チェシャ、今の私はどうしようもなく体が熱いのです」
「う、ん」
「発情期ではないかと、相談した央に言われました。今は三月ではありませんが、兎には発情期があります」
三月はそう言うと、僕の首筋を撫でた。僕はそれだけで果てかけて、背を撓らせた。そして次の瞬間には、三月の唇を奪っていた。触れるだけ、なんて物じゃなかった。僕にはそんなスキルはないのだが、必死で三月の唇を貪っていた。気づけば舌を差し込んでいて――……「ンっ、あ」それを甘噛みされた瞬間、身をひいて声を上げた。しかしすぐに三月の手が、僕の顔を改めて引き寄せて、今度は三月の側から深々と口づけられた。本当に三月はキスが上手い。これは恐らく発情期だから思うのではない。酩酊感に似たクラクラ二襲われながら、僕達は何度も何度もキスをした。僕は自分の目がうつろになっていくのが分かった。体から力が抜けていく。ゾクゾクゾクとキスだけで快楽が強さを増していった。
三月に反転させられたのはその時だった。
「貴方にも発情期が来ているのですね」
「う、うん、た、ぶん……はっ」
「正直私は、発情期でなくとも貴方を抱きたいとずっと思っていました」
そう言ってから、三月が僕の首筋に噛みついた。
「ああっ」
その刺激に僕の陰茎は、限界まで張りつめた。
僕はその時は、僕がしたなのか、だとか何にも考えていなかった。ただただ快楽に身を絡め取られていて、出したくて仕方がなかったのだ。引き裂くようにシャツのボタンを外されて、乳首を舐められる。
「やあぁ……あ、ああっ、ン」
「舐めなさい」
「ん」
三月がそう言うと、三本の指を僕の口の中へと入れてきた。訳が分からなくなっていた僕は、無我夢中でその指を舐めた。その内に今度は、指先で舌を刺激されて、それだけで僕は達しそうになった。全身が気持ちいい。どこもかしこも気持ちが良いのだ。脇腹をもう一方の手で撫でられて、僕はついに涙をこぼした。
「あ、ああ、あ」
涎が零れる。止められない。三月はそれから僕を四つん這いにさせると、後孔を舐め始めた。襞を一本一本舐められて、時折舌先が中へと押し入ってくる。ガクガクと震えながら、僕はソファに爪を立てた。
「ふぁあッ、あ、あ」
そこへ一気に三本の指を突き立てられた。驚いたことにいた見も何もなく、すんなりと僕の体はそれを受け入れた。内部でバラバラに動く指に、腰が震えた。グチャグチャと淫靡な音がする。三月の圧倒的な熱が入ってきたのはすぐのことだった。腰骨をもたれて、奥深くまで突き入れられる。入りきった時、それだけで僕は果てた。しかし熱は収まらない。硬度を保ったまま、陰茎は萎えることをしなかった。
「っ、中がひくひくしていますね。絡みついてくる」
「ゃ、あ、ンッ、あ……う、動いて……」
気づけば僕は自分から腰を振っていた。気持ちの良い場所にあたって欲しくて、体を突き出し情けなく体を揺らす。しかし三月は動いてはくれない。
「やァあっ、あ、あ……あ……ああっ……」
繋がったままなのに動いてもらえず、全身が汗ばんでくる。何度も荒い吐息をして熱を苦そうとするのだが、上手くいかない。三月は僕の腰を掴んで身動きを封じているのに、中を味わうように体を動かさない。何かがせり上がってくる。ああ、駄目だ。駄目だ、こんなの。
「うあア――――!!」
感じる場所を突かれたわけでも何でもないのに、僕はそのまま二度目を放った。体から力が抜けて、腕をソファに預けて、そこに額を押しつける。するとギュッと両手で三月が僕の乳首を摘んだ。走った痛みすら快楽に変換される。
「あ、あ、あ、あ、あ」
もう僕は意味のある言葉を発することが出来なかった。三月は動かないままで、僕の乳首をこねくり回す。すると胸からの刺激が全て、体の中心に直結した気がした。また僕の陰茎は立ち上がる。一度も前を触られてなどいないのに。ただ出したくて、僕はソファに陰茎をこすりつけようとした。すると背中に体重をかけられて、僕は後ろをつきだしたままの体勢で身動きを封じられた。
そしてようやく抽挿が開始された。ギリギリまで陰茎を引き抜かれては、ゆっくりと中へと突き立てられる。それが何度も繰り返されて、水音が響いてきた。もっとむちゃくちゃに激しく貫かれたかった。羞恥心など、理性など、消え失せていた。
「三月、三月、うあああ」
その時感じる場所を強く刺激された。そのままその場所に三月は陰茎をあてがったまま再び動きを止めた。だめだ。おかしくなる。このままでは気が狂ってしまう。恐ろしい程の快楽に、僕の視界は真っ白になった。ソファと僕の腹は、既に精液でべとべとだというのに、再び白液が散る。
「うあああああああああああああ――!!」
直後、これまでが嘘のように激しく抽挿された。腰を掴まれ、ガンガンと犯される。中を抉られ、その熱の暴力に僕は涙した。紛れもなく快楽からの涙だった。それから少しして、僕は中に飛び散る熱い感覚を知った。ドクドクと注がれる。結合部から、それが垂れていくのが分かった。しかし僕の体は熱いままだ。だが。
「……――おさまりました」
「あ、あ」
「貴方は?」
「やああっ……足りない、足りないよっ、うあ、あ、も、もっとぉ」
僕はそんなことを口走りながら、涎と涙をこぼした。すると、僕の中で、次第に三月が再び硬度を取り戻した。
「なるほど、発情期だけあって、種を中に出さなければ、収まらないのでしょうね」
「あ、ハ……え……じゃ、じゃあ僕は、あ、はっ、お願い、三月、う、動いて」
しかし三月は動きを止めたままだ。僕は腰を再び何度も動かした。何も考えられないのだが、必死に考えようとした。三月の言葉の通りだとすれば、だ。僕は誰かを抱かなければ、この熱が収まらないのだ。今、頼めるのは――……僕は涙で滲む視界に三月を捉えた。
「三月、お願い、ヤらせて」
「お断りです」
「なっ……うああっ、やああっ」
「私は上をする分には良いですが、いくら貴方が相手であっても下は嫌です」
三月はそうきっぱりと断言して、満面の笑みを浮かべた。
それから――僕のネコミミを両手で撫でた。
「や、ああっ、ヒっ」
「ここも感じるのですか?」
「あああ」
「ではここは?」
そして今度は尻尾を引っ張ってきた。ガクンと体から力が抜ける。
「ねぇ、チェシャ」
「ああ、っ、は」
「上にのって下さい」
三月はそう言うと僕の体を持ち上げて、ソファに寝そべった。僕はその上に跨る。一度引き抜かれたのだが、体の震えは止まらない。
「貴方からシテ欲しいのです。自分で中へ」
「うう」
気づけば僕は、無我夢中で腰を下ろしていた。僕の体に手を沿え、三月が満足そうにそれを見ていた。入り口に、三月の陰茎を感じた時、一瞬だけ恐怖を感じた。けれど快楽しか考えられず、僕は腰を落とした。途中まで入った時、押し広げられる感覚に震えた。すると腰を掴まれ、一気に挿れられた。
「あああああああああああああああ、深い、深いよっ、うあッ」
「ご自分で動いてみて下さい」
言われるまでもなかった。僕は必死で体を揺らした。揺らしていた。ボロボロと涙が頬を伝っていく。
「色っぽいですね」
「うん、は、あ」
「気持ちいいですよ」
「や、やああっ、動いてっ」
しかし三月は動いてくれない。だから僕はただ必死に自分で動いた。
――それから何度果てたのか分からない。僕の先端からはもう透明な滴しか出ない。
何時間経ったのかも不明なほど、その後気づけば寝室で僕は三月に貫かれていた。様々な角度で体を味わい尽くされた。今は片方の太股を持ち上げられ、斜めに突き上げられている。そうされると、前立腺に直接あたるため、ビリビリと全身に電流が走ったようになる。僕はひたすら泣きながら声を上げた。意地悪く焦らすように、ネコミミを擽られると、もう駄目だった。三月は、意地悪だった。自分の側の熱が収まっていることもあるのだろう。僕を焦らしに焦らしまくって、その後になって激しく突き上げてくるのだ。
そしてようやく我に返ったのは、熱が引いた時だった。
「今、いつ……?」
「三日目です。恐らく適切な処置は、誰かの中に注ぐこと、普通のSEXだと三日程度で収まるウイルス――呪いだったのでしょうね」
僕の声は掠れていた。僕から陰茎を引き抜いた三月が、それから隣に横になった。そして力の入らない僕の体を抱き寄せた。
「責任は取ります」
「別に良いよ……」
「取らせて下さい。こんなにも幸せな時間が訪れるとは思ってもみませんでした。可愛かったですよ」
ようやく羞恥心を取り戻した僕は真っ赤になってしまった。頬が熱い。発情期だったとはいえ、僕はなんと淫らな行為をしてしまったのだろうか。それからシャワーを浴びに行くと、全身がキスマークだらけだった。軽い噛み傷もある。全身の力が入らない。
あがってから、僕は改めて三月を見た。本当は恥ずかしくて三月を見たくなかったのだが、仕方がない。
「こ、今回のは、あくまでも呪いのせいだから、だから、無かったことに……」
「嫌です」
「っ、お願いだから」
「貴方のお願いでもこればかりは聞けません。もう貴方を手放すだなんて考えられない」
「三月。僕は、僕の気持ちを大切にしてくれる人が好きだ」
「……っ、では、私のことを好きにしてみせます」
「それまでは指一本触らないで」
「約束は出来ません。もう私は貴方の素晴らしさを知ってしまったのですから」
素晴らしさって何だ! ただ僕は、しっかりと口止めした。
「今回の件、誰かに言ったら、僕は君のことが大嫌いになるからね」
「央は悟っていると思うのですが……」
「他の人には絶対に言わないでね」
「……わかりました。では、そろそろ私は帰ります。また」
このようにして、僕にとっての最悪の呪いはひとまずとけたのだった。
ああ、腰が痛い。我に返った僕は、なんだか自分の体に悲しくなって泣きそうになったのだった。