【7】僕は、痛いのが好きだ。(★)
嘗ての部下――一歳年下の僕の養子は、僕よりもずっと背が高い。外見も、僕よりあるいは老けている気がする。ただ、彼に対する世間の評価は、『大人っぽい』だったし、今では、『大人の余裕がある人物』とでもなっている事だろう。
堂々と彼が、この街で一番の高級ホテルに足を向けた時、その場にいた人々は、ヒルトに羨望の眼差しを向けた。姿を変えている僕には、好奇の視線が飛んでくる。そのままエントランスを素通りし、彼は僕を伴い、最上階の一室へと入った。一室というか、そのフロアには、この部屋しかないようだった。
施錠音を耳にしながら中を見渡すと、巨大な窓が見えて、街を一望できるようだった。所々に、色とりどりの魔術灯が見える。高層階のホテルの一室は、高級感に溢れていて、窓際の巨大な横長のソファの前には、飲みかけのワインの瓶とグラスが見えた。
小さな仕切りがあるだけで、隣の部屋もよく見える。そちらは寝室のようで、豪奢なベッドが占領していた。
「……」
さて、服を脱いで、さっさと終わらせるか。と、考えながら、僕が自分の首元に手をかけた時、すぐ後ろにヒルトが立った。そして、そっと僕を、後ろから抱きしめた。あんまりにも優しい腕の感触に、僕はこのまま捻り殺される事は無いだろうと漠然と考える。
「ずっと俺は、こうしたかった」
「へぇ」
「その薄い反応を、すぐに変えて差し上げますよ」
僕の耳元でそう囁くと、ヒルトが後ろから回している手で、僕の服のボタンを外し始めた。道中で、戦闘用の服から、通常の服に着替えていた僕は、ポツポツと外されるシャツのボタンを意識して、これなら帰りにも着用できそうだと安堵する。
「ん」
そのまま――脱がせ終わられるとすぐに、床に押し倒された。毛足の長い絨毯に、僕は顎をぶつけたが、そんな僕には構わず、後ろからヒルトが体重をかける。
「あ」
そして、慣らすでもなく、僕に挿入した。
何もしていないというのに、既に彼の陰茎はそそり立っているようだった。
この時になって初めて、僕はヒルトが本気だったのだと、改めて理解した。
「うあっ」
顎の下に手を回されて、首を持ち上げられる。視線だけを動かして、僕のすぐそばにあるヒルトの顔を見ると、いつもとは異なり非常に獰猛な瞳を、ギラギラと輝かせていた。既に彼の吐息は荒い。
「あ、ああっ、ッ」
そのままググっと奥まで貫かれ、僕は思わず喘いだ。絨毯に僕の陰茎が擦れる。
「慣れてますね、ラーゼ様」
笑うように、耳元でヒルトが言う。僕よりも背が高いせいで、彼にはそうする事が易いらしい。それからヒルトは、僕のうなじを、後ろから噛んだ。瞬間、ツキンと僕の体に快楽が走る。実際、僕は慣れている。だから――こうして無理に挿入されても、すぐに体は熱を持つ。
「あ、あ、あ」
ヒルトが荒々しく抽挿を始めた。次第に、僕の息も上がる。
気づくと僕は自分で尻を突き出していたし、ヒルトの手は僕の腰へと移動し、ギュッと掴んで、激しく腰を打ち付けていた。肌と肌が奏でる乾いた音を耳にしながら、僕は喘ぐ。酸素を求めて口を開く度に、僕の唇からは嬌声が漏れた。
「ン、あ、ああっ、はッ」
「ダメだ、一回出します」
そう言うと、ヒルトが僕の中に放った。僕の方は、まだ出していない。あんまりにも早すぎて、完全に消化不良だ。
「君、早漏?」
「――いえ。長年の夢が叶って、つい」
「ふぅん。あのさ、僕全く満足できてないんだけど」
「今から、存分に満足させます」
「へぇ。君にそれが可能だと期待するけど、無理なら無理でも、仕方がないよ」
僕が本心からそう言うと、ヒルトが肩を落とした。僕から見ると、彼に大人の余裕などない。
「ン」
後ろから、挿入したままで、ヒルトが僕の陰茎を握った。
小さく僕が声を漏らすと、気をよくしたように、彼が手の動きを早める。
「あのさ、うん、確かに僕は出したいんだけど、それで満足しろって事?」
「――ちょっと黙っててもらえます?」
「あ、ごめん」
僕が素直にそう言うと、ヒルトが呆れたように溜息をついた。
そのまま僕の陰茎を扱きつつ、彼は――再び勃起しているようだった。
「うん、あの、僕のを触るだけで、勃つの? すごいね」
「だから、いい加減黙れ!」
怒られた。僕は言いたい事が沢山あったが、黙る事にした。
すると、その内にだんだん気持ち良くなってきて、僕の先端からは蜜が漏れ始めた。
まぁ、及第点だな。そう、僕が思った時である。
「!」
根元を捕まれ、もう片方の手で、いきなり体勢を変えられた。
深々と彼の陰茎が僕の中を抉る。
後ろから抱き抱えるようにして、僕を上に乗せて、ヒルトが笑った。
「んぅッ」
巨大なものが存在感を増したように感じたのは、前立腺を突き上げられた時だった。僕はそこを強く刺激されると、前で放ちたくなる。だが、ヒルトの手が、それを許してはくれない。
「まだ、夜はこれからですからね」
「……朝までには終わらせてもらえるんだ?」
「ええ。まぁ――ニコ殿下が起きてしまうし、ラーゼ様、それは困るんじゃ? 俺、別に好きな人に意地悪したいわけじゃないんで。そういう方向では」
「別の方向だと意地悪したいって意味?」
「そりゃあ、まぁ。今からそうさせてもらうつもりです、存分に」
「ン、あ!!」
直後、僕は陰茎の根元に冷たい感触を感じた。視線を落とすと、金色のリングが嵌っていた。
「すごい変態趣味だね」
「こういうの、お好きなんじゃ?」
「んぅッ」
続いて、ヒルトは僕の両乳首を摘んだ。ギュッと激しく、強く、押しつぶすようにされた瞬間――僅かな痛みと共に、快楽がこみ上げてくる。開発されきっている僕の体には、その痛みが気持ち良いのだ。
「ああっ」
さらに強くつままれて、僕は声を上げた。少しだけ爪を立てられた瞬間、腰から力が抜ける。すると、より奥まで、ヒルトの陰茎が入ってきた。彼のものも次第に硬度を取り戻しているのが分かる。僕の中で、どんどん大きさを増していく。
「ひッ」
その時、両方の乳首に、イヤーカフスを嵌められた。刺されたわけではないのだが、ズキンと痛む。それが――どうしようもなく、気持ち良い。震える僕の唇を、後ろからヒルトが指でなぞる。そうしつつ、彼は僕の左耳に舌を差し込んだ。
「やっぱりな、痛いの、大好きなんだ? ラーゼ様は」
「ッッッ」
「顔、蕩けきってますよ。瞳も、だ。気持ち良さそう」
ニヤニヤするようにそう言うと、ヒルトが体を揺さぶる。
「ああっ、ン、あ!」
感じる場所を強く突き上げられて、僕は涙した。出したくて、太股が震え始める。膨張した僕の陰茎からは、止めどなく蜜が溢れていく。まだ一度も果てていないまま、僕の地獄が始まった。
「あ、あああっ、うあ、ああ! っ、う、ん、ン!! うあ」
何度も何度も、内部の感じる場所を、重点的に押し上げられる。這い上がってくる快楽から、僕はボロボロと泣いた。時に僕の胸のイヤーカフスを弾き、意地悪く陰茎を擦り上げながら、ヒルトは体を動かしている。ジンとした痛みが変換された快楽と、本当に甘い内部からの快感が、僕の内側で混ざっていく。
「ヒアアア!!!」
そのまま、僕は中だけで達した。とは言っても、出してはいない。射精は許されない。それから――夜が白むまでの間、僕は出す事を許されず、散々体を貪られた。
「……ごめん、取り消すよ。ヒルトは、遅漏だ」
最後に漸く果てさせてもらった時、重い体を起こしながら、僕はそう口にした。
だが、振り返った時には、既にヒルトの姿は無かった。
――仕事に戻ったのだろう。
その後ホテルを後にして、僕はニコの元へと戻った。
ニコがまだ眠っている事に安堵しつつ、僕はシャワーを浴びて着替える事に決める。
気だるい腰の重さを忘れようと、いつもよりも長めに温水を浴びた。
そうして――目覚めたニコと共に、この日も旅を再会した。