3:親交を深める




「SEXは親交を深める。お前がここに来た理由」
「それもカンですか?」
「や、違う。お前は俺に一目惚れしたな」

もう疲れたなと僕は思った。


「ンア……」
「力抜け、きつい」
「っ、こんな、嫌だ。やっぱり止め……」
「ここで?」

69の大勢で、後孔を弄られながら、僕は藻掻いた。巻無良さんの陰茎を口に含むなんて、もう無理だった。

「あ、ああ、あ」

その時、しびれるような一点を見つけられ、僕は背を撓らせた。何度もそこを刺激される内、頭の中が白く染まっていく。

「や、あ、やだ、いやだ」
「啼き方は可愛いのな。カエデほどじゃないけど」
「ひっ……ああっ」

そのまま乱暴に床へと突き飛ばされた。
受け身を取る前に押さえ込まれ、直後無理矢理挿入された。潤滑油ローションは無しだった。いくら指で慣らされたとはいえ、初めての僕が受け入れるのは不可能に思える。

「あっ痛、や、ひっ」
「お前って”無理矢理プレイ”して泣かせてやりたくなるタイプだな。忘れられなくしてやるよ。痛いか?」
「あ、あ」

確かにいたかった。ただ、内部の感じる場所を突き上げられる内、それだけではなくなった。



――別に巻無良さんに優しさを求めていた訳じゃない。ただ、初めては穏やかだと良いなと、どこかで思っていただけだ。
行為が終わってから、僕は立てずに横たわり、その隣で巻無良さんは煙草を吸っていた。まどろみそうになる。しかし痛む全身がそれを許さない。――カエデって誰だろう?
僕にもカエデという名前の友人がいる。
菅原楓だ。
菅原も案外分析官になっていたりするのだろうか?

「気持ちよかっただろ?」
「……」
「どうだ? 初めてのSEX」

最悪だった。どうして集合知は、これで親交が深まるなどと謳うのだろう?

「もう一回するか?」
「しません」
「お前は今、集合知を疑ってるな」

巻無良さんが喉で笑った。

翌日僕は、いつも通りを装うことに苦労した。
すると巻無良さんが言う。

「お前、意識しすぎ」
「……」

僕はもう、SEXなんてしなくていいやと思ったものだ。
だけど、すぐにする事になった。

「うァ……あ、巻無良さ……っ……」
「ちょっと自分で動いてみろよ」
「っ……」

僕は馬鹿みたいに、快楽の虜になった。今では、毎日巻無良さんの家へと行く。SEXは8073個目の測定不可能のOUTPUTだ。もしかしたら、僕の唯一の適性なのかも知れない。
牧村さんの上に跨り、僕は腰を動かした。腰に手を当て、巻無良さんは僕を見ている。

「顔、いやらしい」
「ッ」
「もっと声だせよ」
「……っ……ン……フ……」
「出せ」
「うあっ、あ、あああ!!」

僕が堪えていると、巻無良さんが意地悪く突き上げてきた。
理性が崩壊するのは一瞬のことだった。

――確かに、SEXをすると親交は深まるのかも知れない。
僕は最近、巻無良さんが格好良く見える。薄い唇も、鋭い目も、思いの外長い睫も、全部魅力的に思えてきた。何よりも好きなのは、低い声だ。

「どうした? こっち見ろよ」

煙草を銜えた巻無良さんに言われた。下衣だけがデニム姿で、上半身は裸、腹筋がよく割れている。

「もしかして、今度こそ俺に惚れたか?」
「冗談は止めて下さい。もうすぐ仕事だなって思ってただけです」
「本気だけど?」
「だから――」
「別にお前が俺に惚れていないんなら、もうこの関係は無しでも良いぞ」
「……え?」
「惚れてもいない相手に、学知システムに提案されて抱かれる男。そういうのあんまり俺は好きじゃない」
「それは……親交を……」

確かにそれは、事実だった。少なくとも、僕の側からは。

「分かりました」
「泣きそうな顔して何が分かったんだ?」
「誰が泣きそうなんですか?」
「お前以外の誰がいるんだ?」
「とりあえず、帰ります」

巻無良さんは何も言わなかった。そして、別に僕は泣かなかった。実は僕は、もう何年も感情的に涙したことがないのだ。