7★



 ん?
 俺には理解不能の反応で、思わず体が熱を持つ時間を確認してしまった。しかし時間はそれているし、そういう時とは表情が違う。なんというか……ゆでダコ状態みたいな、そんな感じだ。

「本当に……?」
「なにが?」
「俺のこと好きなのか……?」

 顔を上げたソラネが、信じられないというような顔で、真っ赤のまま俺に言う。
 完全に照れているし、動揺している。目が潤んでいる。なんだこの可愛い生き物。
 生物に初めて魅力を感じた。ソラネに限定するならば、改めて。

「そうじゃなければ、率先して男をだく趣味はない。男どころか、女も」
「……俺のどこが?」
「端的に言えば顔と才能と性格。今は体も。きっともっと増えるような気がする」
「けど……嫌いなところもあるだろう? っていうか、お前って、趣味悪いな……」
「悪趣味だとは思ってるけど、君を選んだセンスは評価されると思うけど。ええとねぇ、死んだら困るところがまず嫌いだ。後本来は非常に年相応で子供っぽいのに大人びた感じていて周囲もそっちを信じているところも嫌いだ。俺の前では子供でいいんだけど。君こそ素を見せないで、ずっと隠してる。俺に素を見せてくれない所が嫌い。あと、君は兄弟姉妹の中で一番顔がいいのに違うと信じてるところも嫌い。そんなんだと今後も確実に襲われる。俺から言わせてもらえば、従姉と俺にしか襲われてないのが奇跡だ。いつ薬漬けにされて監禁調教されてもおかしくないレベル。老若男女問わず世界に変態は多い。さらには、自分の頭が悪いと思ってる。君は自分の年齢を考慮してない。あのね、十五歳で、年上の兄達に勝てたらおかしいよ。同時にこの方面では、姉妹に関しては話題に出さないけど、勝ってるんじゃないの? 女性にはもともと甘いみたいではあるけど。あとねぇ、なんだろう、色々あるけど、とにかく他も全部、自殺願望以外は君が子供なのにその自覚もなければ人も頼らないし、勝手に悩むところが嫌いってことでまとまるかなぁ」
「……俺は、頼ってばかりで守られてばかりじゃないか?」
「どこが? やっぱり頭は悪いかも知れない。特定の方向性で。子供だからじゃなくて、美的感覚と鈍さっていう点は特に狂ってるのかな? 研究だけできるタイプ? うーん。そうも思えないけど、どうなんだろうね」
「そんなに嫌なところがいっぱいあって、しかも俺は子供で、つまりアルトは話していて子供の相手をしてるってことだろう? それは恋愛感情じゃなくて、小さい子供を可愛がる感覚なんじゃないのか?」
「好きなところを具体的かつ詳細に語っていいなら、今回の休暇が終わるけど」
「……」
「君が媚薬の熱に耐えられて、俺がそんな君を見て我慢できるようならずっとそうしててもいいけど」
「っ」
「君が子供なのはさっきあげたような部分であって、通常話す分には対等な相手だと感じるし――あと俺、特に思春期の子供は嫌いだけど、君は子供らしくないから、もっと子供っぽくなるべきだと思う。いい意味で、ね。悪い意味で子供の部分は治すべきだ」
「……」
「俺といると安心するんだから、俺とずっと一緒にいればいいでしょ。恋人として」

 俺の言葉に、再びソラネが真っ赤になった。
 あんまりにも可愛くて、気づくと抱きしめていた。
 こんな衝動は初めてだ。

「は、離せ」
「嬉しそうだけど」
「……」

 試しに言ってみたら、ソラネは黙ってしまった。その上、おずおずと俺の腰に腕を回した。本当に嬉しいのか。なんだか幸せで、俺こそ今なら死んでもいい気分だ。しばらくそうしていたら、抱きしめると効果が出る薬だったのと、時間もちょうどそのタイミングだったため、ソラネが体を震わせた。

「してもいい?」

 小さく頷いたソラネを、俺は抱いた。
 ――そして、結果として、やはり薬関係なしに、睡眠と食事とシャワーとトイレ以外だきっぱなしで、気づくと五日が経過していた。やりすぎて、いつ薬がきれていたのかわからなかったのだが、五日目と半日ほどで、ソラネの反応が変わったのだ。

「待って、あ、やっ、大きいっ、うああああ!」
「……!」
「あ、ハっ、うう」

 すっかり忘れていたが、俺は表情を崩すことなく続けた。幸いソラネの体はもう慣れきっていたが、そうじゃなければ、確かに俺のものはソラネには辛いだろう。そのまま六日目と少しの間、媚薬なしで抱き続けた。その状態でもソラネは感じてくれたし、むしろ体が楽そうで、こっちのほうが好きみたいだった。媚薬は、強すぎたのかもしれない。まぁあれがなければ、ソラネの体は俺に慣れなかっただろうけど。

 こうして最終日の朝を、ベッドの上で、二人でだらだらと横になって迎えた。

「どうしよう。男の恋人が出来たって言ったら、みんななんていうかわからない」

 心底思い悩んでいる顔でソラネが言う。
 しかし恋人だと言ってくれていることに、俺は不覚にも満足してしまった。

「秘密にするべきか? どうすればいい?」
「俺は言っても構わないけど、ソラネ次第かな。別れてあげることは生涯ないから、そこは心配しなくていい」
「けど俺、子供産めないから、ヴァージニアさんが困るし反対するだろ」
「それはない。理由は三つある」
「聞いていいのか?」
「別にかまわないよ。一つ目は、そもそも父には、俺に対する興味がその部分にはないからだ。開発とかの方には興味と期待があると思うけど。二つ目は、俺は父と、叔母兼代理母という設定になってる二人の近親相姦で生まれた子供だから、むしろ子孫を残さないことを推奨されてるし、俺本人も欲しくない。三つ目、父は外見を実の妹そっくりに整形させた愛人を作って性欲を解消してるんだけど、その内のひとりが男の子を産んだ。最終的な後継はそっちだ。間に俺がやる場合はあるけど」

 全部恋人関係解消を打診されても納得できてしまう俺の秘密だ。
 さて、どんな反応が返ってくるのか。

「どうしてヴァージニアさんは、あんなに若いんだ? 妹の息子に見える」

 食いつくのはそこなのか。俺は、ソラネのこういうところも好きだ。

「父は実際に若いんだ。妹である叔母のほうが、老けるのが早いんだ。世界でも三名しかいない奇病。実際には奇病の亜種。叔母はまだ二十代で、父は三十代だ。十三で叔母は俺を生んだ。だから代理母であることすら極秘なんだ。実際には実母だけどな」
「そうなのか、病気だったのに悪いことを聞いたな」
「いや、別にそこはさして悪くないけど。これも子孫を残さないほうがいい理由の一つでもある。だからソラネの父親が十代後半の時に、かなり小さい子供だったんだよ、俺の父親。友人だとは最初全く信じられなかったから、事実だと知って驚いた」
「なるほど……」
「逆に聞くけど、ソラネは子供欲しくないの?」
「……欲しいけど、でも、アルトと一緒にいるからいらん」

 クソ、可愛いなぁ。

「ただ、もし従姉に子供が出来ていたら、責任を取らなきゃならない」
「責任?」
「俺の子供かも知れないし、違っても……なんというか……俺が悪い」
「ソラネに悪いところがあるとは思えないけど」

 少し迷った。実は、一昨日、彼女の従姉は出産したのだ。
 DNA鑑定の結果、ソラネの子供を。
 ソラネは子供が欲しいと言っている。責任はともかく、養子を取るよりは、ソラネの実子のほうが愛せそうだ。それにソラネには、知らせるべき大ニュースがもうひとつある。ここにテレビがないためソラネは知らないが、彼の姉であるシェリルが婚約したのだ。一年後に挙式の予定で、もうすぐドイツに籍を先に入れにイギリスから帰国する。ソラネにも顔を出すようにとオーウェンから連絡が入っているのだ。

 一緒に行って、俺も挨拶し、養子に取るというべきか。
 果たしてそれを言ったら、ソラネはドイツにそのまま残ることを決定されないか。
 どちらもソラネに黙っているという選択肢もあるのだ。

 どうしようかなぁ。

 オーウェンかぁ。分野が違うから比較できないが、医師と薬売りの観点からすると敵に回すと厳しい。オーウェン出の医師と、さらに関係者の医師は非常に多い。さらに資産の観点から言えば、オーウェンのほうが少し上だ。歴史は、ヴァージニアのほうが、わずかに長いが、さて、どうしたものか。

「ねぇソラネ。変なことを聞くけど、君の家族あるいは一族で、一番影響力があるのは誰?」
「今は俺の父さんかな。けど、それは大黒柱的な意味合いかも知れない。祖父ちゃんのほうが、やっぱり父さんにも文句言えるし、影響力あるのかもしれない。知らない」
「一番頭がいいのは誰?」
「紺だな。一番上の兄だ。次は青。次男。人付き合いとかそういう意味合いなら、青より三男の白が二番だと思うけどな。後理解できる天才を紺と青とすると、理解できないすさまじい天才だけど欠点がある人間は、曾々祖父さんと母方の祖父。母方の祖父は、表面上は明るくて面白くて白をちょっと馬鹿にした風なんだけど、まぁ白より性格いい感じでもあるんだけど、中身が俺とか母さんみたいらしい。俺には意味がわからないけど、多分、あきっぽいってことだろうな」

 なるほど。母方か。アレで資料を読んだだけで忘れていた。