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 僕が思案している前で、弟と如月さんが話し始めた。当事者なのに僕は蚊帳の外にいた。
 二人の話は、三十分もしない内にまとまった。

「兄の事をよろしくお願いします」

 頷いた如月さんは、終始堂々としていた。弟はそれを頼もしそうに見ている。
 ――こうして、その日の内に、先生とも面談し、僕の退院は決定した。



 荷物をまとめて退院する僕を、病棟の多くの人が見送ってくれた。
 まだ雪が降っている。もうすぐ三月だというのに。
 迎えに来てくれた如月さんと青井さん、タカノ君に荷物を持ってもらい、僕は一度立ち止まり振り返ってから、病院を出た。


 こうして、僕の新しい生活が始まった。
 一日に三度、一階のカフェに食事をしに降りる――それ以外は自由だ。
 何時に寝ても起きても、誰も何も言わない。服薬管理も自分自身であるが、僕はきちんと薬を飲んでいる。ラミクタールを飲み込む時、たまに舌の上で溶けると嫌な甘さを覚える。僕はそれが嫌いだった。

 ここまでで僕の記録は終わりだ。
 何故ならば――ここから先は、『現在』だからである。

 思えば、様々な人々と出会った。懐かしい。沈んでいた僕は、少しだけ浮上した。