【序章】 - 五話
「あ」
――明日の打ち合わせをするはずが、勢いで出てきてしまった。
だが、だからといって、今更風紀委員会室に戻るのも気が引ける。
「……どうせ、明日の昼に本番があるわけだしな」
打ち合わせのための打ち合わせは、この際ショートカットしても構わないだろう。
こちらが何もしていないと言うのに、刺々しい塩対応を通り越して温度がない顔をしていた風紀委員長……。
奴も俺を引き止めなかった。
事前準備の書類自体は、生徒会側の分は完璧である。
新入生歓迎会に関する企画書だ。
あとは、あれを元に風紀が練る警備計画についての打ち合わせがあるだけだ。
生徒会側は一区切りしたのである。
「新入生歓迎会か……」
新入生が入学して一ヶ月。
現在は五月に入った所だ。
昨年は映画鑑賞会を行った事を覚えている。
俺も昨年は新入生だったからだ(内部からの持ち上がりだが)。
今年は、鬼ごっこ兼かくれんぼである。
一見幼稚だが、昨年よりは親睦を深められるように俺は思っている。
折角の企画であるから、全校生徒に楽しんでほしい。
「まぁ、俺が企画したんだから、大丈夫だろう」
俺が、というか、生徒会の俺達が、か。
その為には、険悪とは言え、明日の風紀との打ち合わせも乗り切りたい。
……険悪。
成績面でライバルであるからだとか、権力を持っているからだとか。
本当にそれだけが理由なのか、たまに分からなくなる。
会議で口論する以外、こうして書類を持って行って冷ややかな対応を受ける以外では、実を言えば、俺はあまりよく紫峰の事を知らないのだ。
あれだけ冷ややかなのだから、紫峰は俺を嫌いだと、俺は思う。
しかしそこまで俺は、紫峰に興味が無い……わけでもない。
やっぱり負けたくはないのだ。
実に複雑な心境である。
簡単に言うと、目障り……その一言に尽きるのかもしれない。
もっと紫峰に温度が感じられて、優しさが見えたならば、決してそうは思わないだろう。
常に冷静沈着に見える風紀委員長は、何かと癇に障るのだ。
しかし嫌いといえど、仕事は仕事。
もう俺は高等部の二年生なのだ。
奴が子供だとするならば、俺はもっと余裕を持った大人となろう。
うんうん、と、俺は一人頷いて、一度生徒会室へと戻る事にした。