【序章】 - 七話




「――風紀委員会からは以上だ」
「生徒会からも他に要望は無い」

 三十分ほどして、俺と紫峰の打ち合わせは恙無く終了した。
 お互い冷静――というよりも、冷ややかな冷戦のごとき打ち合わせである。
 やれやれやっと終わった……。
 こいつの顔なんて、長々と見ていたくはない。

 後は帰るのみだ。
 そう考えて、俺は立ち上がった。
紫峰も立ち上がったので、俺は一歩先に扉へと向かう。
 一緒に廊下を歩くなんて嫌だから、俺は先に会議室を出た。

 ……。
 歩きながら、俺は嘆息した。
 我ながら、紫峰を意識しすぎである気がする。

 それは『嫌いだから』であると思うのだが、視界に入ると紫峰の事以外考えられなくなるのが嫌なのである。

 チラリと振り返れば、紫峰が会議室の施錠をしているのが見て取れた。
 その仕草がいちいち男前である。
 ――って、俺は何を考えているんだ……。


 そのまま早足で生徒会室へ戻ると、奏が帰ってきていた。
 実に上機嫌で紅茶を飲んでいる。

「おかえりなさい、時野」
「おう。何か良い事でもあったのか?」
「え? ええ、まぁ少し」

 副会長が微笑した。
 こいつは大体いつも笑っているのだが、普段よりも本日は優しい顔をしている。
 どこか晴れ晴れとした顔つきだ。

「転入生はどうだったんだ?」
「副会長、気に入っちゃんだってぇ」

 返事をしたのは、会計だった。
 サンドイッチを食べながら、晴真が言う。

「俺も見に行きたいなぁ」
「明日から登校するそうで、学食を使うと話していましたから、明日のお昼休みにでも会いに行きますか? 僕もまた会いたいので」
「行く行くー」
「「僕達も行く!」」

 晴真と双子が、奏の言葉に乗り気になっている。
 孝介も珍しく顔を上げると、目を丸くしていた。
 確かに奏が特定の生徒を気にいるのは珍しいから、俺にも江上の気持ちが分かる。

 この日の午後は、このようにして始まった。
 まだ、平穏な一幕だった。