【序章】 - 八話
――翌日。
「会長も学食行くー?」
会計の晴真に声をかけられたのは、鐘が鳴ってすぐの事だった。
本日は生徒会室に全員が揃っている。
朝からずっと奏は微笑しつつ時計を気にしていて、それは俺にも分かっていた。
「俺は相楽に少し用事があるから行かない」
相楽楓は、この生徒会の顧問をしている数学教諭である。
顧問の承認印が必要な書類が丁度終わった所だ。
「そっか、残念。孝介くんは行くー?」
「……行く」
「「僕達も行くからね!」」
「それでは僕達四人で行ってきますね、時野」
俺は頷き、生徒会室を出て行く四人を見送った。
それからすぐに書類を印刷して、俺も立ち上がった。
職員室へと向かい、俺は声をかけて中に入る。
振り返った相楽は、教師なのか疑ってしまいそうになるような、ホスト風の外見をしている。
教師ながらに親衛隊の持ち主でもある。
本人もこの学園の卒業生らしい。
「相楽、新入生歓迎会の書類のハンコを寄越せ」
「先生と呼べ。ほらよ」
「――それと、次の体育祭の企画の予算案の雛形は?」
「これだ。犀堂、その前に中間テストがある。点、落とすなよ? ん?」
「……」
俺は顎で頷いた。
俺はどちらかといえば、文系であり、数学は得意ではない。
「俺の特別練習問題だ。ついでにやっておけ」
「……ああ。気が向いたらな」
授業に出る事が少ない俺に、相楽はこうして度々練習問題を用意してくれる。
俺だけではなく、それは奏にだって同じであるが。
有難い配慮である。
しかし面と向かってお礼を言うのも気恥ずかしいので、俺はいつも適当に受け取っている。
その後俺は、職員室を後にした。
――午後の授業開始を知らせる鐘が鳴っても、副会長の奏達は、この日戻ってこなかった。
「授業に行ったのか?」
揃っていくのも珍しいなと考える。
俺達は全員、二年Sクラスだ。
――この時の俺は、翌日以後も、生徒会の俺以外無人状態が続くことになるとは、考えてもいなかった。