【第一章】 - 一話
学園の崩壊は、実にあっけなかった。
気に入ったどころの話ではなく、案内した際に、奏は転入生に惚れていたらしい。
食堂で生徒会役員達が転入生と会った時には、既に副会長は一目惚れからの溺愛状態だったようだ。
その日からすぐに、何でも晴真は、「セフレなんて良くない」と転入生に言われて、周囲との関係を精算したらしい。
食堂で見分けられてから、双子は個性を意識するようになったのだとか。
無口な江上は、「無理に話そうとする必要はない」と諭されて、そこから転入生に懐いたらしい。
これらはあくまでも俺の周囲の事例を噂で聞いただけだ。
時折生徒会室に仕事書類を取りに来る晴真から聞いたのである。
しかし最近では、それもなくなった。
……セフレの善し悪しに関しては、わざわざ指摘するまでも無いと思っていたのだが、違ったのか。
双子は俺だって見分けられるが、お前達は同じように見られたかったんじゃなかったのか、だとか。
無理に話さなくて良いのはその通りだから、これまでだって江上の寡黙さに何かを言ったりしなかっただろう、とか。
色々思う事はあるが、ベタ惚れだからとはいえ、恋心からあの奏が仕事を放棄するというのが以外過ぎた。
俺がその事実に気がついたのは、比較的最近だ。
数日間来なかった段階では、今日は都合が悪いのだろうと考えていて、俺が代わりに対処していたので、その仕事が重なり出遅れた。
現在までに、俺は一度も転入生を見た事も無い。
「……」
これまで五人で行っていた仕事だが、現在生徒会室には俺しかおらず、誰かがやって来る様子も無い。
そろそろ呼びに行かなければと思うのだが、目先の仕事を片付けていくと、それだけで精一杯で身動きが取れない。
何度連絡をしても、誰からも返信は来ない。
直接行こうにも、その暇が無い。
と、いう、悪循環に俺は飲み込まれた。
転入生が訪れてから一週間半。
現在――午前六時。
生徒会室には、決して早く訪れたのではなく、書類を片付けていたら、朝になってしまったのだ。
その後俺は一度寮に戻り、シャワーを浴びて着替えてから、仮眠は取らずに、再び生徒会室へと戻った。
胃が反り返るように重い。
眠気が酷いから、食欲も無い。
「俺の精神がこんなにも軟弱だったとはな」
俺はポツリと一人、生徒会室室の自分の席で呟いた。