【第一章】 - 三話
疲弊しきった体で、本日も生徒会室の扉を開ける。
そして自分の席について――三時間。
山積みの書類は、終わる気配が無い。
議事録の確認といった書記の仕事も、体育祭の予算案の草案も(会計の仕事だ)、各委員会や運動部との調整も(副会長や庶務の仕事である)、全部一気にのしかかって来た。
本来、最終チェックや、会議の原稿を作るのが俺の仕事である。
サインをしながら、俺は吐き気を覚えていた。頭痛や目眩も酷い。
ノックの音がしたのは、そんな時の事だった。
「入れ」
俺は、誰か他の役員が戻ってきたのではないかと、幾ばくか期待していた。
「失礼する」
しかし入ってきたのは、最も見たくない顔――風紀委員長だった。
紫峰は書類が山積みの生徒会室を見渡すと、相変わらず不機嫌そうな顔で俺を見る。
「昨日が期限だった、風紀委員会への、体育祭のクラス配置表が未だのようだが」
その言葉に、俺は後回しにしていた事を思い出して、ハッとした。
昨年と同じ配置を予定していたから、書き写すだけであり、すぐに片付くと判断して、他の仕事を優先していた結果――失念していたのである。
よりにもよって風紀への書類だ……。
「すぐに提出する」
「今すぐ、か?」
「……風紀委員長自ら、書類一枚の確認のために、ここへ顔を出すなんて、風紀は暇でよさそうだな」
「それは本気で言っているのか、バ会長」
眉間に皺を刻むと、吐き捨てるように紫峰が言った。
「転入生が来てからというもの、風紀に休む暇はなくなった」
「そうなのか?」
「ああ。生徒会役員が転入生に絡むせいで、親衛隊達が殺気立っている。大規模な生徒会役員の親衛隊の動きは本当に厄介だ」
「……」
「きちんと管理をしろと言いたい――が、お前以外の姿が無いな。釘を刺すつもりでここへ来たんだが」
紫峰はそう言うと、周囲を見渡した。
誰もいないのは、入った時から明らかだろうに。
副会長の机の上に積み上げられた書類を見ると、紫峰が片目を細めた。
「この山はなんだ?」
「紙だろ」
「……」
俺が切り捨てると、紫峰が忌々しそうに俺を見た。