【第一章】 - 四話




「見れば分かる」

 紫峰はそう言うと、蔑むように目を細めた。
 それはそうだろうと思いつつも、まさか、他の役員が仕事を放棄しているとはいいにくい。

「最近、このような噂もある」
「なんだ?」
「バ会長のお前だけが、親衛隊のセフレと猥褻な行為に耽っているから授業に出ない」
「は?」
「他の連中は授業に出るようになった。真面目に――かは、知らないが」

 紫峰は俺の反応を見ると呆れたような顔をした。

「親衛隊の連中を調べれば、すぐにデマだと分かったがな」
「……」
「お前の親衛隊には制裁の動きは無い」
「……」
「ただそれも噂に拍車をかけている。バ会長だけは、相手にしているからだとな」

 俺は眉間にシワを刻んだ。

「一体どこの誰が、そんな噂を?」
「学園中に広まっている。発生源は、生徒会役員のようだが?」
「な」
「自分達は、『由良響(ゆらひびき)』が指摘したから、授業にしっかりと出ているらしい」
「誰だそれは?」
「由良は転入生だ」
「……」

 俺は名前も知らなかった。脳裏にその名を刻み込みながら、続きを聞く。

「授業に出ても構わないのか、生徒会の仕事があるんじゃないのか、会長はどうして授業に出ないんだ? 全て由良の言葉らしい」
「……」
「結果、『生徒の本文は勉強』という由良の言葉を意識してか、『仕事は問題ない』『会長はセフレと戯れているから来ないだけだ』と、役員の誰かが言い放ったらしいぞ」

 それを聞いて、俺は金槌で頭を叩かれたかのような衝撃を受けた。

「今じゃ、チャラ男のレッテルは会計ではなく、バ会長――お前に貼られている」

 俺は頭痛がした為、こめかみを手でほぐした。
 ツキンツキンと痛む。
 事態の理解を体が拒否している。

 同時に思う。
 事実ならば、これは。
 生徒会役員の誰かの裏切りに等しいではないか。

 どうして俺はそのような噂を立てられてまで、仕事に励まなければならないのか。
 ……俺以外に仕事をしないからだし、終わらないと困るからやるが。

 風紀委員会宛の書類を手に取り、俺は作業しながらスっと目を細めた。

「事実じゃないと確認できたなら、さっさと帰ってくれ」
「同時に、他の役員の不在も確認してしまったがな」
「……その内戻ってくる。それまでの間、この程度俺が」
「この程度?」
「ああ、この程度だ」
「その割に、目の下、酷い隈だぞ」

 紫峰の言葉に、俺は目の下の赤く細い隈をなぞった。
 確かに鏡を見て、俺も酷いとは思った。
 実際、体も悲鳴をあげている。
 しかし誰も、頼れる相手がいないのだ。