【第一章】 - 六話
暗い廊下を二人で歩く。
特に会話も無いままで、生徒玄関へと到着した。
その後、銀色の月が照らす道を、寮に向かって歩く間も、俺と紫峰の間には会話が無かった。
ただ紫峰は、いつもの見守りをしている姿を思い出すと、現在は妙にゆっくりと歩いている。
体力が落ちている俺には、そのペースがどことなく心強く感じた。
時折心配するかのように、紫峰は俺を見る。
会話は無いのだが、俺は、案外紫峰は優しい人物なのでは無いかと、考え直した。
寮が入るビルに到着し、俺達はエレベーターホールで暫し待った。
役職持ちである俺達の寮は、一般生徒が立ち入り禁止の特別階にある。
一階に降りてきたエレベーターに乗り込み、俺達は二十三階へと向かった。
さながらホテルのような造りである。
「じゃあな」
エレベーターを降りてすぐ、俺は紫峰に声をかけた。
頷いた紫峰とは、そこで別れた。
暫し廊下を歩いてから、カードキーで自室の扉を開けた俺は、鍵を閉めてからその場に座り込んだ。
部屋に戻ったら、一気に疲れが溢れ出してきた。
思わず荒い呼吸を繰り返し、靴を脱いですぐ、そのまま冷たいフローリングの床に寝そべる。
体が辛い。
やはり――限界なのかもしれない。
俺はしばらく、冷たい床に横になりながら、明日は素直に休もうと決意した。
起き上がる気力が沸いてから、俺は何とか寝室まで歩き、そのままベッドに倒れこむ。
いつまでこんな日々は続くのだろうか。
何とかして、現状を打破し、元の通りの生徒会に戻さなければ。
そう考えながら目を閉じると、すぐに睡魔に俺は飲まれた。
――次に目を開けたのは、エントランスからインターフォンの音が聞こえた時の事だった。
「ん……」
上半身を起こして目覚まし時計を見ると、既に午後の四時を回っていた。
焦って飛び起きた俺は、その間も鳴り響いているインターフォンの音に、玄関の扉へと視線を向ける。
昨日はジャケットこそ脱いだものの、シャツのまま寝てしまった為、脱ぎ捨てた下衣を拾って履いてから、壁の姿見を見据えた。
手グシで髪を整えながら、何とか人前に出られる状態である事を確認する。
「誰だ?」
エントランスの扉の前へと向かい、俺は声をかけた。
『俺だ』
すると――紫峰の声がした。驚いて俺は目を見開く。
それからドアノブに手をかけた。