<3>風紀委員長は歓喜!(★)




 翌日の朝。俺はウキウキしながら、見回り終了後、風紀委員長室にいた。今日の放課後も来るだろうか? こなかったりして。ただ、正直俺は、性奴隷になってみたい。扉が開いたのは、そんなことを考えながら、執務机の前に座っていた時だった。緊張で身が竦んだ。

 ――入ってきたのは、奴だった。鏑屋だ。まだ、朝だぞ……?

「よく逃げねぇで待っていたな。褒めてやる」
「……ここは俺の部屋だ。勝手に入るな」
「今のお前にそんなことを言う権利があると思ってんのかよ?」
「っ」

 ……良い。良い! なんて良いんだ! そうだよ、今の俺にはそんな事を言う権利はないんだよ。脅されちゃってるんだよ! なんて、なんて美味しいんだ! 俺は笑みを噛み殺し、なんとか見せないように、机の上に肘をついて指を組み、静かに目を伏せた。なんて言おう。

「立て」
「断る」
「俺様が立てと言ったら、立て。駄犬が」

 駄犬……駄犬!? 一度は言われてみたかったセリフ上位だ! 俺は(喜びに)震えながら立ち上がった。喜んでいるのがバレたらどうしようかと思うと顔が引きつった。

「ネクタイを緩めろ」
「……」

 手が震えてしまう。今日は何をされるのだろうか。喜びすぎて、俺は上手くネクタイが解けなかった。すると鏑屋が鼻で笑って、そう鼻で笑って(!)、俺に歩み寄ってきた。

「こっちへ来い」
「……何をするつもりだ?」
「分かってんだろ? 窓に手をつけ」

 風紀委員長室には、校庭を広く見下ろすことができる、大きな窓ガラスがある。なんだろうかと思いながら、結局ネクタイは解けないままで、俺はそこに両手をついた。冬のヒンヤリとした冷たさが心地いい。すると手馴れた仕草で、鏑屋が俺のベルトを後ろから外し、下衣が半分ほど落ちた。それから下着を太もも付近まで下ろされる。

「っ」

 そして、いきなり突っ込まれた。ヌメっているのは、そう言うゴムをつけているからだろう。俺にとっては人生で初めての挿入だった。

 びっくりしすぎて背がしなり、尻を突き出す形で、俺は必死で窓に手を付いた。

「うあ、ああああああ」
「うるせぇな。黙ってろ。これでも噛んどけ」

 鏑屋はそう言うと、俺の口にハンカチを噛ませてきた。

「ン、ふ」

 痛みはない。むしろ、前立腺を的確に突き上げられて、腰が震えた。

 そんな俺の腰を、鏑屋はしっかりとつかみ、激しく抽挿する。どんどん中で硬度を増し、長くなっていく。がくがくと揺すられて、俺は震えた。必死でハンカチを噛み締めて、きつく目を閉じる。どうしよう、気持ちいい。これまで知っていた無機質な感覚とは全く違う。熱くて、存在感がやばい。

「は、っゥ……ン――!!」

 衝撃に耐えられなくて、足が震えた。快楽で腰の力が抜けそうになる。ガクガクと震えているとわざとらしく乳首をシャツの上からつままれた。

「!!」
「たってんぞ。本当、こんなにスキモノだとは思わなかった」

 確かに俺は好きものだ。欲を言うならば、コックリングとかされてみたいし、尿道責めとかもされてみたいし、空イキとかしちゃったりもしたい。目隠しもいい。痛くない程度に鞭打たれてみたい。――なんていう妄想が、直後吹き飛んだ。

「うあああ、や、あ、ああ、鏑屋、待、待ってくれ、あああああ」

 思わずハンカチを落とした。口からヨダレが垂れてしまった。ガンガンと前立腺ばかりを突き上げられると同時に、手で陰茎をきつく握られ、しごき上げられたのだ。

「や、やめ、うあ、ああっ」

 気持ちいい。どうしようもなく気持ちいい。前と中への刺激に、気がおかしくなりそうになる。ぬちゃぬちゃと響いてくる音が、前からのものなのか、結合部分からのものなのかはわからない。もはやわからない。俺は泣いた。頭の中が真っ白になっていく。腰が震えた。快楽が怖すぎて腰をひこうとするが、鏑屋の手はそれを許してはくれない。

「嫌だ、やめ、やめろ、やめてくれ……っ、うあ、ああああ!!」

 そのまま中をひときわ大きくえぐられた時、俺は果てた。全身の力が抜けて座り込もうとしたとき、窓ガラスに強く押し付けられた。

「な、あ、嘘だろ、も、もう――!!」
「まだまだこれからだろうが、高河ァ。さぁて、校庭から丸見えだなぁ、この場所は。何人お前の痴態を見るんだろうな?」

 耳元で低い声がする。その吐息にゾクゾクして、俺は唾液を嚥下した。後ろから首筋に噛み付かれ、体重をかけられる。そして、腰を揺すぶられた。

「あ、あ、あ」

 もう意味のある言葉なんて、俺の口からは出てこない。
 その後何度も中を暴かれ、俺はただ泣くしかできなかった。もう快楽以外のことが考えられず、ただ喘いだ。その度に喉が震えたのが自分でもわかっている。

「うあ……あ、あああっ、ひ、ア――!!」

 そして鏑屋は大層巧かった。俺は何度もイかされたあげく、最終的に記憶が無くなった。

 ――気づいたとき俺は、ソファに座っていた。服はきちんと着せられていた。

 テーブルを挟んで正面のソファには、長い足を組んでいる鏑屋がいた。

「気がついたか?」
「……」

 虚ろな眼差しを俺が緩慢に上げると、鏑屋は何故なのか苦笑していた。
 そんな顔がまた麗しい。
 麗しいのはいいことであるが、俺はどうなってしまったのだろうか。

 おぼろげな記憶をたどるのだが、ただ泣いてよがってしまった記憶しかない。もちろん、気持ちいいだとかは一言も言っていないが、完全に俺が快楽に震えていたのは直視されたと思う。

 絶望的な気分になっていた――その時。
 俺は違和感に気づいた。なかに、なにか入っている。なんだ? 何度か瞬きをした瞬間、楽しげに鏑屋がリモコンを手で弄びスイッチを入れた。

「ンっ、うあ、あ、あ、あ」

 俺の中に入っていたローターが振動を開始した。目を見開くと、愉悦まみれの表情で鏑屋が笑っていた。

「今日は一日それを入れていろ」
「な、ァ……っ……」
「悶えながら見回りをする風紀委員長様はさぞかし見ものだろうな
ァ」
「!」
「放課後にまた可愛がってやる」

 鏑屋はそれだけ言うと出て行った。出て行ってしまった。

 振動を意識した途端、あれほど果てたというのに、じわりじわりと体が熱くなっていく。
そして俺は気づいた。反応している俺の自身の周囲に、ぴたりという感触がするのだ。何事だろうかと、恐る恐る服を下ろしてみて絶句した。革製のリングがはまっていたのだ。

 ああ……夢にまで見たことがあるが、だけど……。
 いざ現実になると、体が震えてしまった。イきたい。出したい。もうすでに……!

 だが俺は、授業に出なくていいという特権の代わりに見回りをしなければならない。

 ――その日俺は、涙と快楽をこらえながら、なんとか必死に歩いて、校舎を見回った。

 放課後までの時間が、実に長く感じた。
 そしていざ放課後になったのだが……鏑屋は来ない。
 ひとりきりの室内で、俺は震えた。時計の針の音が、ものすごく耳につく。秒針がゆっくりとしたものに思えた。早く、早く、早く。

 もう鏑屋が待ち遠しくて仕方がない。
 扉が開いたのは、実に、夜の七時になったときのことだった。
 その頃には俺はもう立ち上がる力もなくて、悶えながらソファに座っていた。ギュッと指を組み、涙していた。気持ちいいのだ。ただ、どうしていいのかわからなかったのだ。

「俺様を待っていたか?」
「っ……ぁ……だ、誰が……」

 実際はすごく待っていたのだが、なんだか恥ずかしくなって俺は否定した。そして遅すぎる鏑屋を睨めつけた。

「いいな、その顔。気に食わなかったんだよ、その気の強いところが。ぐちゃぐちゃに汚してやる。誰でもない、この俺様の手でな」

 鏑屋はそう言うと、ソファに近寄ってきて、後ろに回った。

「あっ」

 そして俺のシャツを開いたかと思うと、両方の乳首をつまんだ。
 そこからが地獄だった。

「ひァああああ、や、やだ、やめ、っ、あ、あ、ン――!!」

 服をはだけられた俺は、前から蜜をだらだらとこぼしているのにイけないままで、もう一時間ほど乳首を嬲られている。触って欲しいが、そんなことは頼めない。中では相変わらず振動しているのだが、それが気持ちいい場所に当たるわけでもないからもどかしい。もどかしすぎて、俺は息をするのが辛くなった。

「あ、ああっ、鏑屋、鏑屋っ」
「なんだ?」
「も、もう……っ……」
「もうなんだ? 言ってみろよ」
「……」

 何度繰り返されたかわからないやりとりだ。しかし朦朧とした俺の頭では、うまい言葉が浮かばないのだ。なんていえばいいんだろう? 欲求としては、出したいのだ。だが、それをどうすれば伝えられるのかがわからない。

「ひっ、く……ぁああっ」

 優しくこすられ、時に強くつままれ、俺の乳首はもう限界まで固くなっている。乳首がこんなに感じるなんて俺は知らなかった。一人でしていたのはもっぱら後ろの穴だからだ。その上、耳の中に舌を差し込まれ、ダイレクトに水音が響くたびに、ボロボロと俺は泣い
た。耳の中なんて、自分ではできっこないのだ。完全に見知らぬ快楽だった。

「言えよ。俺にぐちゃぐちゃのどろどろに犯されたいってな」
「な……」
「イきたいんだろ?」
「……っ」

 なるほど、そういえばいいのか。俺はようやく解答を知ったので、
 必死に喋ろうとした。

「ぐ、ぐちゃ……っ……」

 しかし、いざ言おうとすると羞恥が募ってきた。すごくすごく恥ずかしい。

「なんだって?」
「うあああ」

 言いかけた俺の乳首を強く鏑屋がつまんだ。息が凍りつく。

「や、やだ、鏑屋、あ、頼むから、も、もう」
「聞こえねぇな。さっさと言えよ」
「ぐちゃぐちゃに……うあ、あ、は、っ……ン……おか、犯し……ひぁア!!」

 必死でいった俺の首筋を、きつく鏑屋が噛んだ。痛いと思ったのだが、もうその刺激すら快楽に変換された。そして耳元で満足そうに笑う気配がした。それから鏑屋はソファの正面へと回ってきて、俺の陰茎を咥えた。

「え? うああああああああああああああああ!!」

 そして、俺の前の拘束を外すでもなく口淫をはじめた。筋を舐め上げ、強く吸われ、何度も形の良い唇でカリ首をしごかれる。泣きじゃくりながら俺はかぶりをふった。

「も、もうああああああ、やぁあああああああああああ」

 絶叫してしまった。もう限界だった。必死で鏑屋の頭を押し返すのだが、力が入らない。その時ズルリとローターが引き抜かれ、今度はそれを竿と袋の間に当てられた。瞬間、完全に俺の理性はなくなった。

「鏑屋、鏑屋、あ、ああ、ああああ」
「うるせぇんだよ。声がでかい」
「うあああああああっ」
「黙れよ」
「ひぁあああ、や、やだ、やめ!! イかせっ、あああああ!!」

 そのままの状態で、鏑屋が俺の中に押し入ってきた。その衝撃に意識がぐらついた。

 そしてガンガンつかれ、俺は――出していないのに、快楽で全身から力が抜けて、再び絶叫した。まるで水をうったかのような静けさが胸の中に広がる。それまでの炙られるように燻っていた熱がさっと引いていった。

「いやだぁあああああああ!!」

 俺が人生初の空イキをした瞬間だった。

 ――以来毎日、朝と放課後、鏑屋は風紀委員長室にやってくるようになったのだった。
 それはクリスマスまで続いた。夢のような日々である。いいな、鏑屋!