<5>風紀委員長は発見!(☆)
目を覚ますと俺は、揺れていた。何事だ。鈍く痛む頭で何度かまばたきをすると――!? 鏑屋に、俗に言うお姫様抱っこをされて、廊下を進んでいた。どういう状況だ。焦って周囲を見渡すが、幸い今は冬休みである。
「気がついたかァ? ったく、情けねぇなァ」
「……下ろしてくれ」
「歩けんのか?」
「……」
言われてみれば、確かに腰の感覚が全くなかった。だが、だからといって、この状況は解せない。なぜ俺はお姫様抱っこをされているのだ。確かに羞恥プレイとしては素晴らしいのかもしれないが、俺はあんまり羞恥プレイも好きではないようだ。ドMにだって好みがあるのである。
そもそも俺の腰の感覚がなくなったのは鏑屋のせいだ。介抱されるのは道理かも知れない。とはいえ……一体どこへ行くというのだ。
「どうするつもりだ?」
「今日も生徒会長室で可愛がってやる」
「……今日から冬休みだろう?」
「生徒会は風紀よりも忙しいから、今日で終わりなんだよ」
なんだかムッとした。風紀委員会の方が忙しいと俺は思う。しかし言い返せないでいるうちに、生徒会長室へとたどり着いた。それから俺は、服をあっさりと脱がされた。抵抗する力など、もう俺の体には残ってはいない。どんまい!
そして――しっぽ付きのローターを突っ込まれた。ふわふわの毛が、肌に触れる。その状態で四つん這いにされた。
「舐めろ」
「っ」
「さっさとしろ」
俺は要求されたフェラを悔しい思いですることになった。俺はされるのは好きだが、するのはそんなに好きじゃない。なるほど、俺は尽くされたいという意味でのドMだったのだ。しかしそんな告白などできっこないので、必死で鏑屋の陰茎を口に含む。本当無駄に大きい。だがたった数日だが、ここのところ、愛着が沸いてきた。必死で筋を舐め、吸い、唇で先の方を刺激する。
だが、全然イってくれない。俺は下手なのだろうか? それとも鏑屋が遅漏なのだろう
か? 絶対に後者だ。俺は泣きそうになりながら、一時間ほど咥え続けた。
「少しは上達したな」
その後、鏑屋はそう言ってニヤリと笑うと、俺の髪の毛をつかんだ。
それから――俺の顔にぶちまけた。ポトポトと白い液が俺の頬と髪を濡らしていく。そうしてそんな俺の姿を、またスマホで撮り始めた。絶望的な気分とは、こういう気分なんだろうな。こんな写真をばらまかれたら、本当に俺の学校生活は終わってしまう。俺には学校しかないのに!
鏑屋の携帯が音を立てたのは、そんなことを考えていた時だった。
「チ、家からだ。少し待っていろ」
そう言って出て行った鏑屋に、俺は放置された。手の甲で頬を拭う。
扉が勢いよく開いたのは、それとほぼ同時だった。
「ソウちゃんちょっと良い――……!!」
「どうしたのですか、陽日……っ――!!」
俺は今度こそ絶望した。入ってきたのは、生徒会のチャラ男会計の、高橋陽日と、腹黒副会長こと、有里正嘉だったからだ。終わった。
見られた。バレた。バレてしまった。なにせ俺は素っ裸で、ローターを入れられた状態で、精液まみれなのだ。言い逃れなどできるはずもない。
「……へぇ、ソウちゃんもやるねぇ……」
するとへらりと会計が笑った。
ソウちゃんというのは、崇介のことだ。鏑屋崇介(かぶらやそうすけ) というのだ。
「流石に崇介が目をつけるだけあって色っぽいですね」
副会長はそう言うと俺に歩み寄ってきた。そして後ろから、脇の間に手を回してきた。――!? 会計はといえば、俺の前に回り込んで、太ももを持ち上げた。え?
呆然としていると、会計が不意に俺の陰茎を口に含んだ。
「っ」
「どのくらい開発されたんですか?」
「!」
副会長はそう言うと、背後から俺の乳首をこすった。
な、なんということだ……た、確かに俺はmob姦妄想をしたことがある。そしてこの二人は、mobなんかじゃなく学園の人気者だ。だが、だが、違う。違うのだ。なんだか嫌だった。鏑屋の体温とは違う。それだけでも壮絶な違和感で、だけど次第に気持ちよくなってきて、俺は大混乱した。
「や、やめろ」
「ふーきいーんちょー、本当にそう思ってるー?」
「その割には、随分と胸が反応していますね」
羞恥でカッと体が熱くなった。確かに俺はドMだ。だけど、なんだか……嫌なのだ。嫌なものは嫌なのだ。必死でもがく。だが思いのほか副会長の力が強い――というよりも、俺の体に力が入らないせいで抵抗できない。
「やめろ、離せ」
「その格好で言われても、怖くもなんともないですね」
「っ、ン……っ」
会計が本気を出したかのように、俺の自身を舐め始めた。――巧い。
うますぎる。涙がこみ上げてくる。腰が震えた。まずい、出してしまいそうだ。だけどなんだか嫌だ。嫌なのだ。この感覚の理由がわからない。
扉を乱暴に叩く音がしたのはその時だった。反射的に涙で滲んだ目を向ければ、そこには、乱暴に扉を殴りつけた鏑屋が立っていた。
「なにしてんだよお前ら」
「おや、崇介。遅かったですね」
「ン――!!」
副会長は何でもないことのように王子様然とした笑みで答え、会計はといえば、一瞥しただけで俺の物を咥え続けている。俺は声をこらえることに躍起になった。
「……イかせたのか?」
「まだです」
「――高河ァ、出したらどうなるかわかってんだろうなァ?」
そこへそんな声が響いてきた。俺が目を見開いたとき、俺の正面で会計が吐息に笑みを乗せた。
「うああっ」
そして先程までよりもねっとりと舐め上げられて、俺は震えた。思わず声が漏れてしまった。出そうだった。だが、鏑屋に言われた言葉が脳裏を廻る。出してはいけない気がする。必死で太ももに力を入れてこらえるが、そのとき副会長の手の動きも意地悪くなった。頑張って唇を噛むのだが、声混じりの息が止まらない。このままではダメだ。
「や、やめろ……頼むから、やめてくれ……!! う……ぁ……」
俺の前が限界まで張り詰めた時、鏑屋が歩み寄ってきて、会計の頭を叩いた。
それに苦笑した気配がして、副会長が俺から手を離した。だからそのまま俺はソファにぐったりと体をあずけた。体は熱いのだが、解放された思いでいっぱいだった。
「そうそう、ソウちゃんのハンコをもらいにきたんだった」
「それだけ貰ったらすぐに出ていきますよ。邪魔をしては悪いので」
「ああ。これでいいだろ、さっさと消えろ」
生徒会役員達のやり取りを、俺はぼんやりと聞いていた。
出したいのだが、それ以上に力が入らない体にやるせなくなる。
俺は発見した。気持ちよければいいっていうものでもないのだ。もしかすると俺は複数は嫌いなのだろうか? 確かに体のキャパシティを超えているような気がしないでもない。
出て行った会計と副会長を眺めていると、鏑屋が俺に詰め寄ってきた。
「俺様以外に触られた覚悟は出来てんだろうなァ?」
――……? そんなことを言われたって、俺のせいじゃない! 理不尽だ! 俺は思わず、涙を浮かべたまま、鏑屋を睨みつけた。
「帰るぞ、連れて行ってやる。俺様の家に」
「……は?」
「お前、一人暮らしなんだってな。外でも。問題ねぇだろ?」
確かにそれはそうだったのだが、急展開過ぎてよくわからない。
「家でたっぷり仕置きしてやる」
そう言うと鏑屋は俺の首筋に噛み付いた。痛みで背がしなる。ビクリと震えた俺を抱き起こしながら、鏑屋は意地悪く笑ったのだった。
その後俺は、鏑屋家の迎えの車に共に引っ張りこまれた。着替えも何も持っていない。引きずられるようにして車に乗ったのだ。さすがの高級車だった。
なんだか疲れてしまったので、シートに体をあずけて、久しぶりの外を見る。
俺は初等科からここの生徒だったので、あまり外を見たことがない。
奨学生だ。
実は、物心つく前に両親が亡くなってしまったのだ。そして引き取られた家で俺は……殴られて育った。躾と称した虐待というやつだ、今思えば。が、その養父母も火災で亡くなってしまった。
以後俺は不吉とされて、誰も引き取ってくれず、この学校の寮に放り込まれたのである。今思えば、あの殴られ続けた日々がきっかけでドMになってしまったのかもしれない。いいや、俺が痛いのは嫌いだと思う理由こそが、殴られたからだろうか。ともかくそれはそれとして、だ。なぜ鏑屋は、俺がひとり暮らしだと知っているのだ?
ゆるゆると視線を向けると、余裕たっぷりに足を組んでいた。
そもそもだ。俺の側には、脅されているという外聞(?)と、ドMだという欲求があるわけだから、この関係に不満はないし、従っていてもおかしくはないだろう。
しかし嫌がらせにしては鏑屋にはあんまりにもメリットが無さ過ぎる気がする。鏑屋は一体何を考えているのだろうか? もしや……そんなにドSなのか? 開発するのが好きなのか!?
じっと鏑屋を見ていると、視線があった。
「なんだ?」
「いいや。別に」
反射的に首を振った俺は、自分の声が僅かにかすれていることに気がついた。それもそうだろう。ここ数日啼きっぱなしなのだから。
それから連れて行かれた鏑屋の家は、大豪邸だった。思わず見上げた。城かと思った。だいぶ遠くから森が見えるなと思っていたら、それが庭だったのだ。そして天守閣みたいなものがあると思ったら、鏑屋の家だったのである。ちょっと信じられない。
しかし通された鏑屋の自室は至って洋風だった。思わず見回していると、鏑屋に視線でベッドを示された。
「横になっていろ」
「ああ……」
またやるのか。まだやるというのか。本当に鏑屋は絶倫である。俺は果たしてついていけるだろうか? そもそもついてきてしまったが、それが間違いだったのではないのだろうか? しかし体力も限界なので、素直にベッドに座った。人生で初めて経験するほどのフカフカさだった。
なんだこれは。さすがは大金持ちである。何とはなしに横になってみると、それはもう気持ちが良かった。世の中にはこんな贅沢があるのか。実に羨ましいだとか思っているうちに――俺は眠ってしまったらしかった。
「ン……」
目を覚ましたとき、俺はひとりきりで鏑屋の部屋に居た。鏑屋はまだもどっていないようだった。ただ、窓の外を見た限り、もう夕暮れだった。起き上がると、だいぶ体が軽くなっていた。その時お腹が鳴った。そういえばここ数日ろくに食べていない。お腹減ったなぁ。そう思っていたら、部屋の扉が開いた。
「――おや、崇介のお友達かね?」
「はい」
反射的に俺は立ち上がって頭を下げた。顔が鏑屋にそっくりな壮年男性が入ってきたのだ。違いはといえば、ヒゲと目元のシワくらいだ。おそらく父親か親戚だろう。断じて俺と鏑屋は友達ではないが、こういう場面ではそう答えるべきだと思う。
「首元のキスマークは、崇介が?」
「え」
うろたえて俺が、いつも噛まれている場所をおさえると、にやりと笑われた。その肉食獣じみた笑みは、本当に鏑屋そっくりだった。しかしもっと仄暗くて獰猛に見えた。
つかつかと歩み寄ってきたその人は――俺を神速でベッドに縫い付けた。
「!」
あっけにとられているうちにネクタイを抜き取られて、手を拘束され、四つん這いにされた。下衣をおろされる。呆然としていると、ベッドサイドの引き出しをその人があけた。なんと中から出てきたのはロウソクとマッチだった。
「な、なにを……は、離してください」
「いけない遊びをしている学生には躾をしないとね」
「な」
バシン、と音がした。俺は、強めに尻を手でぶたれていた。その衝撃に震えた時、マッチをこする音がした。それから――……
「うああ、熱っ」
「嘘はよくないね。このロウソクは、やけどをしないようにできているんだよ」
「ひ、ぅああ」
バシンバシンとお尻を叩かれ、それが止んだかと思うと、だらだらとロウソクを背筋に垂らされた。ガクガクと体が震える。膝に力が入らなくなっていく。なんだこれは。どうして俺はこんな目に遭っているのだ。そしてやっぱり鏑屋の体温とは違うのだ。鏑屋そっくりなのに、違うのだ。なんなんだろう、この違和感。
「挿れてほしいかね?」
「っ、は、はなせ……あああ!!」
「ひくついているよ。君の後ろの穴がね。実に物欲しそうだ」
そういって指で入口をつつかれた。思わずきつく歯を噛む。
逃げたいのに体が動かない。叩かれるたびに俺は硬直してしまうのだ。
「なにをしているんだ、バカ親父!!」
俺の意識がグラグラしだしたとき、鏑屋の叫び声が聞こえた。
「やぁ久しぶりだね、崇介。この犬、少し私に貸してくれないかね? 気に入った」
「生憎だが高河は俺のものだ。さっさと退いて、すぐに出て行け」
「親に向かってその口の利き方はなんだね?」
「とにかく高河から離れろ」
「全く、相変わらず子供だね」
クスクスと何が楽しいのか笑いながら、鏑屋の父親だったらしい人は出て行った。
俺はといえば、ロウソクが固まり、体がバキバキ音がする中、一人で震えていた。なぜなのか震えが止まらない。なんだか、怖かったのだ。やっぱり叩かれるのは、いくらドMでもあんまり好きじゃないのかもしれない。そんなに痛かったわけではないのだが。
「――悪かったな」
「……」
「……」
俺が言葉を探していると、珍しく謝った鏑屋に不意に抱きしめられた。抱きしめられた!? なにごとだ!? しかし、その体温に、ホッとしている俺がいた。そう、この温度なんだ。俺はこれが好きだ。他はなんだか違うのである。
ネクタイを解いてもらいながら、何度か深呼吸する。
鏑屋は、ドSだが、ほかの人々とは違う気がする。これはもしや、俺、もしかして――……理想のSと巡りあった!? ま、まさか! そ、そうか! そういうことだったのか! 鏑屋こそが俺の理想のSだったのか!!
俺は大発見した気持ちでいっぱいになったのだった。