<6>生徒会長は純情?(★)




 それから俺は――平たく言うと、鏑屋の部屋に軟禁された。一歩も外へと出してもらえないのだ。まぁ……あのお父さんと会うのは怖いのでよしとする。

 トイレも室内にあったし、シャワーもついていた。そして、ひたすら鏑屋に犯された。時間の感覚があいまいになっていく。ここへ来た日が27日だったと思うのだが、昼夜を問わず中を暴かれ、何度も意識を飛ばしたため、何日経ったのかわからない。

「あ、あ、あハ……っ……」

 視界の焦点が合わない。腰を掴まれ、ひたすら突かれた。ガクガクと体が震えているのに、許してもらえない。気持ちよすぎて死にそうだった。何度も前立腺を強く刺激され、俺はむせび泣いた。

 そして知った。玩具なんかなくても、縛られなくても、鏑屋の陰茎に激しく抽挿されるだけで、体が蕩けていくことを。鏑屋の首に手を回し、膝を立てて俺は受け入れている。もう俺の中は、鏑屋の形をしっかり覚えていて、入ってくるだけで達しそうになる。

 鏑屋は遅漏だと思うが、俺は早漏なのかもしれない……。それでも口を布で縛られている現在、このシチュエーションがどうしようもなく嬉しい。きつく布をかみながら、俺は首を振った。無意識に腰が逃れそうになる。だけどそうすると鏑屋がさらに体を進めるのだ。そして今日も俺は理性を飛ばす。

「俺のことを好きだと言え」
「あ、あ、あ」

 その時口布を解かれて、そんなことを言われた。思わず睨めつける。
 鏑屋の動きが止まった。俺は太ももを震わせながら、もどかしさに腰を揺らす。

 鏑屋は理想のSだと発見したが、俺は多分恋なんかしていない……よな? 俺は未だかつて、恋愛というものをしたことがないので、ちょっと良くわからない。ただ、最近鏑屋は、俺にこれを言わせようとする。

「す、好きじゃ……ない」
「言うまで動かねぇぞ。分かってんだろ? もう」
「う、ぁァ……や、嫌だっ」

 確かに俺の体はもう快楽にドロドロに染まっていて、鏑屋なしでは生きていけない気もする。しかし、俺が好きだといったところで、いつも鏑屋はせせら笑うだけなのだ。やはり、この関係が続くにしろ、続かないにしろ、俺は恋活をして、きちんと恋人を作りたい。

 もうすぐ新年だと思うから、その年こそ……!
 そんなことを考えていたら、鏑屋が白いプラスティックの何かを取り出した。なんだ?
 瞬きをしてみたら涙がこぼれた。悔しい。だが、言いたくない。俺はやっぱり、言わせられるのは嫌いみたいだ。鏑屋は手にしたそれを、すっぽりと俺の陰茎にはめた。――?

 なんだろうと思っていると、スイッチを入れられた。オナホだった。

「ひ、うああああああああああああああ!!」

 前に強制的な刺激が響いてくる。なのに中に入っている鏑屋は動いてはくれない。だけど俺は一発で射精していた。

「あ、ハ」
「もうお前、こういうの使っても、後ろをされねぇとイけねぇだろ?」
「や、やァあああ、やめろ、やめてくれ」

 なんどもなんども頭を振る。気持ちが良すぎて、俺はボロボロと涙をこぼした。強制的に煽られる快楽にも慣れつつあったけれど、久方ぶりの玩具に体が耐えられない。全身が震えだし、瞬時に熱くなった。

 それまでくすぶっていた熱が、一気に陰茎に直結し、すぐに再び果てた。それでも振動は止まらない。止まってくれない。もう出せない。必死で唇を引き結び、目もきつく伏せたのだが、快楽の本流に俺は飲まれた。

「うあああ、や、鏑屋っ」
「なんて言うんだ? あ?」
「あ、あ、好きだ、鏑屋のことが好きだっ、ふァああ、も、もう止、ゆ、許してくれ――!!」
「相変わらず声がでけぇんだよ」
「フ、ひぁ、ああっ、や、ン!!」

 鏑屋がようやくオナホを外してくれた。だらだらと俺が放ったものが垂れてくる。
 それからガンガン突かれて、俺は意識を失った。

 ――それにしても、鏑屋家はすごかった。

 出てくる料理は、どこの高級ホテルだという感じである。俺は部屋まで運んでもらい、毎日それを堪能した。人生でこんな食生活をする日が来るとは思わなかった。結構俺は満足している。何より気持ちがいいし、待遇も最高だ。服もすべて用意されていた。全て俺にぴったりのサイズだった。どうして俺の体型を知っているのかは不明だったが。

 ただ、どうしてこんなに良くしてくれるのかだけがわからない。
 鏑屋はペットには優しいのだろうか?


 鏑屋が初詣に行こうと言いだしたのは、そんなことを考えていたある日のことだった。

 俺は……全身を赤い紐で縛られた上から、和服を着せられた。動くたびに縄が食い込んでくる。縛られたのだ。縛られているのだ……!! そして下着は付けさせてもらえなかった。

 そのままの状態で、俺は除夜の鐘を聞きに連れ出された。
 その上、人ごみの中で、着物の上から陰茎を撫でられる。
 電車プレイではないが、痴漢だ。

「ふ」

 思わず俺の吐息に声が交じる。すると耳元で鏑屋が笑った。

「声を出すと周囲にバレるぞ。いいのか?」
「っ」
「顔が赤いな」

 耳の中にわざとらしく息を吹きかけられて俺は震えた。それからずっと並び、そして俺は新年のカウントダウンを聞く頃には、立っていられなくなりそうになった。

 乳首をこねられたり、陰茎を刺激されたり、もどかしくて、どんどん体の奥で快楽が燻りはじめる。おもいっきり後ろから突き立てられて、動かされたい。どうか早くそうされますようにと願いながら、俺はお賽銭を投げたのだった。

 それから連れて行かれたのは、近隣の高級ホテルだった。俺では気が遠くなりそうな額だろうスイートルームに当然のごとく入る。そして堂々と鏑屋が椅子に座った。

「姫始めだな」
「……」

 その言葉を聞く頃には、焦らされきった俺の体は限界を訴えていた。
 ベッドに座った俺は、多分すごく情けない欲情しきった顔で鏑屋を見たと思う。本当、ぐちゃぐちゃにして欲しかった。

 ――しかし、その欲求は叶わなかった。

「ひァ、あ、も、もういいからぁ、あ、ああっ」

 鏑屋は俺の着物をはだけると、ローションをたっぷりつけた指で、俺の肌をなでた。足首を掴まれたかと思うと、指を一本一本舐められる。それからふくらはぎへと舌を這わせ、俺の膝の裏をちろちろと舐め始めた。クラクラとしながら、俺は鏑屋の頭を押し返す。

 そうすると、時折ぬめる指で後孔をつつかれるのだ。時折第一関節まで入れられるのだが、それはすぐに抜かれてしまう。そのまま全身を舐められ、脇の下をくすぐられた。それからいつもの場所に噛み付かれて、俺は震えた。耳たぶも噛まれ、舌で奥を嬲られる。俺はもどかしさに泣き叫んだ。

「いやだ、いやだぁ――!! 鏑屋、うあああ」
「どうされたい?」
「っ」
「言えよ」
「ッ……い、いれてくれ……」

 もう羞恥などなかった。俺は耐え切れずに哀願した。すると楽しそうに笑った鏑屋に太ももを持ち上げられる。そして再び肌を舐められた。

「いやだ、あ、あああっ、うあああ」
「俺様の手でどこを触られても感じるようになった気分はどうだ? ん?」
「ふァあ、あ、あ」
「最高だろ?」
「あン――!!」

 そんなことを言ってから、ようやく鏑屋が腰を進めてくれた。しかし、動いてくれない。俺の腰が自然と揺れる。俺は鏑屋の肩に手を置き、気づけば思いっきり腰を振っていた。もう限界だったのだ。気持ちのいい場所に当たるように体を揺らす。

 それだけで俺は果てた。最近鏑屋は、しつこいくらいに俺を焦らす。そうされると、玩具を使われるよりも俺はすぐに理性を失ってしまうことに気がついた。

「ひあア――!! や、やぁァ――!!」
「たったの一週間ちょっとでここまで堕ちるとはなァ、風紀委員長様。形無しだな」
「鏑屋、鏑屋、あ、あ、も、もう俺、あ」

 なにか言われているのだが、もはや理解できない。俺は無我夢中で動いた。陰茎を鏑屋の腹にこすりつけ、そして絶頂を迎えた。そしてぐったりと体の力が抜けたとき、鏑屋が動き始めた。これも最近良くされる。

「無理だァ、あああああああ!!」
「嘘つき」
「ふあ、あ、俺、も、もう、できなっ――……!!」

 そして俺は空イキさせられるのだ。何度も、そう何度も。
 理性を飛ばした俺は、いつの間に眠ったのか、もう自覚できなかった。


 こんな風にして、冬休みは終わりを告げた。

 俺は寮へと戻り、きっちりと服を着て、今日も校内の見回りをしている。年明けになってからは、まだ鏑屋は風紀委員長室には来ない。体が疼いて仕方がないのだが、この時期は、風紀委員会は忙しいし、生徒会だって多忙だ。なぜならば、会長選挙が控えているからだ。俺達の次の代が決まるのだ。あの鏑屋が生徒会長でなくなるというのが、なんとはなしに寂しく思える。

 ただ鏑屋がこないせいなのか、冬休み前から冬休み中の出来事が、最近夢のように感じる。今でも一人の寮室では、俺は自分で自分を慰めているのだが……正直物足りない。鏑屋の熱いもので突かれたいのだ。

 もっぱら最近の俺のオナネタは鏑屋だ。我ながら末期だ。鏑屋との日々を思い出すだけで体が熱くなってくる。思わずため息が出てしまった。

 すると珍しく一緒に見回りをしていた、風紀の副委員長の、長谷川優馬 が俺を見た。彼はチワワであるが、古武術の道場が実家で大層強い。

「どうかしたんですか、委員長」
「いいや。問題なく今年がすぎればいいと思ってな」
「まぁそうですね。だけど僕、てっきり会長と喧嘩でもしちゃったのかと思いました」
「――……なんだって?」
「だって最近放課後、バ会長来ないじゃないですか」
「……それが?」
「何言ってるんですか。会長が、委員長のことをずーっとずーっと好きだったことなんて、全校生徒が知ってますよ」
「は?」
「ようやくクリスマス直前に恋が実ったって、みんな噂してますよ。そんな、照れないでくださいよっ」
「……待ってくれ、どういうことだ?」

 ま、まさか、だ。俺と鏑屋のドMとドSの関係が、バレて……いや、違うな。恋? 恋だと?

「え? 付き合ってるんですよね? だってずっと放課後密会してたの、みんな知ってましたよ。あ、知ってるんだから密会じゃないか」
「それは――……」

 俺は否定しようとして思いとどまった。否定したら、何をしに来ているのだという話になってしまう。そうしたら、爛れた関係――ひいては、俺のドMっぷりがバレてしまうかも知れない……!!

「たまには委員長から会いに行ってみたらどうですか?」
「……」

 結局俺は、何も答えられなかったのだった。

 それからひとりきりの風紀委員長室へと戻り、テーブルに肘をついて、指を組んだ。唇をそこに寄せる。恋……そうだ、俺は今年こそ恋活をしようと決意していたのだ。そして言われてみれば、最近の俺は、鏑屋のことばかり考えている。鏑屋の体温が恋しい。誰でもなく、鏑屋の体温がいいのだ。

 それは、鏑屋が理想のSだからだと思う。思っている。だが――もしや俺は……考えたくもないが、もしかすると、鏑屋のことを、ちょっと特別に思っているのではないのだろうか……? いいや、これは体がほだされただけだ。あとは、好きだ好きだといわされたからにほかならないはずだ。よな? 俺は、自分で自分がわからなくなった。

 ただ瞼を伏せれば、浮かんでくるのは鏑屋のことだ。たまに見せる笑顔がかっこいいだとか思ってしまう。俺はこれまで恋なんかしたことがないのだが、鏑屋の事を思うと胸が疼く。てっきり来てくれなくて体が疼いているのだと思っていたのだが、会えないことで精神的に辛いような気もする。

 これは……恋なのだろうか? 一度そう考えた途端、胸がドクンと高鳴った。ああ、多分俺は、鏑屋のことが好きなのだ。え、まじか……!

 いいや、まだわからない。一度、もう一度、しっかりと鏑屋を観察してみよう。


 そう決意し、俺は生徒会長室へと向かうことにした。
 そして隣の生徒会室前を通りかかった時、思わず足を止めた。中から鏑屋の声が漏れてきたからだ。話し相手は、副会長のようだった。

「わかってんだよ、俺様が最低だってことは」
「ええ、僕はずっと知ってましたよ」
「あのなァ、慰めろよ」
「それで? 冬休みは、軟禁したわけですよね? 軽く犯罪ですよ」
「ああ、そうだなァ。ただ俺様は……高河の体だけでも欲しかったんだよ。もう我慢の限界だったんだ。体だけでもいいくらいに――あいつのことを愛してる」

 俺は扉の外でぽかんとしてしまった。

 え? 嘘だろ? 副委員長が言っていたことは本当だったのか!?

 もしや俺と鏑屋は……両思いなのか!? いや、しかしだ。これを聴いていることを鏑屋は知らないわけである。俺はどうすればいい? どうすればいいというのだ? 大混乱していた――その時、肩を叩かれた。

「なにしてるのぉ? ふーきいーんちょー」
「!」

 会計だった。

「み、見回りだ」

 とりあえず俺は、逃亡することにしたのだった。
 実際見回りの仕事も残っていた。俺はなぜなのか胸がドキドキしっぱなしのままで、校舎を回った。注意などもしていたのだと思うが、さっぱり頭に入ってこなかった。両思い――? いやそもそも俺は鏑屋のことが好きなのか? まずはそこからだ。ただ……好きなような気がするのだ、やはり。

 その日の夜、俺は後ろに一人でディルドを入れながら、悶えた時、
 無意識につぶやいていた。

「鏑屋ぁ……もっとっ……」