【第四話】混乱の序幕




 

 ――放課後。

 本日の仕事を終えると、既に19時を過ぎていた。

 施錠して、風紀委員会室を出る。最後まで残っていた俺は、鍵を閉める時いつも、やりきったという感覚になる。

 寮の自室を目指して、エレベーターに乗る。豪奢な寮の外観は、ビルに似ている。床は白亜の大理石だ。

 俺の部屋は最上階にある。このフロアには、高等部風紀委員長と生徒会長の部屋しかない。これもまた、昔からの校則で決まっている。即ち隣室は、榛瀬バ会長の部屋ということだ。

 カードキーでドアを開けて、室内へと入る。

 一人で使うには、広すぎる部屋であるし、庶民の俺から見るといちいち豪華だ。

 コーヒーを淹れてから、俺はリビングのソファに座る。この白いソファも高級品で、就職先にもよるだろうが、ここを出たら庶民の俺にはきっと購入など不可能だ。座り心地が非常にいいから、今だけでも堪能しようと思う。

 今日も疲れた。

 だが風紀委員の皆がいてくれる。俺一人では無理かもしれないが、幸い俺は一人ではない。

 この日は、じっくりと入浴して疲れを癒やし、俺は早めに就寝した。



 翌朝――俺は真っ直ぐに風紀委員会室へと向かった。

 すると俺の執務机の上に膨大な書類の山が築かれており、俺以外の委員は誰もいなかった。普段は書類に専念している脇坂も不在だった。

「?」

 不思議に思いながら席に着き、書類の山の一番上にあった紙を手に取る。

「……なっ!?」

 それは器物損壊に関する報告書だったのだが――『校門の破壊』と記載されている。

 そんなことが可能なのだろうか。狼狽えながら読み進めると、校門の開け方が分からず破壊したと犯人が述べたとある。情状酌量の余地はあるが……そもそも校門を破壊……?

 犯人の名前は、藤竹馨と言うらしい。

「昨日榛瀬が話していた転入生か……」

 非常に怪力の持ち主のようだから、取り押さえるのが大変そうだ。きっと筋骨隆々としているのだろう。

 そう考えながら、俺はその下の書類に手を伸ばす。

「副会長が額にキス……?」

 俺は今度は虚を突かれた。一体どういう状況だ……?

 副会長は、腹黒い事に定評がある。いつも微笑をたたえてはいるが、それは上辺だと俺は判断している。

 しかしこれは、荒れるのは間違いない。副会長親衛隊が黙っていないはずだ。

 その下には、不良との喧嘩、他の器物損壊についてなど、転入生がこの数時間で起こした事件の資料が並んでいた。

「先が思いやられるな」

 思わず溜息をついてから、俺は確認サインを書く仕事を開始した。