【第五話】放課後の初対策会議
その日の放課後まで、俺は風紀委員会室で、続々と風紀委員達が摘発や報告をする転入生に関する仕事に追われた。皆が忙しすぎるのと、誰かが状況を全て把握しなければならないという観点から、情報集約を行うために、俺が委員会室に残り、全書類の作成とチェックを担当し、他のメンバーは転入生の動向チェックや、親衛隊の動きの把握に出かけた。
これが、酷いものだった。
器物損壊は数知れず、返り討ちが多いから情状酌量の余地はあるが過剰防衛というほかない不良達への暴行、そういった風紀の規則違反がまずある。
だが、根幹的な問題は、その部分ではなかった。
「食堂でもキスだと……?」
俺は報告書類を、何度も何度も確認してしまう。
なにやら教室では、寮で同じ部屋だという一匹狼と名高い生徒と気さくに話し、他にも親衛隊持ちの生徒や隣の席の生徒などと親しくなったのか、五人前後で昼食時に学食へといったらしい。
そこに生徒会役員達が来たそうで、なんとそこでも副会長はキスをしたのだという。
見分けがつきにくい双子を見分けたとも記載されているが、この情報はよくわからない。風紀委員であれば、最初に見分け方を委員会内部で通達しているからだ。
まぁそのような事態で、副会長親衛隊のメンバーのみならず、副会長に憧れていた生徒により、昼の食堂は阿鼻叫喚の地獄絵図となったそうだ。
これは、非常に危険である。
そこで本日の放課後には、風紀委員会で臨時の全体会議を開く事にした。
俺はそのために、ここまでの状況を整理したPDFを作成し、メンバーの連絡先に送信した。極秘資料である。
――こうして、放課後が訪れた。一度仕事を切り上げ、全員に出席するようにと告げ、今、一同がここに介している。
「臨時会議を始める」
俺はそう宣言した。
「議題は、転入生の藤竹馨に関してだ。各自スマホあるいはタブレットで、資料を見てくれ」
そのまま会議が始まった。
緊迫した顔をしている委員と、既に疲れきった顔をしている委員がいる。
資料を用いて一通り説明しながら、俺は今もなお、筋骨隆々とした生徒を思い浮かべていた。副会長の性癖は、そういうタイプだったのかと僅かに驚きつつも。なにせ副会長は、チワワと呼ばれるような華奢で可憐な男子に人気だからである。そもそもチワワはタイプでなかったという事か。
それが終わってから、続いて直に取り締まったメンバーの話を聞いた。
「では、明日からは重点的に、藤竹を見るようにし、適宜注意をしていこう。転入生自体が特別事例であるから、今回は三人、専任で見張りにつける。見回りなどの通常業務は、他の者に割り振る。あとは、見回りは特に副会長親衛隊のメンバーの動きをチェックしてくれ」
そのようにまとめて、この日の会議は終了した。
「委員長」
会議後、楓先輩が俺の肩に触れた。
「なんだ?」
「なんだかね、転入生の藤竹くんは、副会長だけでなく『人気者』……即ち、親衛隊持ちの生徒を、学年問わず、次々陥落させていると、僕に報告がきてるんだ」
「具体例があるのか?」
「食堂に連れて行ったのも、隣席の一人を除いて、みんな親衛隊持ちだよ」
「? 転入生にクラスメイトが配慮したわけではないのか?」
「仮にそうだとしても、副会長親衛隊以外も大荒れみたい」
「……そうか。親衛隊の存在と暗黙の規則を、それとなく伝えなければならないらしいな。抜け駆け禁止といった」
「そうだね」
この日はそんなやりとりをし、解散となった。