【二十九】一色(★)





 その後、迎えに来てくれた車で、涼鹿の別荘へと戻った。
 そして俺達の部屋に入る。浴衣のたたみ方をぼんやりと思い出しつつ、背後で扉が閉まる音を聞いた直後、俺は後ろから抱きしめられた。俺よりもずっと体格のいい涼鹿が、後ろから俺に両腕を回し、俺の肩の上に顎を置いて、それからさらに腕に力を込めた。

「悪い、限界すぎる。もう一度言う。好きだ」
「颯」
「……」
「俺もお前が好きだ」

 俺は首だけで振り返る。すると覗き込むように黒い瞳で見つめられ、それからまた、少し顔を傾けてキスをされた。触れあった唇は柔らかい。一度口を離してから、続いて涼鹿がより深い口づけをしてきた。俺の口腔へと、涼鹿の舌が忍び込んでくる。

「っ」

 絡め合った舌を、それから少し強引に引きずり出されて、甘く噛まれた。
 ピクンと俺の肩が跳ねる。ツキンと、快楽を彷彿とさせる熱が、俺の背筋を這い上がっていった。俺の腰を腕で抱き寄せ、何度も角度を変えながら、涼鹿がキスを重ねる。俺も両腕を涼鹿の体に回し、その感覚に浸る。何度も何度もお互いを求め合うようにキスをしてから、やっと名残惜しいものの口を離した時、俺達は再び見つめあった。

「颯の好きな相手というのは、俺だったんだな?」
「おう。好敵手と思われてなかったことが悔しいが」
「――いいや、これからは好敵手だ」
「今さらどうして? 恋人の間違いだろ?」
「恋人になったからだ。愛情の量、決して俺は負けない」
「言ってろ。俺様の方がそれだけは負けねぇよ」

 そう言ってお互い笑ってから、俺達はベッドへと移動した。浴衣を脱がせあいながらも、何度も何度もキスをする。

「ン」

 涼鹿の口が、俺の首元に降ってきた。ツキンと疼いて、キスマークをつけられたのだと分かる。涼鹿は左手で俺の胸の突起を弾いてから、じっと俺を見た。その瞳は、獰猛だ。

「梓が欲しい。ずっと欲しかった。抱きたい」
「――そうか。颯がそうしたいなら、それでいい」

 元々俺にだって肉欲はあったが、ここに来て俺は、明確に自分が受け身側なのかと認識した。俺は涼鹿が相手ならばどちらでもよいと思ってはいたが、緊張が無いとは言えない。別に涼鹿を押し倒したいと思うわけではないし、上下に希望はないが。

「ッぁ……」

 涼鹿が唇で、俺の右胸の乳首を挟んだ。そしてチロチロと舐める。右手では俺の脇腹を撫でてから、俺の陰茎を握り混んだ。それからゆっくりと擦られる。その優しい手つきに、すぐに俺の陰茎は反応を見せた。

「っ、ぁ」

 俺の息が上がっていく。
 親指で筋をなぞられ、雁首を刺激され、それから鈴口を嬲られる。口と左手では、暫く胸を愛撫された。

「真っ赤だ」
「言うな、そういう事を……」

 俺の朱く尖った乳首の感想を述べた涼鹿を、思わず睨む。

「あっ」

 すると甘く乳頭を噛まれて、俺の背が撓った。
 涼鹿はそれから、二本の指を口に含むと、左手を俺の太ももに添え、唾液で濡らした右手を俺の窄まりに当てた。そして襞を確認するように動かしてから、人差し指の尖端をゆっくりと後孔へと差し入れた。

 異物感が凄い。
 そう思ったのは、けれど一瞬だった。
 指が進んでくる内に、俺の中で一つになれるという喜びが勝りはじめ、違和感が消えていく。弧を描くようにして入ってきた指が、二本に増える頃には、その思いはより強くなっていた。涼鹿の人差し指と中指が、次第に進んでくる。

「ああ、ッ!」

 そして前立腺を優しく刺激された時、俺は思わず声を上げた。
 中での快楽など俺にとっては初めての経験だ。恋愛のHowTo本を見ていたレベルの俺であるが、検索などをすべきはSexについてだったのかもしれないと、喉を震わせながら考える。

「ぁ、ぁァ」
「ここか?」
「ん……そこは、変になる」
「どんな風に?」
「頭が真っ白になる、っ――ぁあ!」

 探り出したそこばかりを、涼鹿が責め始める。俺の体がじっとりと汗ばんでいく。俺の陰茎は反り返り、内部を刺激される度に、たらたらと先走りの液が溢れるように変わる。

 指の抜き差しが始まり、程なくして数が三本に増えた。
 俺は荒く呼吸しながら、浮かんできた涙をそのままに、涼鹿を見る。

「あ、ああっ……ぁ……ン」

 バラバラに動き、俺の中を解していた涼鹿の指が、少しして引き抜かれた。

「梓、愛してる」
「んぁ、っ、俺も」
「挿れるぞ」
「んン、あ、ァッ――!」

 指とは全く違う熱い質量が、俺の中へと押し入ってきた。押し広げられる感覚がし、中が満杯になる。自分でも内壁が絡みついているのが分かり、そんな中を擦りあげるようにして、硬い涼鹿の陰茎が進んでくる。

「んンぅ!」

 前立腺をぐりっと刺激され、俺はさらに涙を浮かべた。快楽由来の生理的な滴が、俺の眦から零れる。涼鹿もまた荒く吐息し、それから俺の腰を掴むと、より深くぐっと陰茎を突き立てた。

「ああ! あ!」

 声を堪えるなんて無理だった。
 熱く硬い芯が、俺を深々と穿つ。その間も進んできた涼鹿の陰茎が、俺の体をどんどん熱くさせていく。

「動くぞ」
「んア――!! っ、ぁァ……あ、あ、ン……ああっ!」

 激しい抽挿が始まり、俺の中がドロドロになっていく。震える息と声を零しながら、俺はこみ上げてくる快楽に浸る。俺の陰茎が、涼鹿の腹部にこすれた時、俺は一度放った。すると俺の呼吸が落ち着くまでの間、涼鹿が動きを止めた。そして俺が落ち着いたのを見計らってから、揺さぶるように腰を動かす。

「あ、あ、あ」

 ギリギリまで引き抜いては、より奥深くを探り出すような動きに変わり、それが次第に速くなる。打ち付けられながら、俺は思わず涼鹿に抱きついた。

「悪い、抑制が効かねぇ」
「ん、ぁ……颯、っ、あ、ああ……」
「もっと名前を呼んでくれ」
「ン――っ、ァ! ああ! 待っ……また、イ……っ、ああ!」

 一際強く内部を突き上げられた瞬間、俺は今度は前を触られていないというのに、再び射精欲求に囚われた。さらなる快楽を全身が渇望している。出る、と、そう思った時、さらに深くを激しく貫かれて、俺はその衝撃でまた果てた。するとほぼ同時に、内部に飛び散る白液の感触を覚えた。必死で息をしながら、俺は涙で滲む目を、涼鹿に向ける。涼鹿は、ずるりと俺の中から陰茎を引き抜き、俺を抱きしめるように腕枕して、横になった。

「好きすぎて、全然足りねぇ」
「……颯」
「ん?」
「俺だってもっとお前が欲しい。だから、いくらでも」
「! 煽ったな? 今夜は眠らせないからな」

 こうして直後、二回戦が始まった。
 その後の別荘での日程の期間、俺達はほぼずっと、交わっていた。

 落ち着いたのは、滞在予定最終日の入浴後のことである。アニバを回すはずが、ほとんどずっとお互いを求め合っていたものだから、俺達はログボを貰う程度しか、【タイムクロス】をしていなかった。しかし必ずログボは貰っていた。

「なんだか予定が狂ったな」

 後ろから抱きつかれている状態で、俺は下だけ穿いたまま、上半身は裸でスマホを手に取る。すると俺に抱きついている鈴鹿が、俺の耳元で言った。

「もっと泊まっていかねぇか?」
「……いいのか?」
「おう。もっと梓と一緒にいたい」
「俺も同じ気持ちだ」

 それから俺達は、唇を重ねた。そしてこの日、兄に連絡を入れて滞在期間を延長することにしてから、再度俺達はベッドになだれ込んだ。

 このようにして、俺の夏休みの思い出は、涼鹿一色に染め上げられたのである。