<4>俺は反省文を書く覚悟をした。★





「え、えっとだな、聞いていたか? 今も撮ってるし、俺はお前を好きじゃないし、だから気分はどうだと……」
「お前に突っ込まれたい、もっとやってくれ。俺もう無理」
「ぶは」

 気持ちよすぎて俺の理性は吹っ飛んでいた。
 俺は思わず篁のシャツを両手で掴み、涙ぐみながら篁の目を見た。

「え、ちょ、なんだよその潤んだ瞳は」
「……篁」
「やめろ、かすれた声で囁くな! 今度はお前が俺をからかってるのか!?」
「抱いてくれ……」
「な」
「……イれて」

 俺の言葉に篁がビシリと硬直したのがわかった。
 だがもう俺は止まらない。

「う……あー、クソっ、綾崎のクセに! お前なんだよその色気は!?」

 すると篁が、今度は噛み付くように俺にキスをした。

「俺はガタイがいいのは趣味じゃないんだ! お前は俺の好みの百八十度向こうだ!」
「……ぁ」
「喘ぐな!! 気持ち悪い!!」

 もうなんと言われても良い。このチャンスを逃してなるものか!
 俺は、体に力を意識して入れて――篁の腕を引っ張った。

「うあ!?」

 そして篁を押し倒して、体勢を変えた。
 最初に俺を押し倒したのは奴だ――というのはきっと言い訳にはならないだろう。
 反省文は俺が書かなければならなくなるだろうが、もう良い。

「ちょ、ちょっと待て、綾崎!」

 俺は篁の制服の下をおろして、アレを握った。
 手をしばらく動かすと、すぐにそれは反応を見せた。
 そして――俺は乗っかった……!

「う……ン……」
「バカが! 待っていっただろうが。あの程度ならしただけじゃキツイに決まってるだろ」
「あ、あ、アツっ、あ、すご」

 篁が何か言っていたが、俺は気持ちよくて、篁の肩にしがみつきながら、腰を落とすのに必死だった。初めてのソレは、暑くて太くて硬い。

「あ、あ、あ」

 声が震えた。体が溶けそうだ。
 体の力が抜け――そうしたら、一気に腰が落ちてしまった。

「うああっ、あ、ああ」
「チッ」

 舌打ちして、篁が俺の腰を支えてくれた。俺は必死で息をしながら、改めて篁を見た。こうして見ると、本当に男前である。一回突っ込まれてみたかった相手である。夢が叶ってしまった。しかし、俺の中は満杯になってしまい、もうどう頑張っても動けそうにない。これだけで気持ち良かった。

「篁……」
「あ?」
「どうしよう、気持ち良くて動けない」
「っ……お、お前な、恥とかはないのか?」
「もう良い。お前だってさっきのやつ、流すんだろ? 給食とかで。そしたら俺退学だしな……最後くらい、良い思いを」
「え、いや、俺もそこまで鬼じゃ――……正直検討中だったとは言え……それやるとお前の兄まで職を失うからと――って、最後?」
「いいだろそういうのは……っ、ぁ……ぁ……はっ……うう」

 篁は動かないので、騎乗位で繋がったまま、俺は篁の肩を持っていた。
 するとどんどん熱がこみ上げてきて、何かが内側からせり上がってきた。
 これは、一人でヤっていた時には感じたことがない。

「あ、あ、た、篁――な、なんだか今日、体が変だ。何かクる」
「――へぇ。そこの玩具とどっちがいい?」
「こっちだ」
「まぁその程度の安物――高かろうが人工物ごときに俺様が負けるわけは無いが……――お前、こういう時は素直なんだな」
「……ぁ、あ……」
「いつもと全然違うな」
「あ!」
「気に入った」
「ああああああああ」

 その時、唐突に篁が動き始めた。下から強く突き上げられて、揺さぶられて、俺の頭は再び真っ白になった。その上、せり上がってきた感覚が、前と直結し、俺は大きな声を上げた。そして――そのまま、放っていた。以後の記憶はない。


「ん……」

 目を覚ますと、俺は汗をかいていた。髪の毛がこめかみに張り付いていた。

「起きたか?」
「喉……乾いた……」
「ったく。ほら、水だ」
「……」

 溜息をついた篁が、俺にミネラルウォーターのペットボトルを差し出した。
 しかし、受け取ろうとしたら体に力が入らず、俺は取り落とした。
 頭がぼんやりとする。

「大丈夫か?」

 すると篁が、キャップをあけて、俺に飲ませてくれた。
 喉が癒されていく。案外優しいんだなと思った。

「ありがとう」
「おう」
「――……体、拭いてくれたのか?」
「まぁな」

 手馴れているなと改めて思った。不純交友はしていないだとか言っていたが、それが嘘だというのは、これまでに何度も取り押さえているので分かっている。そして相手側の事情聴取の結果、篁が玄人だというのも俺は知っていたし、実際今回、こいつは上手すぎた。

「悪いな。はぁ……――帰る」
「風紀委員長様も当然反省文を書くんだろうな」
「ああ、そうなるな。悪かったな、好みじゃないガタイのいい男を抱いてもらって」
「……いや、その」
「安心しろ。盗撮して弱みを探すほど目障りな敵は、学園を辞めるから」
「いやいやいや、待て」
「満足か?」
「チッ、だから、あのだな、俺は、別にそのなんだ? なんというか、お前が屈辱的な目に会う姿が見たかっただけで、お前がいなくなったらそれは見られないだろうが」
「……」
「そ、それに、今の悪くなかったしな。セフレなら良いぞ?」
「――何?」
「お前、後ろが好きなんだろう?」
「まぁな」
「だが、それが映像はともかくバレたら学園を去るほど秘密なんだろう?」
「いやそういうわけじゃない。バレるのは良い。むしろバレて、誰か俺を抱いてくれるやつを見つけたい」
「ダメに決まってるだろうが! お前は俺のものだ! あ、いや――……違う、違うからな、俺はお前を好きじゃないからな! と、とにかく! この学園に俺以上に突っ込むのが上手い奴はいない! 断言していない!」
「かもしれないが、話によると会計も上手いらしいな」
「あ? 隼人のことか? お前まさかああいうチャラ男がタイプなのか?」
「いや、どちらかといえば、お前みたいな俺様に突っ込まれたかった」
「ぶはっ」

 俺の言葉に篁が照れた。咳き込んでいる。

「だったら俺がセフレで何の問題もないだろう」
「セフレというのが論外だ」
「じゃあ何か? お前は恋人を作って突っ込まれたかったってことか?」
「そういうわけじゃない。そこまで考えてなかった。ただ、篁と肉体関係を継続するのはちょっと嫌だなと思ってな」
「あ? 悪かったとでも言うのか?」
「いや死ぬほど気持ち良かった」
「げほっ、ちょ、ストレートすぎる! じゃあ何が問題なんだよ?」
「お前のところは親衛隊が怖すぎる」
「あー……」
「それに、こんなのがバレたら、兄にも迷惑がかかるからな」

 兄は、腐男子ライフを邪魔されたら、俺を殺しかねない。
 兄は俺よりも腕がたつのだ……。
 今は、軟弱な白衣の生物教師を装っているが、仮面である。

「安心しろ、俺の口は硬い。とにかく学校を辞めたりはするなよ」
「……」
「返事」
「……ああ」
「じゃあ、明日から毎日、ここに集合な」
「――は?」
「連絡先はさっき携帯から盗らせてもらった。もっと気持ち良くしてやろうじゃないか」

 こうして――俺の願いは叶うことになったのである。
 なお、この関係は秘密となったので、反省文は書かなかった。