【第二話】生徒会長の来訪
――その夜のことだった。
寮のリビングにいた俺は、玄関のノックの音に視線を向けた。
風紀委員長には特権があるため、ここは一人部屋だ。ただめったに来訪者などいない。それこそ急な事態に風紀委員のメンバーが呼びに来るくらいだ。今回も何か事件が発生したのかと考えて、俺は立ち上がり、急いで玄関へと向かい、扉を開けた。
「よぉ」
するとそこには、生徒会長の如月上総が立っていた。
如月は肉食獣のような目をしていて、性格は俺様という言葉を体現したような唯我独尊的なものだ。長身で肩幅も広く、引き締まった体には綺麗に筋肉がついているのが、吹越でも分かる。俺もそう低身長というわけではないが、如月は俺よりも頭一つ分は大きい。
基本的に、生徒会と風紀委員会は敵対している。
如月はいつも、何かと突っかかってくるので、俺も個人的に好きではない。なにより、生徒会長親衛隊は、学内で最も騒ぎを起こし、厳しい制裁行為をする。それを管理しないバ会長だと、俺は思っている。
「なんのようだ?」
「親衛隊のことでちょっとな。相良、部屋に入れろ」
「――そうか」
もしかしたら、漸く管理をする気になったのかもしれない。ならば話をするのは構わないと思い、俺は頷いて、部屋に如月を入れた。
「座っていろ」
リビングのソファを示してから、俺は珈琲を淹れるために、奥のキッチンへと向かった。そこでポットからカップにお湯を注ぎ、インスタントの珈琲を淹れる。そして振り返ると――なんと真後ろに如月がいた。気配など全くなくて、俺が目を丸くしたとき、ニヤリと笑って口角を持ち上げた如月が、片手に持っていた小さなボトルの蓋を開けた。すると、その場に甘い香りが広がる。
「っく」
俺は鼻や口から、その香りがするなにかを吸い込んだ。
結果――全身から力が抜け、俺は如月に抱き留められた。それを認識したのを最後に、意識まで手放したようだった。視界が、完全に暗転した。