【第五話】二度目の交わり(★)



 ――ドクンドクンと、動悸がする。
 風紀委員会室で書類をこなしながら、俺は唇を噛んだ。
 他の委員達は、皆見回りに出ている。

 何度もノートパソコンのキーボードを打つ手が止まる。指先が自然と震えるのは、一人きりだと昨夜の恐怖が蘇るからだ。俺は幾度も腹部に手を当て、内側に宿ったのだろう卵の核について考える。もう二度と中に出さなければ、卵は育たないはずだ。けれどそれは、永遠に俺の中に異物があると言うことでもある。それもいやだ。

 しかし……一度産みつけられてしまえば、除去する方法は無い。

 この日俺は、一人の時は終始青褪め、委員達が戻ってくると不思議と普段通りの意識になり、檄を飛ばしながら一日を終えた。

 寮の部屋に戻り、俺はシャワーを浴びる。これはいつものことで、俺は毎日夜と朝にシャワーを浴びる。出てから俺は私服に着替え、壁の時計を見上げた。これは寮に元々ついていた丸い時計だ。現在は、七時五十五分。緩慢に瞬きをした俺は、本日は恐怖から喉を通る気がせず、昼食以外食事をとっていない。

 八時ジャストに、インターフォンが音を立てた。
 すると意識的には嫌だというのに、俺の体はふらふらと立ち上がり、玄関の鍵を開けた。

「良い子で待ってたか?」

 そこに立っていたのは如月だ。ニヤニヤと笑っている如月は、小首を傾げると、俺に詰め寄り、中へと入ってきた。そして、扉が閉まると、俺の顎を持ち上げた。

「あ……ッ……」

 深い口づけが降ってくる。舌をねっとりと絡め取られ、歯列の裏側をなぞられ、強く口を吸われる。そして舌を引きずり出されて甘く噛まれた時、俺の腰から感覚が消え、奥深くが疼いた。ドクンと、俺の中のなにかが、如月の熱を求めているのが分かる。きっと卵の核だと確信した。また、俺の体は快楽しか拾わなくなる。

「来い」

 俺を抱き留めていた如月が、俺の体勢を無理にただし、俺の腕を引いてリビングに入った。そしてそのままソファに押し倒す。直後、引き裂くように俺の服を開けた。

「ああっ、ン!」

 如月が俺の右の乳首を噛む。痛みがあって、俺はギュッと目を伏せる。もう一方の手では、俺の陰茎を握りコミ、如月が擦り始める。そのまま痛みと快楽を同時に与えられ、俺はいたいのが気持ちいいと思うようになってしまった。

「あ、あ、あ」

 俺の口からは、ひっきりなしに声が零れる。気持ちいいことしか、もう分からない。

「挿れるぞ」

 鳴らすでもなくそう言うと、如月が俺の右脚を持ち上げて、斜めに俺を貫いた。挿入時には痛みがあったが、蜘蛛特有の愛蜜がすぐに溢れ、ただ気持ちが良いだけに変わる。

「あ、あ、やぁァ……あ、ン――!!」

 根元まで突き入れた如月が、激しく腰を揺さぶり始める。太く長すぎるものが、本日も俺の結腸を穿つ。

「やぁあああああ」

 肉壁に陰茎が当たって触れている箇所から、壮絶な快楽が染みこんでくる。ギチギチに広げられている菊門から、最奥までの全てから、快楽が響いてくる。ぐちゅりぐちゅりと音が響き始め、俺は羞恥と恐怖に駆られる。

「いやだ、頼む、これ以上出さないでくれ。卵が――」
「ん? 卵を育てるために、今日は何度も出してやる。産み付けるだけだった昨日とは違う。今日からは、育てねぇとならないからな」
「うああああああああああ」

 一際強く打ち付けて、如月が放つ。長々と放たれていると、俺の内側がドクンとした。何かが疼く。俺は号泣した。快楽が強すぎて、息ができない。気づくと俺も放っていた。
しかし如月のモノは出したにもかかわらず萎える気配が無い。それもまた、蜂の特性だ。卵の核を育てる時、蜂の陰茎は硬度を保ったまま、何度も射精可能だという。だから俺は果てたばかりだというのに、ガンガンと激しく突き上げられ、絶頂に追い打ちをかけられる。

「いや、ぁ、無理だ、あ、待って――うああああああああ」

 俺達の結合箇所から、大量の白液が零れ出す。コポコポと音がする。ギリギリまでずるりと引き抜いては、ゆっくりと内壁を擦るように如月が腰を進める。それを繰り返され、俺はもどかしさからも泣いた。

 ――もっと欲しい。

 怖いはずなのに、体が止まらない。俺は無意識に、如月の首に手を回していた。すると今度は俺の腰を掴んで、激しく如月が打ち付け始める。

「あ、あ、またイく、やぁァ――!!」
「――イきすぎても辛いだろうな、ああ、そうだ、いいものを持ってきたんだ」

 せせら笑った如月が、纏ったままの制服の上着のポケットから、金色の輪っかを取り出した。そしてそれを、ガチャリと俺の陰茎の根元に嵌めた。

「う、うぁ、あ、なに、あ、ハ」
「コックリングだ。これで中で果てるだけに変わるだろ? 少しは楽になるんじゃねぇか?」

 楽しそうに如月は述べたが、出せなくなった俺は子供のように頭を振る。俺にとっては残酷な言葉だったからだ。こうして出せない状態で、再び結腸を貫かれる。その先にある蜘蛛特有の器官に、たっぷりと精液を注がれる。脈動する俺の中が、如月を求めている。

「あ」

 その時、ドライオルガズムが、俺の全身を支配した。俺の理性が焼き切れる。
 ガクンと体を揺らし、俺は中だけで果てた。全身を快楽が絡め取る。

「さて、場所を変えるぞ。寝室に行け」

 俺は泣きながら、陰茎を引き抜かれた後、荒く呼吸しながらそれを聞いた。
 俺の体は、如月の指示に従い立ち上がる。
 そしてふらふらと寝室へと向かった。

「ベッドの上で四つん這いになれ」
「……」

 俺は言われた通りにした。どんなに嫌でも、体がその通りに動く。
 尻を突き出す形で四つん這いになった俺の腰を掴むと、如月が再び挿入した。そして擦りあげるようにゆっくりと、抽挿を始める。やはりもどかしい。俺はギュッと目を閉じ、切ない快楽に耐える。

 ――もっと、激しくされたい。

「どうされたい?」
「あ、あ、抜いてくれ」
「本音を言え」
「も、もっとぉ、あ、もっとくれ、もっとしてくれ、やぁ、やだ、あ、イきたい」
「それでいい」

 俺の哀願に吹き出してから、激しく如月が打ち付け始めた。肌と肌がぶつかる乾いた音が響く。ぐちゅりねちゃりと、白液と愛蜜が混じった音も響いている。そこに俺の喘ぎ声と、如月の荒い吐息が混じる。

「ああああああああああああああああああああああ!」

 この夜俺は、射精できない状態で、内部に散々注がれた。
 事後――ずるりと肉茎を引き抜いた如月が、嘲笑するように口角を持ち上げた。
 俺は虚ろな瞳でそれを見る。体内で、ドクンと何かが脈動した。確かに何かが蠢いた。きっと、核が卵の形になり始めているのだろう。

「ああ、今日も満足だ。明日からも、毎日八時に来てやる」
「……」

 俺の頬には涙の後があるだろうが、既に泣く気力すら起きず、俺は虚ろな目をしていた。

「楽しみにしていろ。もっともっと、その何も知らないてめぇの体、開いてやるよ。お堅い風紀委員長様。もうお前は抗えない」

 愉悦たっぷりに言われた言葉に、俺は絶望するしか無かった。