【二十】「抱き枕コースにも、オプションを付けます」(★)
「ん――っ!!」
それまで大きく声を上げていた俺だったが――いざ、本物が挿ってきた瞬間には、声が喉で凍りついた。何よりも、熱すぎる。
「平気か?」
少し掠れた声でルカス陛下に聞かれたが、頷く余裕すら無い。
「……っ……ッッッ」
「落ち着いて息をしろ、大丈夫だろ?」
「だめ、全然大丈夫じゃな……あ、ああっ」
先程までの指とは比べ物にならない太い陰茎が、実直に進んでくる。触れている箇所の全てが熱くて、そこから全身が蕩けてしまいそうになる。ギュッと目を閉じて快楽に堪えようとすると、涙が再びこみ上げてきた。全身が熱い。
「あああっ」
ゆっくりと、しかし着実に奥深くまで貫かれる内に、俺は次第に訳が分からなくなりはじめた。頭が真っ白に染まっていく。
「!!」
その時ルカス陛下が陰茎の先端で、指で散々嬲っていた俺の感じる場所を突き上げた。全身をしならせた俺は、声を上げそうになったのだが、衝撃が強すぎてやはり声が出てこない。これが、セックスだというのか。そうだったのか。未知との遭遇すぎる。俺は知らない、こんな感覚は。これまでの人生には存在しなかった。
「あ、ああっ、あ、あア、んン――!! あ、ああっ」
すると大きく動かれて、俺は今度は悲鳴じみた声を上げた。快楽が怖すぎる。自分の体が自分のものではなくなってしまう感覚だ。
「あン、んあ、ああっ、うあ」
「まずいな」
「あ、ああ、あ、っ、ン」
「出そうだ」
「む、むしろ、まだ出ないのか? 長い! 無理、無理!」
「――今出したら、早すぎないか? まだ挿れてから一分くらいだぞ」
俺には非常に長く感じるし、どうしてそんなに余裕を持って喋れるのかも分からない。俺は涙目でルカス陛下を見上げた。
「早く……」
「っ、それは、もっと激しく動いて良いというお許しか?」
「え? 今もう十分激し――んあアああああ!」
ルカス陛下は俺が言い終わる前に、それまでよりもずっと激しく動き始めた。屹立したものが、俺の中を何度も暴く。その度に、香油がたてる水音と、俺達の息が室内に谺する。
「あ、ああっ、うあ、あア!!」
何度も激しく打ち付けられる内に、俺はもう泣きながら喘ぐしか出来なくなった。体に力が入らない。腰がふわふわする。
「やぁァ」
中を激しく貫かれた瞬間、俺は放っていた。すると、一度ルカス陛下が動きを止めた。
「大丈夫か?」
「……っ」
俺の呼吸が落ち着くまでの間、そのまま陛下は動きを止めていた。するとその形をよりリアルに実感して、再び俺の体は熱を帯びた。
「あ、ああっ、陛下」
「なんだ?」
「もっと――ッ、んあ、あああああ!」
するとルカス陛下が激しく抽挿した。何度も打ち付けられて、中へと放たれた直後、俺もまた放った。連続して出したものだから、全身から一気に力が抜けてしまった。
「オルガ」
陛下は体を引くと、ぐったりとした俺の目元の涙をぬぐい、俺の隣に横になった。そして俺を抱き寄せた。添い寝コースと変わらないはずなのに、弛緩した体でルカス陛下に頭を預けると、不思議と満たされた気持ちになってくる。
「陛下」
「ん?」
「抱き枕コースにも、オプションを付けます」
「――毎朝キスはしたいが、今の行為は添い寝コースのオプションだったつもりはないぞ。お前が好きで、俺が欲しかったんだ」
「そうじゃなくて、添い寝コースに幸福感がプラスされたお礼です」
「幸福感?」
「なんだか俺、今、幸せな気分なんだ」
そう言って、俺はルカス陛下の体に額を押し付けた。そうしていたら、無性に眠くなってきた。ルカス陛下は驚いたように息を呑んでいる。
「俺も幸せだ」
「おやすみなさい」
「聞けよ! ……ああ、だが、そうだな。無理をさせた……というほど激しくしたつもりはないが……ゆっくり休もう。夜会もあったわけだしな」
その声を耳にした直後、俺は眠ってしまったようだった。
翌朝――目を覚ますと、俺はやはり抱き枕にされていたが、ルカス陛下は目を開けていた。そして優しく笑うと、俺の額にキスをした。俺は体が気だるかったから、されるがままになっていた。それから一度目を閉じて、息を吐く。
「おはようございます」
「おはよう。体は大丈夫か?」
「気分で言うと、登山した次の日の気分です」
「わかりにくいな」
ルカス陛下は喉で笑うと、俺を抱きしめ直した。
「まだ眠い……」
「今日は夜会の翌日という事で、妃の書類仕事は昨日調整していただろう?」
「うん。おやすみだ」
「きちんと把握して事に臨んだからな」
「陛下は?」
「――ずっとここでこうしていたいが、俺はいつも通り、もうすぐ謁見の時間だ。オルガは寝ていてくれ」
そう言うと陛下が起き上がった。俺は陛下の代わりに枕に頭をあずけて、もう一眠りする事に決めた。全身が心地の良い倦怠感に包まれているのだ。瞬きをした後には、再び寝ていた。
「オルガ様!」
「ん」
俺が次に目を開くと、そこにはレストの姿があった。ハッとして俺は飛び起きて、シーツにくるまった。
「遅いお目覚めですが、何はともあれ、おめでとうございます」
レストはにこやかに俺を見ている。その声で、一気に昨日の事を思い出し、俺は顔から火が出そうになった。ちらっと自分の体を確認したら、キスマークがついていた。見られてしまった……。俺と陛下の間に何があったかは、一目瞭然だろう。
「入浴の準備は出来ております。その後で、お食事をお持ち致しますね」
「あ、ありがとう……」
こうして、俺は新たなる朝を迎えたのである。