【八】俺、魔王様に報告する!
「して、どうであった?」
「――!?」
ふて寝した結果、俺は呆然とすることになった。
なにせまた、目の前に魔王さまが立っていたからである……え?
「だから、どうであったのだ?」
「……」
「抱かれた感想を早く述べよ」
まじまじと俺を見ている魔王さまの前で、俺は硬直した。
早い、早すぎる! こんなに早く成果を求められるだなんて俺は思ってもいなかった!
「どうした?」
「……」
「まさかとは思うが、我の言いつけを破ったのか? 抱かれなかったのではあるまいな?」
魔王様の瞳が細くなった。思わず唾を飲み込む。まずい。命令違反は、最悪処刑だ。コウノトリからやり直しとなる……。背筋が冷えた。
「勇者が結界を張っているため、今回に限って見えなかったのだ」
しかし、続いた魔王様の言葉に、俺はちょっとホッとした。
首がつながったからである。
――先程の乳首の件が見られていなくて良かったという思いは、少ししか起きなかった。
「で、どうだったのだ?」
「あ、いや、その……」
「ふむ」
「や、ヤりました!」
気づくと俺は嘘をついていた……だって死にたくなかったんだ!
同時に、こう、性的な方面に弱いですなんて恥ずかしくて言えなかったのである。
見栄だ。魔王様の前で、俺はちょっと色っぽさを演出したかったのかもしれない。
だってもう子供ではないのだ。大人の魔族ならば、こういう命令の一つや二つ、さらっとこなすのが普通だと思うのだ……。
「そうか。それでどうだったのだ? 早く言え」
「え」
だが――そう言われて困ってしまった。
言えと言われても……え?
ヤったかヤってないかだけでなく、感想も言わないといけないのか……? 嘘だろ?
「き、き、気持ち良かったです!!」
俺は頑張って余裕がありそうな笑みを浮かべた。
「さすがは勇者でした! 立派な剣を持っていました!」
「我は、下ネタを聞きたいわけではない」
「ぶ」
なんとか冗談で切り抜けようとしたのだが、バッサリと切り捨てられた。
「詳細に教えてくれ。今後の参考にするのだからな」
「え……」
「まず、どのようにされたのだ? 最初から聞かせてくれ」
俺は焦った。動揺した。どうしよう。なにを言えばいいのだろうか。
必死で頭を回転させる。もちろん嘘だとバレたら、それこそ処刑だ。
――ここから、俺の嘘報告が始まった。
「さ、最初……は、その……まず、勇者は強引で……魔王様の命令に従い抱いてくれと口にした俺を、人間が睡眠時に用いる寝台に押し倒しました」
「ほう。それから? どのように服を脱がせられた?」
「えっ……っと、最初は、服の下に手が忍び込んできて、ち、乳首を触られました」
そうだ、嘘には多少の事実を混ぜ込んだほうがそれっぽくなるだろう。
「そして強い魔力を注がれて、俺は……、は、は、果てました!!」
「なるほど乳首責めか。我もよくやる」
「っ」
「それから? 前がベトベトになったから下を脱がせられたということか?」
「そ、そうです! その通りです! さすがは魔王様!」
「――似たようなことを毎夜セレナとしているからな。だが我はそこから先に進まぬ。勇者はその後どうしたのだ?」
「え、ええと、お、俺に、その、だ、だから! あれです!」
「具体的に言ってくれ」
「俺に魔力を沢山注ぎました」
「だからどうやって?」
「っ、え、っと、あの……食事と同じで、体を魔力で満たされました」
「つまりお前の口に、勇者がつっこんだのか」
「え!? え、ええ! そうです。俺は口で魔力を受け入れました!!」
俺も話でだけは聞いたことがある。口淫時に魔力を注がれると、非常に気持ち良いらしいのだ。食事といったから、魔王様はそれだと誤解したのだろう。
「勇者は口の中に出したのか? お前の顔にかけたのか?」
「へ!? え、あ、え……――か、顔に……」
小声で俺は答えた。勿論こんな事実はない。全くない。
ただ、想像した限り、強い魔力を含んだ精液を口の中なんかに放たれたら、快楽で狂い死んでしまいそうだと思って、そう答えたのだ。
「やるな、勇者め……――ちなみに、どういう体勢で口淫をしたのだ? 69か?」
「え? あ、はい! それです!」
俺はよくわからなかったが頷いた。69とは、なんだろう?
「ならば勇者もお前のものを咥えていたのか? それとも中をかき混ぜていたのか?」
「!? あ、ええと……」
俺は悩んだ。一体それは、どういう状況になるのだろう?
頭の中で様々な体勢を考えてみる。
しかし、お互いが咥える体勢というのが思いつかなかったので、嘘だとバレかかっていてカマをかけられているのではないかと怯えた。
「か、かき混ぜられました! それはもう丹念に!」
「グチュグチュのドロドロにされたのか? 指で」
「はい!」
「何本入った?」
「え、あ」
「三本くらいか?」
「そうです! その通りです魔王様!」
「なるほど、じっくりほぐされたわけだな。そして、どのように挿入された?」
「!」
俺は想像しただけで、真っ赤になってしまった。頬が熱い。
「……その……後ろから抱き抱えられて、下から突き上げられました」
これは、魔族は壁に背をあずけて眠るので、魔族の恋人同士がSEXをする場合の一番多い体位だと聞いている。背面座位というそうだ。俺は、いつか恋人と、これをやってみたいのだ。ついうっかり――その姿を自分と勇者で想像してしまい、俺は慌てて頭を振った。恥ずかしい。意外だったのは、大好きな魔王さまが相手ではなく、つい勇者で想像してしまったことだ……。
「勇者はどのように突き上げたのだ?」
「えっ」
「その際、胸も再びいじったのか?」
「は、はい!」
「脇の下をくすぐったり?」
「は、は、はい!」
「前も扱いたり?」
「その通りです!」
「そうしながら、どう動いたのだ?」
「え……や、優しくゆっくりと……です……」
「なるほど、参考になった。礼を言おう」
「ありがとうございます!」
「ところで、最初にした命令を覚えているか?」
「――え?」
「いや――……もう良い、目覚めよ」
そう言うと、魔王様が消えた。
俺の視界には、瞼の裏が映っている。
俺は、嘘報告をしながら、魔王様のエロエロな突っ込みになんとか答えたのである。
それにしても、最初の命令とは、なんだったのだろうか?
抱かれること、ではないのか? まぁ、良い。とりあえず、乗り切った。
安堵の息を吐きながら、俺は目を開けた。
そして――腕を組んで俺を見ている勇者と目が合った。
先ほどの自分の言葉を思い出して、俺は思わず赤面してしまった。
同時に、ハッとした。ま、まさか……
「ヴァレン、あ、あの……今の、も、傍受して……」
「ああ」
俺の言葉に、清々しいほどの笑顔に勇者が変わった。
俺は、ビクッとするしかなかった。
すると勇者は――一瞬で俺へと近づき、俺を寝台に縫い付けた。
「こうされたかったんなら、早く言えば良かったのに!」
俺は、なんて返せばいいのか分からなかったのだった。