【十一】姫騎士の最後
「生きていてくれて……本当に良かった……」
「お、おう……」
「……お前がいない世界が、いかに辛いか思い知らされた……俺のした事は、何をしても償えないと理解している。それでも言わせてくれ。言わなかった事をずっと後悔していた。好きだ、愛している。ナジェスの事が好きなんだ。世界中の何よりも」
ボロボロ泣きながら、ルイドが言う。見惚れてしまうほど可憐だと思ったが――俺は複雑な心境だ。
「あ、あのさ? たまたま俺が生きていたから良かったけどな、俺、普通なら今ここにはいないぞ?」
「分かっている……復活の魔術も賭けだったからな……しかしそれしか、俺には思いつかなかったんだ……」
「ふぅん。でも、結構あっさり、俺のこと殺ったよな?」
思わず俺がイラっとしてモヤモヤしていた部分をぶつけると、ルイドが小さく頷いた。
「……悪かった。俺には、あの瞬間まで、仕事が全てであり、それしかないと思っていたんだ。恋などに浮かれている場合ではなく、前皇帝陛下を、魔王様のお力を復活させ、この国の人々に安定をもたらすことのみが、俺の生きる価値であり、使命だと思っていたんだ」
……やっぱり、ルイドは仕事に忠実だっただけなんだな。俺は、逆に、変な言い訳をされなかったからなのか、ちょっと肩から力が抜けた。なにせ俺は、ルイドの仕事に対するまっすぐな姿勢も好きだ。
「しかし違ったんだ。失って気づいても遅いということも、嫌というほど理解し――その瞬間、自分の願望を抑えられなくなった。宝玉があれば、お前にまた会えるかもしれないと考えたら、他の何もが手につかなくなった」
「仕事はどうした?」
「……もう、仕事なんてどうでも良い」
「いや、良くないだろう。人を殺すほど仕事を頑張ってきたのに、こんな、公衆の面前で、こんな、こんな、こんなことしちゃったら……だな、お前の今後とかさ? まぁギース殿下は逆に良い展開って言ってたけどな……」
俺はルイドの背中に腕を回して、ポンポンとなだめるように叩きながら、苦笑した。ルイドは全く泣き止まない。これまでの冷静さが嘘のようだ。感情があれほど見えなかったというのに、今は激情しか見えてこない。
「もう俺のことはどうでも良い。そんな事よりも、ナジェスが無事でいてくれて、本当に良かった……良かった……っ、うあ」
「泣かないでくれ。俺、ほ、ほら? もう上辺の胸の怪我だって塞がってるし!」
「俺がつけた傷だな……お前の綺麗な肌に……」
「別に綺麗じゃないからな? 剣士として普通の筋肉だぞ? この程度、受け止められる!」
「――それはない。お前は、もう少し鏡と向き合うべきだ」
ルイドがようやく顔を上げた。しかしその言葉に、俺はムッとした。
「ルイドこそ、鏡と向き合うべきだ。そろそろ俺より細いとみとめたらどうだ?」
「事実でないことをみとめる訳には行かない」
「あ? だーかーらー! ほら! 細い!」
俺が思わず両手でルイドの脇腹を握ると、ルイドが咽せた。
「やめろ、離せ。抑制が効かなくなる」
「抑制?」
「――俺が、どれだけナジェスを欲していたか、知らないだろう?」
正直、あれだけ意識し合った同じ部屋への滞在期間があったのだから、知らないわけじゃない。絶対ルイドは、俺とヤりたいと思ってたと確信しているほどだ!
「生きていると、しっかりと確かめさせてくれ。それに、傷跡も、本当に塞がっているのか否かを」
「ああ、良いぞ」
頷いて俺は、上半身の服を脱ごうとした。するとルイドに小突かれた。
「馬鹿か? どうしてここで脱ぐんだ? みんなにそれこそ嬲られたらどうする気だ?」
「は? お前が確かめさせろって言ったんだろうが!」
「――ちょっと来い!」
こうして、俺は、ルイドに連行される形で、宮廷魔術師長の仮眠室へと連れて行かれた。つまりはルイドの部屋だ。そこの寝台に座らされた俺は、鍵をかけるルイドを見ていた。
「ここで脱げば良いのか?」
「ああ。存在を確かめさせてくれ」
頷いて、俺は服を脱いだ。すると正面でルイドも服を脱いだ。ん?
「俺側は、目視で確認してるから、特に服を脱いでもらわなくても問題ないぞ?」
「お前は、本当に……ちょっと、こう、なるべく優しく包んで言うにしても、馬鹿だな」
「あ?」
「俺は、お前が、欲しいんだ!」
ルイドはそう言うと、俺を押し倒した。ルイドは俺の傷跡を指でなぞると、苦しそうな顔になる。
「……良かった、無事で」
「お、おう……な、なぁ、ヤるのか?」
俺だって、ルイドの事は好きだ。しかし、姫騎士の加護があるので、清廉潔白に生きろと言われ続けてきた人生であり、過去、モテた事もないので、そういった経験がゼロの俺は焦った。
「嫌か?」
「嫌というか……俺、初めてだけど……抱けるかな……」
なにせ、ヤったことがないから、分からない!
「俺では勃たないか?」
「――いや、ルイドをみてるだけでムラっとするけどさ……」
「ならば、問題は無いな」
「俺には問題しかないぞ? 姫騎士の加護が消える」
「俺が一生涯をかけて、ナジェスの事は守りぬく! もう決して、失わないように」
そう言うと、ルイドが俺の下衣をはだけた。そして陰茎に端正な指先を添えると、扱き始めた。初めて他者から与えられる感覚に、俺のものはすぐにガチガチに反応した。それを咥え、ルイドが艶かしく口を動かす。見ているだけで、出してしまいそうになった。ルイド、美人すぎる……! 犯罪級だ!
その後、香油の瓶をルイドが寝台の引き出しから取り出した。何故、仮眠室にそんなものがあるのかと問いかけたかったが、俺は欲望に飲まれていたし、空気を読んでやめた。
「ン……」
ルイドが艶っぽい声を上げて、俺の上に腰を落とした。おずおずと細い腰に俺は手を添える。俺の先端がルイドの菊門に触れ、ルイドが腰を落とす度に、中へと進んでいく。ルイドの中は熱く、絡み付いてくるようだった。ルイドの陰茎が俺の腹部に当たっている。
「ぁ……」
「うあ、気持ち良……ルイド、好き」
「俺の方こそお前が好きだ。ずっと欲しかった」
「俺も欲しかった、多分」
「多分は余計だ……ァ、あ、ああ!」
あんまりにもルイドが愛おしくなって、俺は思わず下から突き上げた。するとルイドが甘い声を上げた。どこか切なく聞こえて、それがまた俺の体を熱くさせる。根元まで俺のものが入ると、ルイドが腰を揺らし始めた。その動きに合わせて、俺も少しずつ体を動かしてみる。
「あ……ああっ……ッ、あア!」
「ルイド、っ、俺もう出そ……」
「ナジェス……俺も、限界だ――あ、あア!」
こうして、俺達はほぼ同時に果てた。肩で息をしていると、ルイドが一度体を浮かせてから、今度は俺に抱きついた。
「もっとナジェスを感じたい。もっともっと、お前が欲しい」
「……」
俺は一瞬だけ、自分の体力について検討した。しかしながら、あんまりにもルイドが色っぽすぎた。
「俺も……」
気づくと同意していた。してしまっていたのだ。
結果、その夜は、一晩中、ルイドと交わっている事になった。俺は童貞を捨てた夜、様々な体位を覚えた。これもまた、もやっとした。香油もあっさり出てきたが、ルイド、手馴れすぎじゃないか? 俺が抱いているというのに、上だというのに、完全に襲われているのも俺だった。
そう思って、翌朝聞いてみた。
「なぁ、お前って、本当は経験豊富なのか?」
「いいや? ナジェスがどうしても欲しくて、調べ上げて用意をしていただけだ」
「用意って、香油?」
「――まぁ、そうだな。あとは、お前を思って、そ、その……一人でしてみたり、な」
それを聞いたら、俺は気分が良くなった。別に経験豊富な人間だったとしても、ルイドを嫌いになるといった事は無かっただろうが、なんとなく、俺を思ってと言われると嬉しかったのだ。
さて――こうして、俺とルイドは、無事に結ばれた。一度、俺は王国に帰国し、家族にルイドを紹介し、今後は二人で帝国で住むのだと話し合った。なお、民草は、俺が人質になって帝国へ嫁がされたと噂しているが、誤解である。
その後、俺達は、幸せに暮らしたのだった。
【完】