【4】(★)



 ヴァイルの部屋は、何というか、無機質と表現するのが丁度良かった。
 何にもない。ソファに乱雑にシャツが放り投げられている以外は、綺麗だった。
 魔導具の空気清浄機と掃除機が、部屋の中をクルクルと回っている。

「座っていてくれ」

 そのソファに促されたので、俺はシワシワのシャツを端にどかして、腰を下ろした。
 そんな俺の前に珈琲の入ったカップを置いてから、対面する席にヴァイルが座る。
 二人で珈琲を飲む間、少しだけ沈黙が横たわった。

「お前さ、本当に俺と付き合いたいのか?」

 先に口を開いたのは、ヴァイルだった。俺は大きく頷く。

「当たり前だろう!? 毎日、そう伝えている通りだ!」
「――付き合うって具体的には?」
「へ?」
「お前、上? 下?」
「え、え!? 俺、俺、ヴァイルが相手なら……ど、どちらでも!」

 なお、俺には、どちらの経験も無い。だが、想像では、上も下もばっちりだ。ヴァイルが相手ならば、俺は勃つだろう。

「俺は、上以外は無理だ。それでも良いか?」
「あ、ああ! どんと来い……!」
「――じゃあ、ヤるか?」
「え!? そ、そんな、急に……」

 ヴァイルの言葉に、俺は赤面した。するとヴァイルが片手で唇を覆った。

「……肉欲って意味じゃ、無かったのか?」
「へ?」
「俺は、てっきりお前が、俺とヤりたいのかと……」
「違う! 俺はヴァイルを、愛してる! 一緒にいたいんだ! こうして、今、一緒に珈琲が飲めるだけでも幸せだ!」

 するとヴァイルの頬に、僅かに朱が刺した。

「俺の事を……好きになってくれて、有難うな……」
「何を今更!」
「……愛されるというのも、良いな。お前の言葉を聞いていると、胸が疼く」
「俺なんてドキドキしっぱなしだ!」

 俺がそう言った時、ヴァイルが立ち上がった。そして、俺の正面に立った。なんだろうかと見上げていると――ふわりと良い香りがした。気づくと俺は、ヴァイルに抱きしめられていた。

「ヴァ、ヴァイル……!?」
「俺も好きになったらしい」

 温かい腕の温もりと、着痩せするのか思ったよりも厚い胸板に、俺はドキリとした。それから頬に手を添えられて、じっと見つめられる。今日のヴァイルの瞳には、光が宿っている気がした。いつもの死んだ魚風のイっちゃっている瞳とは違う。

「キス、しても良いか?」
「き、聞かなくて良いから――……っン」

 こうして……俺は、人生で初めてのキスを体験した。触れ合った唇は柔らかくて、俺はすぐに夢中になった。小さく口を開けると、ヴァイルの舌が入ってくる。舌と舌が絡み合う。口腔を貪られながら、俺は、経験は無いものの、ヴァイルのキスは非常に巧みであるような気がしていた。ヴァイルは、上手いような気がする……つ、つまり、経験豊富!?

「ぁ……」

 気づくと騎士団の服の、胸元のリボンを解かれ、上着のボタンを外されていた。そしてシャツの上から胸の突起を優しく撫でられる。

「触っても良いか? それとも、それも聞かなくて良いのか?」
「……聞かなくて良いです」

 思わず敬語になった俺に対して、ヴァイルが喉で笑った。
 その後、シャツをはだけられ、ベルトを外された。外気に触れた下半身が、緊張から震えた。そんな俺の陰茎を、優しくヴァイルが握る。

「う」

 ゆっくりと擦られて、俺は呻いた。すぐに硬くなった俺のものは、解放を求めて勃ち上がっている。そのまま手で扱かれて、俺は果てた。俺の精液を指で掬い、ヴァイルが俺の中へと指を進める。白液にまみれた指が、卑猥な音を響かせる。

「ぁ、ぁ、ああっ」

 二本目の指が入ってきて、揃えて先端を折り曲げられた時、俺の全身に快楽が走った。

「ここか?」
「あ、あ、あ」

 俺の感じる場所を見つけ出したヴァイルが、意地悪く指でそこばかり刺激する。そうされると、再び俺の陰茎が持ち上がり始めた。丹念にじっくりとほぐされて行く。優しい快楽に、俺は包まれていった。

「挿れるぞ――これも、言わなくて良いか?」
「いや、言ってくれ――っ、ああっ!!」

 ヴァイルが、俺の中に楔を打ち込んだ。ゆっくりと、しかし実直に進んでくる。押し広げられる感覚がし、俺の中が満たされていく。ヴァイルのものは、大きくて長い。全身が繋がっている部分になってしまったような感覚の中で、俺はヴァイルの形をしっかりと覚えさせられていく。根元まで入った時、ヴァイルが少し荒い息を吐いた。

「ヴァイル、気持ち良いか?」
「――ああ。ディアス、お前は?」
「俺も、気持ち良い」
「っ、動くぞ」

 そうして抽挿が始まった。ゆっくりと腰を進めては、引き抜かれる。その度に切なさが生まれる。次第に動きが早くなり、奥深くまで貫かれるようになった。

「ああっ、ン、あ、ああっ!」

 あんまりにも気持ち良くて、俺はヴァイルの首に両腕を回し、快楽に耐える。
 ソファの上で交わっているから、ギシギシと軋む音がした。

「あ、あ、ああっ、ン、はっ、ァ」
「……っ、あんまり締めるな」
「無理だ、あ、ああっ、あ、あああ!」
「持って行かれそうになる」
「ひぁっ、あ、そ、そこ! あ、ああ!」

 先程見つけ出された感じる場所をゆっくりと突き上げられて、俺は悶えた。全身に響いてきた熱が、陰茎に集まっていく。中を暴かれているというのに、射精しそうになった。

「あ、ああっ、出る!」
「悪い、俺も出そうだ」
「ああ――!!」

 こうして、内部に飛び散るヴァイルの白液を感じながら、中を突かれて俺も放った。


 この日から、俺はヴァイルの部屋に帰るようになった。
 俺達は、恋人同士になったのである。諦めなくて、良かった……!