3:一ヶ月☆
――そして実際に、その気分は間違っていなかったわけだ。確かに俺はエルンストと組んで良かったのだろう。
だが俺は知っている。
時折、エルは一人で遺跡に行っている。攻略しに行っているというよりも、古文書を眺めて何かしに行っているのだ。だから貢献度0にしか見えない。普通は重複攻略して時間を潰してしまわないように、遺跡を攻略したら、攻略した遺跡を発表するのに、エルはそれもしない。全く何を考えているのかさっぱり分からない。
まぁ一ヶ月記念日なので、俺はキャロットライスは止めて、クリスマスではないがローストチキンなんてモノを作ってみた。もうすぐ焼き上がるので、俺はそろそろ呼びに行くかと思ってエルの部屋へと向かった。
扉を開ける。
エルがどこかから瞬間移動して戻ってきたのと、それはほぼ同時だった。
あたりに血の臭気が立ちこめる。
思わず息を飲むと、狼狽えたようにエルがローブのフードをとった。
「勝手に部屋に入らないでもらえない?」
「しょ、食事だから……おい、その怪我」
「平気だよ」
とても平気には見えなかった。
肩のところが大きく抉れていて、ぼたぼたと今も血が零れている。
「盟約の儀式にも差し支えはないし」
「そう言う問題じゃない」
俺は久方ぶりに自分の杖を取り出すと、長々と呪文を唱えた。
周囲に淡い虹色の光が漏れて、シャボン玉のように傷口の周辺へと収束していく。俺が見ている前で、傷口は無事にふさがっていった。
「相変わらず綺麗だね、コーガの回復は。どうもありがとう」
「別に」
いつかはこういう場面に遭遇するのではないかと、内心冷や冷やしていたのだ。
だがまさかよりにもよって今日遭遇するとは思っていなかったから、心の準備が整っていなかった。ここまでの大怪我を治療したことなど無い。見た目的に傷はふさがっていたが、内部も大丈夫なのだろうか。神経やら骨やらは平気なのだろうか。そもそも危ないことなどしないと言っていたくせに、何でこんな怪我をして帰ってきたのだ。
それから二人で食事をした。
エルは散々美味しいと褒めてくれた。いつものことだ。
そして食事が済むと、小さな箱を差し出した。
「これ、一ヶ月記念に」
受け取って中をあけると、巨大なダイヤの指輪が入っていた。ダイヤの指輪だけでもう三十二個貰っているが……大きさが異常で、しかもその輝きに圧倒された。
まさか――まさかとは思うが、この指輪を入手しに行っていて大怪我をしたわけではないよな? たまたま遺跡に行って、たまたまそこの報酬がこれで、きっと怪我をさせるような敵を倒すことこそが目的だったんだよな?
怖くて聞けなかった。
さて一週間ごとに、盟約の儀が行われるわけである。
俺は気を取り直した。
盟約の儀では、悪魔の場合は、人間の精液を通して力を供給して貰うことになる。
俺が飲むのでも良いし、飲んで貰うのでも良いが、最低どちらか一方が射精すれば儀式は終了となる。冒険者には男しかいないから、どうしても悪魔は男同士ですることになってしまう。天使と悪魔は元々男しか存在しない。理由は知らないが。
俺達の場合、基本的に座っている俺のを、エルが手と口でしてくれることが多い。
「……」
ベッドに座りながら、俺は、床に膝をついて目を伏せながら咥えているエルを見下ろした。
エルはまぁ巧いと思う。
しかし俺だってだてに300年も生きていないし、性的に奔放な悪魔だ。
たかだか二十数年しか生きていない人間の手腕にいちいち大興奮することはない。
――そこでふと思った。
たまには俺がエルにやってやろうか。何せ今日は、エルは怪我をして帰ってきたわけだしな。悪い考えではないだろう。
「おい」
「ん、え?」
思い立ったので、俺はエルの隣に移動し、逆にベッドへとエルを突き飛ばした。
「え、何? どうかしたの?」
「俺がやる」
「え……え! えええ、え、え、え!?」
「不満か?」
「不、不満というか、嫌、え、嫌、良いよ、良いって、やらなくて良いよ!」
「さっさと脱げ」
俺はエルの言葉は気にしないことにして、下衣をおろさせた。
必死でエルが抵抗しているが、知らんぷりを決め込み、咥える。そういえばこれまで毎週俺は処理して貰っていたわけだが、エルはどうしていたのだろうか。
「ん、あっ」
あからさまな嬌声があがった。口に含んで大きくなっていくのを確認しながら、これまで全く反応していなかったことに少しばかりカチンと来た。
「あ、あ、コーガ、止め……っ!」
精々喘がせてやろうではないか。俺に無反応だったとは良い度胸だ。
「んぅっ」
わざとらしく水音を響かせると、エルが目を伏せた。睫が長いな。
「あ、っ、ああっ……ふ、ぅあ、あ、ねぇ、もう」
その上早いな。
溜まっていたのだろうか。それとも俺が巧いのだろうか。俺は匠なのだろうか。
「はひてひひほ」
「へ? っ、うああっ!!」
出して良いぞと伝えて吸い上げたら、あっさりとエルが出した。人間の精液の味が俺は嫌いではない。全身に魔力が満ちあふれたのが分かった。エルにして貰うよりも、エルのを直接飲む方が効果が高かったようだ。だとすれば、体を重ねればさらに効果が強い可能性がある。だがエルは今日、怪我をしていたしな。別に俺もそこまでそう言う気分ではない。あくまでもこれは儀式なのだ。
エルはと言えば、真っ赤になって肩で息をしている――嗚呼、ちょっとその気になってしまった。案外可愛いな。普段可愛げが無い分、可愛いのかもしれないな。
「儀、儀式は終わりだね……」
「ああそうだな」
「じゃあ僕は部屋に戻るよ」
「……ああ」
俺は、まぁまたの機会で良いかと思い直し、部屋に帰っていくエルを見送った。
さて明日の朝食は何を作ろうか。
そんなことを考えながら、その日は終わりを告げたのだった。