5:クッキーを作る係☆



攻略に行き詰まったらしい。エルがパーティに参加しないので、当然パートナーの俺も攻略には行けないわけだから、あくまでも聞いた話だ。
そこを攻略しないと、次の遺跡群にどうしてもたどり着けない仕様らしい。
せがまれて俺が作っていったクッキーを、簡素な机の上で鬼のような勢いで食べながら、ルツが怒っている。
「五日もかけて最下層までたどり着いたのに、五秒で全滅だよ? 酷いよな!」
幸い死者は出なかったのだという。
現在までの所、攻略中の死者はいない。
「範囲魔術を使える魔術師がいればな……」
ルツのパートナーのミヌが、やはりクッキーを手に取りながらしみじみと言った。
「範囲魔術を使える魔術師がいるなんて話聞いたことがないよ……」
悲しげな顔でクッキーを手に、セノアが言う。可憐だ。
「ルツは、範囲攻撃は出来ないのか?」
「できねぇつってんだろ」
ザイルの言葉にルツの目が据わった。確かに前衛技師が範囲攻撃をするという話は聞いたことがない。そもそも魔術に限った話ではないが、範囲攻撃を出来る冒険者――人間などというのは、本当に数が少ないのだ。範囲攻撃とはいっているが、要するに、一撃で周囲の敵も巻き込んで攻撃する高威力の魔術か、単発の魔術を連発することではんこを押すように殲滅するのが、範囲魔術だ。兎に角魔力の消費量が――現況ギルドポイントの消費量が半端なく必要になるので、そんなことが出来る人間など――……
「……」
エルの顔を思い出した。


「おい、エル」
「どうかしたの? まだ夕食にはちょっと早いんじゃないかな」
「お前範囲魔術使えるか?」
「そりゃあまぁちょっとは使えるけど、範囲魔術がどうかしたの?」
「……」

エルの”ちょっと”は、ご飯の盛り方を指す時は本当に少しで良いのだが、こういう会話の中では、”それなりに”という意味だと俺は思っている。
使えるのか……。

「範囲魔術がないと、攻略できない遺跡があるらしいんだ。行け」
「嫌だよ。いやだなぁ、僕が攻略になんて行けるわけがないよ!」
「そこを攻略しないと次の遺跡に行けないらしいんだ」
「ああ、≪幽霊馬の青闇遺跡≫? あそこなら別に攻略しなくても、≪幻想鳥の茜遺跡≫の裏口からでも、次の遺跡群にたどり着けるよ」
「なっ、行ってきたのか!?」
「前にちょっとね」
「何で攻略済みにしないんだよ! それに、≪幻想鳥の茜遺跡≫は、遺跡No,372だぞ!? まだ、全体では、遺跡No,18までしか公開されていないのに!」
「古文書によると三ヶ月に一回、噴水の所で機会音声が、攻略済みの遺跡をアナウンスして、新発見されたモノのリストを表示してくれることになっていたし、すぐにみんなにも分かるよ」
「お前実は遺跡に行きまくってるのか!?」
「やだなぁ、そんなことないよ? 危ないじゃないか」
「……何しに遺跡に行ってるんだよ」
「だから行ってないって」

俺はエルの言葉は信じないことに決めた。本当、信じられない。

「兎に角一回くらいみんなに協力をしろ!」
「えー、ちゃんと応援をしてるよ?」
「俺だって遺跡に行きたいんだよ!」
「え、そうだったの?」
「最近じゃ俺は、クッキーを作る係になっているんだからな。回復力一位のこの俺が!」
「分かったよ」
「え?」
「クッキーはこれから僕が作るよ」
「馬鹿か! 何でそっちを分かるんだよ。俺の言葉を理解して攻略に真摯に臨め!」

そんなやりとりをしたが、結局エルは攻略に行くとは言ってくれなかった……。


「「はぁ」」

翌日俺とルツの溜息が重なった。
「なんだよ、お前が溜息なんて。なんの不平不満もない生活をしてるくせに」
「苛立ってるな、ルツ。お前こそ珍しいな、そんなに不機嫌だなんて」
「だってさ、遺跡の攻略が出来なかったら、一生外に出られないんだぞ! 俺欲求不満で死んじゃう」
「欲求不満って盟約の儀があるだろ?」
「あるだろって……え?」
「なんだ?」
「嫌がらないでちゃんとヌいてくれるのか?」
「……ヌきつヌかれつだな」
一応そう言うことにしておいた。なんだか一方的というのも格好が付かないかと思ったのだ。
「まじで!? ミヌなんて、俺に自分の手でさせて、出た奴をぺろっと指で触って舐めるだけだぞ!?」
「は?」
「てか、大体の所は、そんな感じだって聞いてる。お前、マジで羨ましい奴だな!」
そうだったのか。
知らなかった。
そして確信した。絶対にこの事を、エルも知らないと思う。絶対に教えない。
「この前試して思ったけどな、ヌき方を変えるだけでも、得られるポイントが全然違うぞ」
「え、嘘」
「本当だ。だから、もっとちゃんと盟約の儀をしたら、攻略もしやすくなるんじゃないか?」
「なるほど! それならミヌもOKしてくれるかもしれない!」
ルツの機嫌が一気に直った。
OKしてくれるって……目的は、欲求の開放か、遺跡の開放か。
まぁ、どちらでもいいか。俺が口を出せることではない。
そういえば、今日は盟約の儀だった。


帰宅するとエルがクッキーを作って待っていた。これがまた美味しかった。
今度からは、朝までに用意しておいてくれと頼んでから、俺はエルを見た。
「そろそろ盟約の儀を始めないか?」
「え? 早くない? まだ夕食前だよ」
それはそうだが、なんだ。食欲が失せるとでも言うつもりか。とも思ったが、機嫌を損ねてもなんなので、俺は笑うことにした。
「たまにはいいだろう? 早く欲しいんだ」
「欲しいって……」
エルが途端に赤面した。
「ポイントが」
俺が意地悪く笑ってやると、さらに真っ赤になってしまった。やはりなかなか可愛いではないか。絶対別の何かを欲していると勘違いしたな、コイツ。
それから俺が促すと、ほぼ無言でエルが俺の部屋までついてきた。

「さ、エル。脱いでくれ」
「え」
「早くしろ」
「待って、僕が――」
「いいから。それと全部脱いでくれ、この前の傷が治ったかちゃんと確認したいんだ」
「……コーガ? 治ってるよ、君は何も心配しなくて良いから」
「俺にされるのは嫌なのか?」
「う」
「嫌なのか?」
「べ、別にそう言う……その、あの、だから……」
「エル。早く脱いでくれ。『契約』だ。大切な『儀式』だ」
「……そ、そうだけど……う、うん」

よーし。俺はエルを押し切ることに成功した。
恥ずかしそうにシャツのボタンを外し始めたエルを見て俺は満足した。
一糸まとわぬ姿になったところを見計らい、寝台の上に縫いつける。

「っ」

息を飲んでエルが目を見開いた。まぁ、わざと唐突にこうしたからだ。
抵抗して逃げられる前に、善は急げだ。

「あ」
「……」
「ちょ、コーガ。僕は胸なんか――ッ」

胸の突起に吸い付くと、エルの体がびくりと震えた。反応からして、こんな事されたことがなさそうだな。しかし俺は知っている。男でも乳首は感じるのだ。知らないと言うだけで、胸なんかというあたりだけで、経験数の差を感じて優越感に浸った。まぁ多ければいいというモノでもない。単純に俺の方が三百年という年の功があるのだと思おう。

「っ、うッ」

エルが息を詰めて、声を押し殺そうとしているのが分かる。それが分かったから、わざと緩急をつけて、胸の突起を吸い、舌先で嬲った。片手をエルの陰茎へとおろし、ゆっくりとなで上げる。
「ああっ、うあ、コーガ」
「なんだもう出すのか?」
「……ご、ごめん」
「もう少し我慢したら、忘れられないくらい気持ちよくしてやるぞ」
「け、結構です……っ、ひ、ぁ、ああああっ!!」
エルが遠慮してきたので、手に力を込めた。
まぁ攻略までには未だ時間があるわけだし、まずは素直に、俺にこうされるのが自然だと思うくらいには慣れてもらおう。結構親切心から気持ちよくしてやるつもりだったのだが、勿論俺の方はそこまで欲求不満ではない……かな?
「あ、あ、っ、ン――!!」
指先で鈴口を嬲ってから、俺は体を下におろして、エルの陰茎を咥えた。
エルが放ったのはそのすぐ後のことだった。

やっぱりそれだけで俺の体は、魔力に満たされたのだった。