7:からかってみる☆


ザイルは男同士でのやり方を知らなかった。流石は天使だ、とも思ったが、果たして人間はどうなのだろうか。天使だって知っている奴は知っているだろうから――エルはどうなのか。俺は絶対に知っていると思う。しかし明確に聞いたことはないので、尋ねてみることにした。

「おい、エル」
「どうかしたの? まだ夕食には早いよね」
「今日ザイルが、男同士でヤるにはどうすれば良いか聞いてきたんだ。教えてくれ」
「ぶ」

俺の言葉に、エルがコーヒーを吹き出した。
見事に貴重な古文書が褐色に染まってしまった。なんと言うことだ。
エルも慌てたようで、魔術でかわかし始めた。

「……あ、その、今は研究中だから」
「だからなんだ? 濡れていて読めないだろう。早く教えてくれ」
「教えてって……え?」

エルが羞恥を押し隠すように作り笑いを浮かべた。やはりこの反応は知っているな。

「明日ザイルに、エルに教えて貰ってから話す約束をしたんだ」

勿論そんな約束はしていないし、すでにザイルには講義済みだ。
おそらく本日にでもザイルは試すことだろう。俺はエルの部屋の中に入り、椅子を引いた。
いつもなら(優しく)出て行けと言われるところだが、古文書をかわかしたまま真っ赤になっているエルは何も言わない。
「その……急にどうしたの?」
「ザイルはセノアを見ていると、胸がドキドキするらしいんだ」
「っ」
「パートナー恋愛もあるんだな」
「っっっ」
「パートナーでなくとも、男しかいないこの≪閉鎖世界≫では何があるか分からないからな。知っておくにこしたことはないだろう?」
「そ、そうかもしれないね……」
「で、どうなんだ?」
俺が追求すると、あからさまにエルが顔を背けた。恥じらっている。純情だな。
「エルには好きな相手はいるのか?」
「えっ、い、いないけど……」
「じゃあ俺のことは……?」
出来るだけ悲しく聞こえるように俺は声量を落とした。口元を手で覆ってみる。雨に濡れた子犬を想像してみた。
「え」
焦っている。目に見えてエルが焦っている。面白くなってきてしまった。
若干いらつきもする。俺に好かれると迷惑だと言うことなのか、体が先ほどから硬直してしまっている。泣いて喜べよ、そこは。

「……僕は、パートナー関係には恋愛感情を持ち込まないべきだと思っているよ。余計な感情があると、いざという時に負担が増える可能性が高いから……」

まっとうな答えが返ってきてしまった。
告白していないというのに、俺は遠回しに振られた。まぁ別にエルに恋をしているわけではないので良いのだが。

「そうか。それで、ヤり方は?」
「え……?」
「恋愛感情の有無と、SEXの遣り方を知ることには、別に関係はないよな」
「それは、そ、そうかもしれないけど……だから……ええと……恋人が出来たら、恋人に教えてもらったらどうかな……」
「エルは恋人に教えてもらったのか?」
「男の恋人なんていてたまるか!」
「……」
「あ……その、ごめんなんか……」
「じゃあ女の恋人がいるのか?」
「いないよ! モテないんだよ、察して!」

なるほど悪いことを聞いてしまった。そうか、エルはモテないのか。
確かに世に言う人間の女性とは、優しい男が好きだという。俺は、ちょっとエルほど自分勝手な人間はいないと思っている。悪魔にそう思わせる人間なんて、早々いない。
しかしながら、ちょっと心配にもなる。
確かにパートナー契約に恋愛感情を必要としないという考えは、教本に乗っ取る理想的な考え方だから、俺も素晴らしいと思う。だが特に悪魔に限って言う場合、盟約の儀に肉体的な接触が絡む以上、恋愛とまでは行かなくても、快楽を受け入れるくらいには開かれている関係が望ましいのだ。ちょっと寂しい話だが、この世界からお互いに出るつもりでいる以上、将来的には別のパートナーと契約する可能性が高い。とすると、モテないというのは、要するにパートナーが決まらなかった時の俺と一緒で、エルは、今後パートナーが出来ないと言うことになる可能性がある。可哀想だ。仮に出来たとしても、男の恋人が嫌だと言うことは、盟約の儀がいやなのかもしれない。俺とするのもいやなのかもしれない。ならば俺の責務として、エルに盟約の儀の良さを、悪魔の良さを教えてやるべきなのではないだろうか。

「ちょっと来い」
「え?」
「早く」

俺は移動し、初めてエルのベッドに座りながら告げた。何事だという顔で、エルが古文書を机に置く。手招きして催促すると、おずおずとエルが歩み寄ってきた。
俺はエルの下衣を迷わずおろした。

「ちょ、な――」
「おとなしくしていろ」

そして萎えている陰茎を手に取った。びくりとエルが震えた。
長くて形が良いのだが、どちらかと言えば細くて、右にそっている。
唇を舐めてから、俺はそれを口に含んだ。

「ひ、ン、あ、ちょッ――」
「ははっへほ」

黙っていろと告げて、俺が少し刺激すると、それはすぐに硬度を増した。
生理的嫌悪はないのだろう。それともこれはただの生理的反応か。しばし扱きながら考えた。――他にも理由はある。人間と悪魔の性的な倫理が違うのは分かるが、快楽を気持ちいいと素直に思えないのは、短い人の一生では損をする事になると思うのだ。

「んっ……ふ……――あ!!」

そろそろ達しそうだなと思ったところで口を離し、俺はエルを押し倒した。
シャツの下から手を入れて、胸の突起をはじく。
もう一方の手では、エルの後孔の表面を刺激した。きつくしまっている。
「っ、ちょ、いい加減に――」
「少し力を抜け」
「抜けるわけないだろ! 離せ! 今日は盟約の儀じゃない!」
「暴れるな」
のし掛かった俺の体を、エルが押し返し始めた。
まぁおしかえすのは無理だろう。俺の方が体格が良い。わざと体に体重をかけてやると、息を飲んだエルの喉がピクンと動いた。色っぽい。
その首元を軽く噛む。
「ン!!」
嬌声をエルが飲み込んだ。思うに体は結構敏感だ。
「は、離して、コーガ」
「嫌だ。というか、俺が離したらお前はどう処理するんだ? その体」
「っ、余計なお世話だよ……!」
「一人でするのか?」
「う」
「だったらここで一人でしろよ」
「な」
目を見開いたエルから、俺はどいた。
そしてまじまじとエルを見る。
「見てるから」
「な、なに言って……」
「出すという結果が一緒なんだから別に構わないだろう?」
「……」
先走りの液が零れているエルの陰茎が揺れた。達したいのだろう。それが分かっていて、俺はじっくりと眺めるにとどめた。
「俺にして欲しいか?」
「そ、そんなわけないよ……」
「じゃあ自分でするんだな?」
「……っ、トイレに行ってくる」
「行かせない」
「!」
俺が進路を阻むように移動すると、エルが眉を顰めて息を飲んだ。
若干泣きそうに見える。可愛いな。そう思ったら、思わず抱きしめてしまった。
「うあああっ」
「あ、悪い」
しかしその刺激が悪かったのか、びくんとエルの体がはねた。
「あ、あ」
慌てて顔を見ると、エルは舌を出して、肩で息をしていた。
顔がドロドロにとけきっているように見えた。色っぽい。焦点を必死で合わせようとするように、濡れた黒い瞳が俺を見上げている。
「っ、ん……あ、ああっ、僕、もう……」
すごく小さな声だった。しかし泣くようなエルのそんな声を聞いて、何もしてやらないほど俺も鬼ではない。
「あっ」
端正な陰茎を手で覆い、優しく上下してやる。
「ん、あっ……あ」
「気持ちいいか?」
「う……ンっ」
「気持ちいいってちゃんと言ってみろ」
「う、あ……気持ちいい……」
素直になったので、俺はそのまま手の刺激を早めた。盟約の儀に関係なくこういう事をするのは、初めてだなと改めて思った。
「ああ!!」
エルが精を放ったので、掌で受け止める。なま温かい。掌を持ち上げて、魔力量でも確かめようかと、舌を這わせた。
「っ、な、何して……」
「? 何が?」
「……」
そんな俺をみながら、体の熱は冷めただろうに、エルが真っ赤になってしまった。
全く可愛い奴である。
まぁ今日はこの辺で許してやろうかと俺は思ったのだった。