9:心配☆



俺はあの日以来、意識して遺跡の話題を口に出すのは避けた。
ミヌ達には二人で攻略したことを驚かれたが、聞かれても詳細は伏せた。
俺が回復をするまでもなかったことは、別段隠す気もなかったがやはり言わなかった。
そんなある日――遺跡攻略中にミヌが負傷した。
ルツを庇って、肩をえぐられたのだ。
側にいたザイルが回復したから大事には至らなかったし、命に別状はなかったが、他の問題があった。何でもその遺跡は、時間制限があるらしく、後三日以内に攻略しなければならないのだという。
大規模な攻略だったから、その光景は、ウィンドウに表示されていた。
珍しくエルも見に来ていて、目を細めていた。
並んで横に立っていた俺達の所に、セノアが走ってきた。
「エルンスト」
「……セノア」
現在では二人も顔見知りくらいにはなっている。
「パーティに入ってもらえないかな?」
単刀直入に切り出したセノアに対し、エルは曖昧に笑った。
「僕じゃ力量不足だよ」
「そんなことを言わないで。魔術師がいなければ、攻略は無理だ。後三日しかないし」
焦燥感が滲むセノアの声に、エルが何事か考え込むような顔をした。
それから俺に向き直ると、目を細めて肩に手を置いた。
「――行っても良いけど……コーガはついてこないって約束してくれる?」
「は?」
普通はパートナーなのだから行くのは当たり前だ。
「心配で魔術が手につかなくなる気がするんだ」
「なんだよそれは……」
「コーガ、お願いだから」
どうしたものかと思って周囲を見回すと、セノアとルツに頷かれた。
回復はザイルもいるし、今求められているのは回復が出来る俺じゃなくて、攻撃が出来るエルなのだ。それがよく分かった。何も力になれないという無力感に苛まれる。
けれど珍しく参加すると口にしているエルを引き留める気はなかった。


こうして俺は、待機組と共に、ウィンドウに映し出される攻略風景を見守ることになった。
いつか見せてもらったエルの範囲魔術で、魔物達は次々に潰れていき、絨毯のように変わった。そこを進む人々の顔を、一度ずつしっかりと目に焼き付けながら、無事に帰ってくると良いなと俺は祈った。
エルのおかげなのか否か、ボスの下までたどり着くのは一瞬の出来事だった。
そこに現れたボスを見て、この前一撃で倒した魔物と同じだったから、俺は一気に肩の力が抜けた。ほぼ同時に目の前で、エルが魔術を放つ。一撃だった。だが――一息ついた瞬間、同じボスがもう一体現れた。
「な」
いくらエルでも、あのように強力な一撃必殺の技を二発も連続で放てるとは思えない。
魔物が手を振りかぶっている。
このままではエルに直撃する。怖くなって目を伏せたくなったが、視線が釘付けになってしまって、それは出来なかった。
するとあたりに閃光が散り、光に少し遅れてエルの声が響いてきた。
『ふぅ危なかった』
画面越しに響いてきた朗らかな声に見れば、エルが二発目の攻撃を放ち、魔物を一撃で屠った光景が映し出されていた。
あんなに強い攻撃を二発も連続して放てるだなんて、想像もしていなかった。
呆気にとられた俺は同時に、安堵からその場に座り込んだ。
エルが無事で、兎に角良かった。

エルが攻略パーティに参加するようになったのは、それ以来だった。

それまでは、少しで良いから攻略組に参加して欲しいと願う日が多かったのだが、現在ではむしろ率先して参加していて、主要メンバーといえるほどにまでなった。
だがエルはやはり、俺には遺跡に着いてこないように言う。
足手まといになるつもりなど全くないのだが、心配だと繰り返されるのだ。
何となく自分がふがいなく思えたので、黒い翼で飛び上がり、ひらひらと舞いながら、空から下を見下ろした。俺だってエルが一人で行くのは心配なのにな。

それはそうと今日は盟約の儀だ。

「ン、はっ」

香油をまぶした手で、エルの後孔をゆっくりと暴いていく。
毎日着実にこちらの方は進んでいる。
俺は今では、エルのどの場所が感じるのかを覚えた。
「!」
最も感じるらしい場所をついてやると、ビクリとエルの肩が震えた。
そこを何度も何度も刺激しながら、頬を赤く染めたエルの顔をうかがう。
「ひ、ぁ……」
必死でシーツをつかんでいるエルがいじましい。
前は一度も触っていないのに、陰茎が硬度を増していて、先走りの液が零れ始めているのが分かる。
腰を撫でながら、俺はエルの耳元に口を近づけた。
「挿れてもいいか?」
「それは、だ、駄目だ」
……そうなのである。未だに一度も体を直接つなげたことはないのだ。
俺の理性も良く持っていると思う。
今の力の抜けきったエルの体ならば、簡単に暴けるのは分かっているのだが、何となくそうすることはためらわれたのだ。耳の中に息を吹きかけてから、俺は指の動きを再開した。
「あ、ああっ、う……うあ」
「気持ちいいだろう?」
「それは……っ……けど……違……」
目を潤ませたエルの声に、俺は自分の体も熱くなってきた気がして、唾を飲み込んだ。
香油がたてる水音が淫靡で、指の動きにあわせてグチャグチャと響く。
「あン――……! あ、あ」
エルの瞳がうつろになってきた。こういう顔をする時のエルは、もう限界が近い時だ。
「や、やだ、コーガ」
「出すか?」
「う、ンあ――――!!」
シーツの上に白液が飛び散った。俺はそれを確認してからエルを抱きしめた。そして柔らかなその髪に頬を当てる。そこにちゃんとぬくもりがあることを確かめて、エルは今きちんとここにいるのだと再確認しなければ、なんだかやっていられなかった。
荒い吐息を繰り返しながら、ぐったりと体重をエルが俺に預けてきた。
俺は思わずエルの頭を撫でながら呟いていた。

「絶対に危ないことはするなよ」

エルはただ苦笑しただけで、そのすぐ後、俺の腕の中で眠ってしまったのだった。