【5】虫さされとかそう言う次元ではなかった!☆
異世界生活今日で四日目。
本日は、初めて見る曇り空だ。本日が、俺の第二回目の依頼遂行日である。
しっかりと朝食をとった後、ユーナさんからお弁当を受け取り、鞄に入れた。
それからきつく、購入したばかりの杖を握りしめて、俺は一階へと向かった。
受付を見ると、こちらを気にした様子もなく、バルトが大陸新聞を読んでいる。
この大陸新聞というのは、情報屋ギルド『ペーパーカット』という所が、毎朝発行しているのだそうだ。
俺は依頼書が貼り付けられたボードへと視線を戻し、今回も『ネルネルネルネル草(×15)の採取』の依頼書を手に取った。
「よろしくお願いします」
「……」
俺の言葉に、漸くバルトが顔を上げた。
相も変わらず気怠そうな顔をしている。しかし何故なのか今日の彼の瞳は、いつもよりも険しくみえる気がした。俺、何か怒らせるようなことをしただろうか――と考えて、そう言えば、この前、正面でぶっ倒れてしまったのだったと思い出した。まだ、謝っていない。
「あ、あの、この前はすいませんでした」
「……」
「……」
しかしバルトは何も言わないし、表情も変わらない。どうやら、何か別件の様子だ。だが心当たりがない。
「あの……?」
身動き一つしないバルトを見て、俺は不安になった。もしや、これはあれか? 依頼拒否か!? どどどどどうしよう! すごいソレ困るぞ、おい! 内心俺は焦った。
「……大丈夫なのか?」
その時、ようやくバルトが喋った。喋った! 有難う! 良かった!
「はい! そりゃもう元気ですが!」
「……」
「……って、ええと?」
反射的に答えたものの、バルトの言葉の意味を、改めて俺はゆっくりと考えた。
「もしかして、心配してくれたのか?」
「チッ」
首を傾げた俺に舌打ちが返ってきて、更にバルトの目は険しくなった。さーせん、調子に乗りました。まぁ、目の前で人がいきなり倒れたら、普通心配の一つや二つするだろう。
「とりすぎるなよ。多くても、100枚までにしとくんだな」
バルトはそう言うと、依頼書に緑色のスタンプを押してくれた。
「有難うございます!」
良かった。無事に、俺は依頼を引き受けることが出来た。
安堵しながら俺は、≪冷汀の森≫へと向かう事にする。
この森、『宿り木』から丁度一時間弱の場所にあるのだ。
***
「はぁ……」
本当俺は一体何をやっているんだろうと、逆さに新聞を持ったままで、バルトは俯いた。
ニュースどころか文字すら頭に入ってこない。
一昨日倒れた姿を見たときから、心配で心配で何も手につかなかったほどだ。
スカイの手から奪い取って、自分で部屋まで運んでやりたかったほどである。しかし、そうした心情を一切押し殺し、いつもの通りの無表情で、淡々とこなすこと一日。
ようやく顔を見られたから、今度こそ何とか声をかけようと思ったものの――たった一言体調を尋ねることにすら、多大な労力を使った。何故だ。
ガンガンと思わず受け付け机に、頭をぶつけてみる。
「何やってんだお前……?」
その様子に、丁度入ってきたカロンが、困惑したような顔をした。
「別に……何でもないっす」
「お、おぅ……あ、それより、昼から≪冷汀の森≫閉鎖だから、新しく依頼受けるなよ」
無精髭を撫でながら、思案するようにしつつも、カロンが言った。
「閉鎖?」
つい先ほど依頼にGOサインを出したばかりのバルトは、驚いて顔を上げた。
「”サカマキ虫”が出たんだとさ。刺されるとやっかいだからな。午後一番で、この辺のギルドで集って、殲滅する。ま、≪冷汀の森≫なんぞ、昼間はGランクの冒険者か山菜採りの爺さんくらいしかいないからなぁ――……って、あ……」
自分自身の言葉でカロンは、ソルトの存在を思い出した。一人いるではないか、Gランクの冒険者。街には既にお触れが出ているが、冒険者には、このギルドか、関連する宿泊施設、もしくは所属ギルドやパーティ連絡網を通してしか通達がいっていないのだ。
「まずい、まさか、もう出たか、アイツ?」
慌ててカロンが聞くと、苦虫をかみつぶしたような顔でバルトが頷いた。
「うわぁ……無事を祈るしかないな。本当、運が悪いというか何というか……」
「今からでも呼び戻しに行けば――」
「止めとけ、バルト。どうせ”サカマキ虫”と遭遇するとすれば間に合わん。命にかかわる魔物でもないし、お前も危ねぇだろ」
「でも……ッ……」
「珍しいな、お前が、放っておかないなんて」
「……」
「三年に一回は似たようなこと在るんだし、気にする事じゃねぇだろ。じゃ、俺は他の冒険者ギルドの連中と打ち合わせに行ってくるから、何かあったら頼むな」
カロンはそう言って笑うと、ポンポンとバルトの肩を叩いた。
出て行った総括の姿を一瞥してから、バルトが唇を噛む。
やるべき仕事が沢山あるはずなのに、焦燥感で胸が苦しい。
バルトは、自分自身の気持ちをもてあましていたのだった。
***
「っ、うわぁあああああっ!」
俺は人気がないのを良いことに、思いっきり叫んだ。
つい先ほどまで、本当に平和に、ネルネルネルネル草を採取していたのだが……ふと羽音に気がついて顔を上げたら、目の前に巨大な人面蛾がいたのだ。黄色と赤で出来た眼球そっくりの模様が、六枚の羽根にくっついている。
いや、蛾は、羽根が四枚だろうから、これは蛾じゃないのだろう。
大体大きさも、軽自動車くらいのサイズだ。辺りを、キラキラと鱗粉が待っている。
「はぁ、びっくりした……」
一歩一歩後ずさり、大分距離を取ったところで、俺は思わず胸をなで下ろした。
幸いその人面蛾は、こちらに襲いかかってくる様子がない。
胴体部分についている、スフィンクスみたいな顔と時折視線が合うが、それだけだ。
もし俺がコレで、最強なチート能力を得ていたとしたら、問答無用で襲いかかっていたかも知れない――だがしかし。駄菓子菓子! 俺は甘党! 駄洒落で現実逃避! 兎に角兎に角テンパっている俺は、今、いかにしてこの場から逃げるかしか考えていなかった。
音をたてないように唾液を嚥下し、再び、恐る恐る、後ろに下がる。
幸いこの場所は、森の入り口までそんなに遠くはない。
慎重に移動した後、俺は、チラリと背後を一瞥した。
既に、入り口がみえる。
それを確信した瞬間、踵を返して、全力疾走を開始した。
嗚呼、怖かった。
俺は帰りながら、幸いネルネルネルネル草は鞄に、採取する度に入れていたので、依頼も失敗しなかったと安堵していた。
また道すがら、多くの冒険者とすれ違った。
誰と話すと言うこともなかったが、聞こえてくる声で、何でも昼過ぎから≪冷汀の森≫が閉鎖されて、何らかの魔物討伐が行われるのだと知った。
きっと、さっきの人面蛾に違いない。いや、本当に危なかったよ、俺。未だに心臓がバクバク言っている。その上なんだか、あの人面蛾が振りまいていた鱗粉が、自分の顔の周囲をグルグル回っているような幻覚にまで襲われている。よっぽど怖かったんだろうな、俺……。
カラランと音を立てて扉を開け、『宿り木』へと戻った時、やっと俺は一息つけた気がした。ふぅと息を吐き、受け付けへと向かう。
みんな討伐に出かけているからなのか、人気が全くなかった。
「ソルト……ッ!!」
俺が声をかけようとすると、珍しくバルトが声を上げた。
本当に珍しいな。何かあったのだろうか?
「あ、依頼やってきたんで、スタンプを……」
「ちょっとこっちに来い!」
「は?」
カウンターを上げて、バルトが俺の手を引っ張った。
そのまま促されるままに、受け付け内部の部屋へとはいる。
「無事か!?」
「え? なにがですか?」
「ッ、”サカマキ虫”だ」
「”サカマキ虫”……?」
なんだそれはと、俺は眉を顰めて首を傾げた。虫、虫――……虫と言えば、俺は虫に分類して良いのか分からないが、ついさっき本当に恐怖を味わったではないか。
「ちょ、バルト。聞いてくれ! 人面蛾が出たんだ!」
「それだ……クソ……遭ったのか」
「ああ。けど、別に戦うでもなく、必死に逃げたからな。嫌もう本当、助かったよ、怪我とかしなくて」
不幸中の幸いだなと思って、俺は朗らかに笑った。
だが、当初の焦るような様子こそ消えたものの、どんどんバルトの表情が硬いものへと変わっていく。
「――あの虫は人を襲わない」
「あ、そうなのか? なんだよ、焦って損した」
「鱗粉が問題なんだ」
「え?」
「鱗粉……吸わなかったか?」
バルトが深刻そうな顔で俺を見た。俺の笑顔は凍り付いた。
「……な、なぁ。吸い込むとどうなるんだ?」
「ずっと視界に鱗粉が付きまとって見えるようになるって聞く」
ヤバイヤバイヤバイ。
俺それ、確実に吸っちゃってるだろ。
だって現に今も、世界が煌めいて見えるんだからな。
「そ、それから……その、どうなるんだ?」
「……体内から鱗粉を駆除しないと、体力を吸収される。永遠に、貧血状態になる。最悪の場合、寝たきり」
「あの、対処法とか、その……」
「ある」
その言葉に俺はほっとして、体から力を抜いた。
「薬を8時間置きに三度塗って駆除すれば、すぐに治る。薬もギルドに常備してある」
なぁんだ、と、ものすごくほっとした俺は、椅子に背を預けた。
「俺多分吸い込んだわ。薬くれ。いくら?」
「っ、やっぱりか……別に、金は良い。告知不足の、うちのミスだしな……ただ、薬剤塗布は、『宿り木』総括か、総括から一任されないと出来ない決まりなんだ。各地の『宿り木』でも、量産できてない貴重な薬なんだ。だからカロンさんが帰ってくるのを待ってて貰うしかない」
「分かった」
異世界に来て四日で死亡とかじゃなくて本当に良かった。
俺が笑顔で頷くと、何故なのか、バルトがものすごく苦しそうな顔をした。
「……バルト?」
「ッ」
「!」
次の瞬間、俺はしっかりと後頭部に手を回され、深々と口づけられていた。
何が起きているのか理解できなくて、何度も瞬きをする。
「っ、お、おい――っ、ぁ……ッ、ちょ、止め――!!」
キスされていると理解した俺は、慌てて、バルトの体を押し返そうとした。
しかしそうすればそうするほど、俺を引き寄せる腕の力が強くなる。
「ん――っ」
舌と舌とが絡み合い、俺が漸く解放されて熱い息を吐いた時には、唾液がこぼれて線を引いた。
「な、な!?」
何の脈絡もない唐突なキスに、頭が大混乱してしまう。
「……馬鹿が」
その上罵倒された。これには、俺もカチンと来た。
なんだコイツ、このガキは!
別に年上であることを誇るつもりはないが、それに色々と御世話になったようにも思うが、人にいきなりチューして、馬鹿とか言う権利、絶対コイツにないだろうが!
「なにすんだよ」
「――”サカマキ虫”の鱗粉は、腸に癒着すんだよ。要するに、薬は、お前の後ろの孔から塗るわけだ」
しかし返ってきた想定外の言葉に俺は目を見開いた。
「何嬉しそうな顔して、良かったとか言ってんだよ。いいか? あんたはこれから、後ろに薬をべたべた塗られるわけだ」
吐き捨てるようにバルトに言われた。
「え……」
目の前が真っ暗になった気分である。
――だが、考えてみれば、大腸癌検診だってやったことがあるし、直腸に薬を塗られるのは、医療行為と考えれば、別に許容できるんじゃないだろうか。それと、キスされたのって、明らかに、話が違うのではないか?
別に俺の肛門に薬がべたべた塗られようと、バルトには関係など無いはずだ。
そこまで考えて――俺は、ハッとした。
「お前、ま、まさか……好きなのか?」
「っ」
俺の言葉に、瞬間的にバルトが赤面して、呆然としたようにこちらを見た。
コレは、きっと、間違いない!
「お前、カロンさんのことが好きなのか! だ、だから、それで俺にカロンさんが薬塗るの、嫌なんだな!?」
そう言えば、この世界では男同士の恋愛が普通にあるのだったなと俺は思いだし、深く深く頷いた。きっと彼は、恋するお年頃なのだろう。俺にキスした理由は謎だが、まぁ良い。
「――あ?」
バルトの声が低くなった。何故なのか殺意がこもっている気がした。
アレか、図星をつかれたからか。
「安心しろ。お前には恩もあるしな。誓って、カロンさんに妙な真似はしない!」
俺が満面の笑みで大きく頷くと、何かを言いたそうに唇をふるわせた後、バルトが俯いた。
その日、”サカマキ虫”の討伐及び打ち上げが終わり、カロンさんが帰ってきたのは、午後十一時ごろのことだった。
既に体力を吸われ始めていたらしい俺は、引きつった笑顔でカロンさんを部屋に出迎えた。
「悪ぃな、遅くなって」
「いえ……」
「何するか、大体の説明は、バルトから聞いたんだよな?」
「はい……」
「何というか災難だったな。俺も、もう少し早く、ギルドに閉鎖の話しを持ち帰ってれば良かったんだが……」
申し訳なさそうに言った後、カロンさんが、俺の頭を撫でた。
「新米冒険者は、圧倒的に春の季節になる奴が多いから、迂闊だった」
「はぁ……」
俺は、そろそろ眠くなりつつあった。
謝罪とか雑談とかもうどうでも良いから、早く薬を塗って貰って、眠りたいというのが本音である。
「じゃ、下を脱いで、ベッドに横になってくれ」
そんな俺の様子を察したのか、カロンさんが俺を寝台へと促した。
彼の手には、黄緑色の液体が入った瓶が握られている。
「うつぶせで良いですか?」
「ああ」
さすがに性器を何の恥じらいもなく晒せるほどの度胸は俺にはない。
そんなわけで俺は、尻を突き出す感じで、寝台に横になった。
「くっ――ちょ、」
「あ、悪い。今からやるから」
つっこむ前に先に言って欲しかった、切実に先に言って欲しかった、何にも言わず問答無用で、ドロドロとした液体を人差し指にとったカロンさんに、その指を後ろにつっこまれた。
薬液のせいなのか、不思議とすんなりと指は中に入ってきた。
痛みはない。
不幸中の幸いである。
結構俺は、指をつっこまれる瞬間に激痛がするのではないかと、恐れていたのだ。
「どんな感じだ?」
カロンさんの声に、深呼吸してから俺は答えた。
「すごく、気持ち――っ、悪いです!」
「ま、そりゃそうだろうな」
ハハハと、あっけらかんとカロンさんは笑う。慣れているのだろう。
無骨な指先が、どんどん中へと入ってくる。
その度に、ドロリとした不思議な感触が、俺の中を満たした。
「んぅッ」
その時、不意に、指先がある一点を掠めた。
気づくと声が漏れていて、反射的にシーツを握りしめる。なんだこれ?
「ああ、悪い」
「い、いえ……っ」
寧ろ気色の悪い声を発してしまった自分を、殴ってやりたい。
それからも時折、ある一点――恐らく前立腺だろう箇所にカロンさんの指が当たったが、俺は必死に唇を噛みしめて声を押し殺した。
本当、意図してやられているわけではないので、申し訳ないとしか言えないが……そこに指先が当たると、不思議と体が疼くのだ。本当、止めて欲しい。
その後一時間くらい、内部に薬を塗られ、俺はぐったりしていた。
「よし、今日の分は終わりだな。次は八時間後か、朝の九時くらいだ。ゆっくり眠れよ」
持参していたらしきタオルで指を拭き、精悍な笑顔でカロンさんが言った。
「は、はい……」
「まぁ、冒険者なら、こういう事も一度や二度はあるもんだ。気にすんな」
「ははは」
俺は必死に笑顔を取り繕い、気さくな感じで部屋を後にしたカロンさんを見送った。
――二度とあってたまるか!
そんな思いと憤りを抱えたまま、俺はそのまま眠ることにしたのだった。
***
「やべぇ、ちょっとアレは虐め甲斐あるな」
ギルドの仕事も一段落したため、一杯飲みに来たカロンは思わずそう口にしていた。
たまにわざと感じる場所を弄り、その度に体が跳ねた姿が思い出される。
さすがに『宿り木』内部の酒屋でこんな話しをするわけには行かない。
彼が訪れたのは、眠らないこの≪花都≫でも、知る人ぞ知る、地下街にある、とある酒店だった。『アルメリア』という店である。
「珍しいな、お前のドS心を引っ張り出す新米なんて」
ケラケラと笑いながら、『アルメリア』の常連客であり、情報屋ギルド『ペーパーカット』≪花都:エーデルワイス≫支部の総括を務める、マシェイドが笑った。カロンとマシェイドは、昔同じパーティにいた冒険者だった。
マシェイドは知っている。
実際にカロンは、本当に性格の良い、気さくな男だ。
笑顔で厳しいことも言うが、それも大概は、後輩育成指導のためである。
彼は、好きな子ほど虐めてしまう、と言うような、稚拙な行為などしないし、基本的に性癖も対象が男性も可とはいえ、至ってノーマルだ。
そのカロンが虐め甲斐があるなどと口にした相手を、マシェイドはたった一人しか知らない。
「どんな冒険者なんだ? その新人は」
「お人好しだな。もう完全にこっちのことを信じ切ってる。俺がわざと、クる箇所に触っても、偶然触れたとしか思ってないだろうな、アレは。逆に声が出て申し訳ないって顔だった」
「お人好し、ね」
その言葉にマシェイドは、右目につけた眼帯に触れた。
彼は、”星詠みの一族”と言われる、今では絶滅されたと考えている、得意能力を持つ一族の出身だ。
「お人好しなんてまるで、”黎叡の賢者”みたいだな」
「ああ。アイツそっくりだよ、本当、シュガーに似てる」
「≪マロニエ・フィールド≫の五賢人に似てるなんて栄誉なことだ。本人が聞いたら喜ぶんじゃないか?」
「さぁな。世間知らずの所までそっくりだから、五賢人のことも知らないかも知れないぞ」
そう言って喉で笑ったカロンを見て、マシェイドは腕を組んだ。
嘗て、マシェイドは、カロンと、”黎叡の賢者”であったシュガーと、その他諸々と旅をしていた事があるのだ。ふと懐かしくなり、またその新米冒険者に興味もわいたから、久しぶりに眼帯を外してみる。両眼の灰色の瞳であれば、イデアカードの最後の一枚を閲覧することが出来るのだ。これは星詠みあるいはかなりの実力を持つ魔術師などでなければ閲覧は無理だ。
酒を飲むフリをして、ゆっくりと目を伏せる。
***
◆魂のカード
称号:マカロン・フィールドの五賢人(始創の賢者)
HP:測定不能(MAX9999:限界値を突破しています)
MP:測定不能(MAX9999:限界値を突破しています)
種族:人間(?)
性別:男性型
職業:魔術師・魔導師・魔道具製作の匠・竜殺し(ドラゴンスレイ
ヤー)・聖者
使用可能技能:
創造魔術(MAX)・魔術生成術(MAX)・魔具創造(MAX)・
全属性攻撃魔術(MAX)・全属性防御魔術(MAX)・全属性補
助魔術(MAX)・時空魔術(MAX)・癒光術(MAX)・蘇生
術(MAX)・全言語理解(MAX)・薬学(MAX)・医学(MAX)・剣技(MAX)
加護:創世神の加護・異世界神の加護・女神の加護・天使の加護・
魔王の加護・大自然の加護・不老不死の加護
***
「ぶ」
盛大に酒を吹いたマシェイドに向かい、カロンが振り返る。
「なんだよ急に」
「いや、その……え? え? 今、この人、君の所にいるのか?」
「おぅ。ソルトの話だよな?」
「……やっぱりその何て言うか、凄い魔術の使い手だったりするのか?」
「いいや。ランクGの標準中の標準て感じだな。潜在魔力量は多そうだが」
「へぇ……そ、その、記憶喪失とか?」
「別段そんな感じもしないが。ただなぁ、楽しいのが、コレまであんまりこっち方面に興味なさそうだったうちのバイトのガキが、惚れてそうな所なんだよ。明日辺り、キューピッドでもしてやりてぇもんだけどなぁ、ま、冒険者の相手や治療も仕事だしどうすっかな」
首を傾げた後楽しそうに笑ったカロンを見て、何も知らないのだろうと判断し、マシェイドは眼帯をつけなおした。世の中、余計なことは知らないに越したことがないというのが彼の持論だ。
「そういえば、話変わるけど、久しぶりにアルファルドがこの街に来るらしい」
マシェイドの言葉に、カロンが頬を緩めた。
今でこそ伝説の冒険者と呼ばれるアルファルドも、嘗ては、カロンやマシェイドと同じパーティにいたことがあるのだ。
「そうか」
「後は一つ嫌な噂を聞いてるから、耳に入れておいてやるよ」
「なんだよ、マシェイド」
「お貴族様が、魔術師狩りをしてるらしい。魔力結晶を集めているみたいだ」
「そりゃ確かに嫌な噂だな」
そんな話しが繰り広げられながら、≪花都≫の夜は更けていくのだった。