3:寄宿舎(設置)



無性にそばが食べたくなったので、俺はざるそばを出現させながら、騎士団長室の執務机の上にそれを広げた。ワサビと薬味がいいかんじだ。きざみノリののるそばを食べる。
そうしながら、履歴書を並べた。
入団した時に、インスタントカメラを取り出して、その場で写真を作って、提出された書類に貼り付けた。文字は、翻訳魔技のおかげで読める。
何故俺がそれらを眺めているのかと言えば、勿論兎亜人のラルアに頼まれたからに他ならない。ラルアはセンリの側近だ。街の警備のために騎士を配置したいのだという。
現在騎士団は一師団で、銃撃舞台が内12名。残り28名には皆ナイフ投げを一応教え終わったところだ。志願してくるくらいだから、他にも剣が使えたり斧が使えたり腕に自信がある奴が多かった。総勢三十名で一師団である。募集したら、たまたま来た人数がぴったり三十人だったのだ。
「あーだりぃ。阿弥陀で良いか、阿弥陀で」
あみだくじは偉大だ。
後でやろうと放り出して、俺は部屋を出た。

「あ、団長!」

すると団員のレノアに声をかけられた。俺よりもずっと背が高いマッチョであるが、腰はすごく低い。礼儀正しいことは良いことだ。
「なんだ?」
「実は……騎士団にも宿舎が欲しいという要望が出ているんです」
実際に騎士団をまとめているのは、レノアみたいなモノである。
団員は何かあるとレノアの元に意見を集めて、俺の所へと持ってくる。
「宿舎?」
「一番長いものだと、片道5時間かかるので……」
「んなにかかってたのかよ」
そりゃあ流石にかかりすぎだ。何も五時間もかかる場所にある騎士団になんぞしなくても良いだろうが。そうも思うが、珍しく俺は考えてみた。城の内部の見回りを夜もやったりしている組もある。そう言う奴らも本当は寝泊まりしたり休息する場所が欲しいんじゃねぇだろうか。
「わーった。なんとかする」
なんとかするというか、俺は取り出すことにした。
「ついてこい」
歩き出すと、レノアが素直に後ろを歩いてきた。

俺は城から出て、土手から以前に俺が騎士団の訓練用に取り出した校庭を眺めた。
基礎メニューはとりあえず、校庭十周だ。
奥にプールをその内取り出そうと思って場所を空けていたのだが、プールの位置は変えよう、とりあえずあそこに寄宿舎を建てようではないか。
だが、寄宿舎とはどんなモノだ……?
寝泊まりする場所だって事くらいは分かる。一人暮らしの家みたいなのを想像すればいいのか? なんて、悩んでいたら目の前に四階建てのマンションが出現した。
「だ、団長! これは……!」
「あー、ちょっと中を見てみてくれ」
俺の言葉にレノアが走っていった。気に入ってくれることを祈るしかない。
俺は取り出すことは出来るのだが、いまいちしまう方法が分からないのだ。

「最高です! 全員分の部屋もあるし、本当にありがとうございます!」
「ま、いーってことよ」

ふぅ良かったと思って、俺は赤い扇子を開いて扇いだ。
そして思いついた。
レノアの方が、俺よりもおそらく待ちのことに詳しいし(俺は城と家にしかいねぇからな)、騎士団のみんなのこともよく分かっているはずだ。

「代わりに頼みがある」
「なんですか? なんなりと」
「実は、街の警備をすることになったんだ。人選を決めてもらえねぇか?」
「そ、そんな団長代理のようなことをするのは恐れ多いです。俺には過ぎる」

その言葉に俺は良いことを考えた。

「じゃあ今日からお前、副団長やってくれ」
「――え?」
「じゃ、夜までによろしくな」

ポカンとしているレノアを残し、俺は執務室へと戻ることにした。
我ながら素晴らしい案だ。
これで俺は騎士団で何か悩むことが出来たらレノアに丸投げすりゃあいいだろ。
あいつは根がまじめそうだとここ最近よく分かったから、安心して任せられる。

午後はセンリの所に顔を出すことにした。
と言うか一応センリの護衛が俺の主な仕事だ。
護衛も何も城の中は平和すぎて喧嘩の一つにも遭遇しねぇから俺の存在意義は不明だが。
そうだ、副団長を決めたことも報告しておかねぇとな。

「センリ……様」

まずいまずい。様だの陛下だのをつけるのを未だに俺は忘れそうになってしまう。
センリも今ではそれになれてしまったのか、すぐに俺の方を向いたし咎めることはない。うるさいのは周囲だ。
「カイト! どうかしたの? もっと服いる?」
「いや間に合ってる。報告があってきたんだ」
いや別に報告が無くても、暇つぶしがてら護衛には来ていたんだが。
たまには働いてるっぽい姿を見せておくのも悪くないだろう。
俺は宿舎のことや、副団長のことを報告した。
するとセンリがキラキラと瞳を輝かせて嬉しそうな顔をした。
「カイトがそんなに熱心に仕事をしてくれるなんて、僕、僕、嬉しくて……!」
しかも泣き出してしまった。俺の胸の中でボロボロとセンリは泣き始めたので、腰に手を回す。本当に小さい。流石はガキだ。

――この時の俺はまだ、将来的に、俺以下召喚された人間が不老になっていて、センリが俺よりも年上に見える日が来るなどと言うことは知らなかった。後になって、もっと子供の内からしっかりと教育しておくべきだったと思ったりもする。


「カイトあのね、今度街の視察に行こうと思うんだ! 一緒に行こう!」
「あー、いいぞ」

それはそう通れも街などじっくりとは未だ一度も見たことがないので、興味があった。
現在は住宅を整備中だと言うことくらいしか聞いていない。
他は流入ししてきた難民が生計を立てるためにと始めた露店が連なっているんだとか何とか。露店に行ったら絶対に、デリロルサを食べろと、団員にお勧めされたがそれがなんだか俺は知らない。

「折角だから、カイト達の国の文化を取り入れた国造りをしたいんだ」
「いいんじゃねぇの」
「単位は導入したから、他は何が良いかな?」
「アオサに聞け」
「カイトのお勧めが聞きたいんだ」
「おすすめねぇ……」

んな事を言われても、である。俺はお勧めできるほど社会が得意ではなかった。
国会など遠足で見学に行ったくらいだ。第一それこそ、宰相のアオサの仕事だろう。
もっとスケールを落として街について考えてみる。
何かお勧めできるモノなんてあったか?
それこそファストフードくらいしかない。だがこの国にも普及している食事的に、早く出てこられても困る。肉と肉が早く出てきてもな。

「あ、タクシー」
「……タクシー?」
「宅配便も」
「宅配便?」

あると便利なモノを思い出し俺は頷いた。
俺がその二つを説明すると、センリの瞳がまたキラキラと輝きだした。
まぁ車は存在しないので、街中を馬車に走ってもらおう、と言う話になった。
俺が取り出した机と椅子に座り、俺が取り出したチョコレートを食べながら、センリがどんな国にしようかと語っている。王様ごっこにしか見えない。これで実際に王様なのだからすごい。
ちなみにセンリの服はピエロ服ではなくなった。
説得して、王様っぽい服にしようと言いくるめて、俺は普通に子供用の私服を取り出して着せている。絶対にその方が似合っている。周囲もそう思っているのか、評判が良い。
何故この大陸ではピエロ服が進化を遂げていたのか、俺は切実にどうでも良いと思っているが、聞いてみたいと思わないこともない。

ところで俺は、最近とあることに気がついた。
てっきり魔王との戦争(?)のせいだとばかり思っていたのだが、要するに安全のために隠れていると思っていたのだが……この世界に来てから、一度も女を見てねぇ。
何故なのだろう。
まさか子供がいる(センリとか)のだから、女が存在しないって事はないだろう。
この国にはいないと言うことなのだろうか。
まぁ出来たばっかりの国だからそれなら納得も行くが……どこからどう考えてみても、やっぱり来てから一度も見た覚えがないのだ。

「カノジョ欲しいな……」

帰宅してから気づけば俺は呟いていた。結構切実だ。
何せ俺は、世に聞く妄想というモノではヌけないのだ。
オカズがないとヌけないのだ。
別に知人女性でヌいていたというわけではない。ただなんていうかこう……男の顔ばっかり見て過ごしているというのも体に悪ぃし、絶対悪ぃ気がするし……うまくいえねぇんだけどな。街に行けば女の人もいるだろうか? 俺はそれに期待することにして、エロ本を取り出した。しかしインターネットに繋がるようなモノは取り出せなかったのだ。本類は取り出せる。なので俺は今日も、エロ本の表紙をめくるのだ。

そんな一日だった。