9:お姫様抱っこ(困)
センリが俺の領地の視察にやってきた。いきなりきた。俺は吃驚だ。
「連絡くらいいれろ」
「ごめん、カイト……あ、あのね」
「あ?」
「抱っこして」
俺は赤い扇子をバチンと閉じた。まぁ、それくらいやっても良いか。背が小さいせいで、恐らく街を見渡せないのだろう。これくらいならな。
「ほらよ」
そういって姫抱きしてやると、センリが真っ赤になりながら、瞳をキラキラさせた。
子供って高いところが好きって言うしな。
ぎゅっと腕を首に絡められ、若干苦しい。それにしても軽いな。子供だけあって、体温も高い。暫くそうしていると、カロンが歩み寄ってきた。
「はじめまして、カロンと申します」
「あ、国王の、センリ・リルーアだよ」
俺が見守っていると、二人があれこれ話し始めた。主に商業ギルドが作り出した、現代文明からパクってきた代物についてで、俺は黙って聞いていた。国中に普及させようと話している。今更ながらに、現代日本って便利だったんだなぁと痛感したな。
それから国には服と米が普及して俺は満足した。
同時に数年後――騎士団は、大陸最強と呼ばれるようになった。
バチンと俺は扇子を閉じる。
領地も豊かになった。
「フ、もう僕に出来ることは何もありませんね」
今日は花吹雪が視察にきている。お前は何もしてねぇだろうが。
最近花吹雪は良くくる。そして大抵同じようなことを言う。
「べ、別に貴方に会いたい訳じゃありませんからね……!」
俺もあんまり会いたくねぇよ。本当よく分からん奴だ。そう言いながらも、ここ数年ずっとやってくる。数年前と考えて、俺はアオサのことを思い出した。アオサなど、花吹雪よりも酷い。何せ毎日俺の家にやってくるのだ。そして言う。
「なぁ、ヌきあわないか?」
最初に聞いた時は殴り飛ばしたモノだが、今では挨拶代わりになっている。
花吹雪が家に帰ったので、俺も帰宅すると、今日もアオサはいて、同じ事を言った。
「俺さ、カイトを見てるとムラッとするんだよ」
俺は今では確信している。
アオサも俺同様、ここにきてから女性を一人も見ていないから、変な気分になっているのだろう。だからといって俺は男には食指は動かないが、噂では、アオサはこれまでに二度ほど恋人が出来ていた過去がある(どちらも男だった)。
というか、この大陸は、思いの外同性愛がメジャーだった。まぁ選択肢が、ほぼそれ一つという理由もあるんだろうが。俺はちょっと、それはな。
兎に角俺は未だに、女性だけの国に行けていない。
――ただ、最近俺は、結構モテる気がするのだ。
主に男にと言うか、男しかいないから男にであるが。
まずアオサはこの調子で、恋人がいない時はほぼ毎日俺の家に来る(放置決定)。
モテるんだろうなと思ったきっかけは、騎士団の副団長のレノアに告白された時のことだ。
「団長、大切なお話しが」
「なんだ?」
「団長のことが好きなんです」
「ほぅ」
「恋人になってもらえませんか?」
俺はその時、奥義を閉じようとして手が震えた。なんと言うことだ。恋人だと……?
「いや、俺男なんだけど……」
「分かっております。それが?」
そこで俺はこの大陸の特殊性を理解したようなものである。
勿論丁重にお断りをした。奥義は開いたまま。それで長年で気づいた信頼感怪我崩れたらどうしようかと思ったが、レノアは、仕事と恋は切り分けてくれる男だった。ほっとした。
無論この件だけではない。
ある日は、センリの補佐をしているラルアに引き留められて、妙なことを言われたのだ。
「兎亜人は、三月になると発情するのですが……何故なのか貴方を見ていると年中発情してしまいます」
最初俺は意味が分からなかった。しかし後ろの穴を狙われているのだと理解した。なぜならば、「雄として交尾したい! 雌役になって下さい」と言われたからだ。ふざけんな。
以来俺は、ラルアとは口をきいていない。
他にも多々ある。
例えば、ゴミ処理場を頼んでいるキセは、俺の中を綺麗にすると言うのだ。
「は?」
と聞き返した時には、俺の腹の中はすっきりしていた。
俺は一日一度朝キセに会うと、トイレに行かなくて良くなった。
「なんでまたこんなことを?」
ある日ふと思って聞いてみたら、にこやかに笑われた。
「突っ込む時に必要だから。愛してるよ」
「おいまて」
聞き捨てならなかったが、キセはそれしか言わなかった。突っ込むときたらもう、ラルアのことを思い出しても、言いたいことは一つなのだろうが……。
後は、教会に行くたびには神父様(笑)に、「愛さえあれば神は許してくれます」と言われる。何をだ、何を(謎)。背が伸びたグリーンはやたら通れに抱きついてくる。最初はプロレス技をかけられているのだろうと思っていたら、違ったようなのだ。もっと酷いのはブラウンで、やけの俺のボトムスを降ろしたがるので辟易している。
おかしくなった者は他にもいる。
副領主をしてもらっているカロンだ。アイツは俺を見るたびに言う。
「で、どなたを?」
「……何がだ?」
「僕なんかどうだ?」
だから何がだ! 本当に頭に来る。
しかし一番困るのは――センリが成長してしまったことなのだ。
センリは現在、俺よりも背が高いイケメンに育ち、昔と違って寧ろ俺をお姫様抱っこしようと奮闘している(それを俺は赤い扇子で何度殴りつけてとどめたことか)!
「背が小さい頃にしてくれたお礼だよ!」
「いらねぇよ!」
姫抱きなんぞするんじゃなかったと俺は後悔している。
後悔しながら今日もアオサ(変態)を追い出して、俺は静かに眠ることにした。
ああ、明日こそ良い一日でありますように。