【4】マウントポジション(★)
そのまま僕は脱がされ、眞山くんは自分で脱いで、なんだかんだで寝台へと移動した。僕の上に乗る眞山くんは、もう既に瞳がギラついていて欲望の塊だ。正面から首筋を噛まれた時、僕は小さく身じろぎをした。
「ン」
「敏感」
「下手くそ」
「おい」
僕の声に笑みを引きつらせると、眞山くんがいきなり僕の陰茎を握ってきた。思わず身を固くすると、その手が動き始める。
「っ、ハ」
「気持ち良さそうじゃねぇか」
「……――うーん、ちょっとは」
「だからな、おい、お前な」
それからしばらく寝転がったままで、陰茎を撫でられた。ゆるゆると持ち上がった僕のそれに、気を良くしたように眞山くんがニッと笑った。
「やっぱりもうヤっていいか?」
「えー……」
「無理、俺」
眞山くんは、そう言うと、魔法薬製品であるローションの小瓶を取り出した。この代物を使うと、同性同士でも難なく性行為が可能となる。まぁ良いかと僕は見ていた。指に透明な液体を絡め取った眞山くんは、楽しそうな顔をすると、それを僕の中に押し込んできた。
「っ」
「――この辺だったか?」
「あ……う、うん……あ……ああっ、ちょ、待って、待って待って、まだ――あああっ!」
見つけ出した前立腺を容赦なく眞山くんがなぶる。先程までの倦怠感混じりのだらだらとした快楽とはレベルが違うものが襲いかかってきて、僕は思わず静止の声を上げた。
「ダメだ。大人しくしてろ」
「や、やだっ、うあっ、あ、ああっ!!」
「――いいや、存分に乱れろよ。済ましてるお前、善人ぶってるお前が、こうも乱れる姿を見てるなんて、まぁなんというか、ファンからすればヨダレ出るから」
「あ……っ、ァ……ン」
「俺、お前好き」
「ああああっ」
散々前立腺を突き上げたと思ったら、僕がイく手前で眞山くんは指を引き抜いた。
「あ!!」
そして迷いなく体を進めてきた。ダメだった、ひっくり返す暇が無かった。一瞬そう思ったが、襲ってきた甘い衝撃に、すぐに僕は我を忘れた。ぐぐっと奥深くまで進んできた陰茎は、巨大な雁首で僕の中を抉ってから、優しく震えた。
眞山くんのダメなところは、的確に僕の感じる場所を嬲ってくるところだ。
だから僕も拒絶できないのだろう。全身が震え始めて、僕は眞山くんにしがみついた。
「あ、ああっ、動いて」
「もうちょっと、な。あんまり慣らしてないから」
「いいから、あっ」
「唯理は本当に堪え性が無いよな。お前の魔導書と一緒。すぐに結果を求める」
「ひあああっ」
愛撫はしないくせに、中に挿れてからの眞山くんは、ねちっこくて長い。遅漏だと僕は思うが、本人は持続力があるのだと豪語している。その後、僕がボロボロ泣いてもゆっくりとしか動いてくれず、すっかり僕の息が上がるまで眞山くんは僕の中を味わっていた。
情事後。僕は気だるい体で寝台に寝転がったまま、隣の椅子で楽しそうに煙草を吸い始めた眞山くんを見た。
「僕にも一本頂戴」
「――お。お前も吸うんだったか?」
「気分が悪い時だけたまに」
「へぇ。賢者タイムの時だけたまに、か」
セブンスターを受け取り、僕は白く長いフィルターを口に銜えた。
「俺と付き合うか?」
「無いなぁ」
「……ふぅん」
深く煙を吸い込みながら、僕はすっきりしたんだけれど、もやもやっともした感覚に苛まれた。腰が痛い。
眞山くんは珍しく笑顔ではなく、僕をじっと見ている。少しだけ傷ついた顔をしているように思えて、何事だろうかと僕は首を傾げた。
「どうかしたの?」
「どうかって……振られたらショックだろ」
「へ? 告白なんていう一大イベントをいつこなしてきたの? ごめん、気付かなかった。それで振られて体が寂しくて、今日僕を誘ったの? そうだったんだ……ごめん、てっきりいつもの欲望の塊だと……」
「いやおいちょっと待て。だから待て。たった今、たった今、そのイベントあっただろうが。ぎゃくに欲望の塊の俺が、お前を誘い、ヤってからの、そのイベントだ!」
「え?」
僕は思案してみたが、告白された記憶はどこにもない。
「いつ僕に告白したの?」
「今」
「……」
「お前が『どうかしたの?』って言った、その二言前に俺は振られたと思ったぞ――そう意識してないってことは、振ってないのか、なんだ良かった、焦った」
眞山くんは、本当に安堵したような顔で、大きく息を吐いた。
一体何だというのだろうか。
「――それはそうとさ、今、二十九階の攻略中だったよね? さっきの魔導書だけど、本当に使えると思う?」
「盛大に話変えるのやめてくれ」
「は? 僕がいつ話を転換したと言うんだ。まだ話なんて何もしてなかった」
「真面目な返事をくれ」
「何の?」
「俺と付き合うかどうか」
「鬱陶しい――ええと、今回使ってる理論なんだけどさ」
僕は適当に流して、今回使用した渦巻理論について説明をした。すると不服そうだったが次第に眞山くんは、真面目に耳を傾けてくれるようになった。
「ま、使ってから教えてやるよ」
「いいよ、そういう事なら今夜自分で行く」
「一緒に、その――」
「僕、ソロだから」
「……――お前さ、暁と新さんみたいに、誰かと一緒に暮らしたいとかないの?」
「何? 急に何を? 別に、特に無いけど」
再び眞山くんが傷ついた顔をしたが、僕は今度は無視することにした。
――ただ、ふと、眞山くんと一緒にいると、気が楽だという事実は思い出した。
何も考えないでいることを、許される気がするからだ。
一緒に仮に暮らす誰かがいるならば、眞山くんのような人間が理想的である。
「気をつけていけよ」
「うん、有難う」
こうしてその後、少し理論について語り合ってから、僕らは別れた。