【11】幻想(★)






「気持ち良いだろう?」
「ひっ……ぁ……ぁ……気持ち良……い、気持ち良いよ……」

 僕はむせび泣きながら、もう何度目になるかわからない回答を口にさせられた。
 眞山くんはずっと僕をゆるゆると突き上げたまま、聞くのだ。「気持ち良いか?」と。答えなければ、絶対に動かないというから、僕は泣きながら同意している。実際、気持ちが良かった。だが、気持ち良いと答えると「なら、このままで良いよな」と口にして、眞山くんは動いてくれない。気が狂いそうだった。

「うああっ、あ、あああっ、やぁああっ」
「どうだ? 俺の気持ちが少しは分かったか?」
「何? え? あ、ああっ」
「好きすぎて辛いと、良すぎて辛いは、恐らく似てる」
「うああっ、ン、んん、っ、あ、ああっ、ダメ、だめっ、お願い、もう動いて」
「動いたら、俺と付き合ってくれるか?」
「やぁあっ、ひあっ」
「体で言質取るのは卑怯だって思って今までやらなかったけどな――もう、後が無いからな。暁も、それくらいやりかねない」
「あ……ああっ、ン、ひっ……ぁ……ぁ……ァ……」

 舌を出して、僕は必死で息をした。そんな僕の顎の下を撫でながら、眞山くんが僕をギュッと抱き寄せる。繋がっている箇所が熱い。その後も――数時間に渡り動いてもらえず、最終的に僕は快楽に苛まれたままで意識を手放した。

「あ……」

 目が覚めると、まだ繋がったままだった。先程までと違い、もう快楽は、体の自然な感覚の一部のようになっていた。それが怖い。だが、気持ち良くて、何も考えられなくなっていく。それが繰り返され、僕は寝ても覚めても快楽しか考えられなくなっていった。もう外にいる楪の事などどうでもよくなっていた。何時間、何日、どれくらいが経っているのかさえ分からなくなる。ずっとずっと繋がったままで、愛を囁かれた。

「いいか? いい加減分かったか? 恋がどんな感覚か。ずっとこうして、俺はお前のことを考えてる」

 僕は蒙昧とした頭で、必死に考える。快楽と恋のもたらす思考束縛が同種のものならば、もう僕には、嫌というほど理解できた。

「俺と付き合うか?」
「それは……っ……」
「試しに付き合ってみろって。お前、形から入ったほうがいいって。絶対。付き合ったら、俺のことを好きになる。俺のことしか考えられなくなる。付き合ったら終わりだ。だから俺以外と付き合うな」
「……――けど」
「なんだよ?」
「顔が……」
「顔? 俺の顔が好みじゃないとか、この期に及んで言い出すのか?」
「そうじゃなくて、獣……ひッ……ぁ……ああっ……」

 僕は話そうとして、再び絶頂に襲われた。頭が真っ白になる。汗で髪がこめかみに張り付いた。――こうなってくると、僕は怖い。確かに現在眞山くんの事以外を考えるのは無理だ。だが……再び獣に出会った時、その獣が、眞山くんの顔をしていなかった場合を考えると怖くなる。つまり、付き合っても結局、眞山くんが他の誰かと変わらない可能性だ。

 恋人になるというのは、僕に残された唯一の、僕から進んで相手を特別視するための、儀式のような気がするのだ。それにすら失敗した時、僕は孤独を今以上に痛感しなければならないように思った。

「獣?」
「不死鳥の塔で……ぁ……ぁぁ……」
「――青い羽の獣か?」
「うん……」
「――こんな顔の?」
「え?」

 その時――僕の視界が鏡のように割れた。目を見開く。すると真正面には、数多の人の顔が混ざり合ったのっぺらぼうがいた。僕を貫いているのは、その獣だった。

 ――え?

 何度も瞬きをする。青い羽が僕の頬に触れた。

「あ、ああっ、嘘……あーあーあーあー!! 嫌だっ、眞山くん、助けてっ」
「くっ」

 獣は、眞山くんの顔に戻ると、僕を嘲笑した。

「いたじゃないか、抱かれたいと望む相手が」
「ひああっ、いや、違、お前じゃない、ああああああああああああああああああ」

 その時激しく獣が動き始めた。僕は逃れようと無我夢中で動く。すると両手首をそれぞれ掴まれて、床に強く押し倒された。そして後ろから潰すようにのしかかられ、まさしく獣のような体勢で貫かれた。その時僕の中にある陰茎が、先程までよりも巨大で長いと気づいた。グリと気持ちの良い場所を、容赦なく抉る。

「うああああ、あ、ああっ、あン――!! ああああああああ!!」

 ずっと待ちわびていた刺激に、僕は快楽から絶叫した。涙がボロボロと頬を濡らす。バサバサと背後で羽の音がした。僕は眞山くんではなく、獣に暴かれている。嘘だと思いたかった。そんな。いつから?

「これにこりたら、もう”人のモノ”を誘惑しないようにな」
「へ? あ、ああっ」
「それが、私という存在を塔に放った魔導書の、執筆者の意図だ。本来噂に過ぎなかった私を、魔導書で顕在化させ――お前を襲わせているんだよ、その魔導書製作者は。もし私の顔が、その人物の”モノ”だったならば、今頃お前の命は無かっただろう」
「な……ぁ……ああっ」

 そんなことが可能な人間を、僕は一人しか思いつかなかった。
 ――新さんだ。

「うああああああああっ!!」

 その後、僕は中に精液を放たれ、何度も体を揺さぶられた。そして夜が明けるまでの間、僕は獣と交わった。僕は途中で意識を手放したから、いつ獣が去ったのかは知らない。

 ひとり目を覚ましてから、僕は両腕で体を抱いた。

「――僕は、眞山くんのことが好きなのかな?」

 本当に? 考えてみる。しかし、結論は出なかった。