運命の相手を探せ!★
とりあえず俺は、城へと戻り、執務室へと入った。机の上に左腕をおいて、右手は肘を付き掌を額に添える。
生命の樹に関してはこれから調べるしかない。
問題は、運命の相手だ。
一体誰だ?
本当にいるのか、そんな人。
これはやはり片っ端から付き合って見るべきかな?
だけど俺、男同士のやり方ってイマイチよくわからないし。第一愛の無い性交渉は良くないと思う。これはまず、人を好きになることから始めなければ!
その時ノックの音がした。
「わざわざ俺が来てやったぞ」
「来なくていいです」
さも当然のごとく入ってきた王弟殿下に、眉間にシワが寄った。が、ふと思った。
「そう言えば殿下って、昔俺の体強姦した後、腕磨いたんですよね?」
その話を聞くと、殿下が笑顔を引きつらせた。
「ま、まぁなーー試してみるか?」
「結構です。それより、やっぱりそこに愛とか恋とかありましたよね?」
「俺は昔からたった一人が好きだけどな」
「じゃあ恋愛経験ないんですね。使えないな」
「あ? んだって? 一途といえ馬鹿野郎!」
切れ気味に笑っている殿下を見てため息が漏れた。
「俺今、恋ってどんな感情なのか知りたくて」
「はぁ? んなもん、好きになったら好きだろ」
「だからその好きっていうのがどういうのか」
俺の言葉に、握った拳を殿下が顎に添えた。
「笑顔が見たい」
「ロマンティストですね。俺様の影もない」
「うるせぇ。犯すぞ」
「そういうんじゃなくてほらこうもっと胸がドキドキするとか」
外見だけおっさんの俺が言うのもなんだが、若干殿下は子供っぽい。そのくせキスは上手いとか、どういうことだよ……。
「ま、おっさんにはそんな甘酸っぱい気持ちはわかんねぇだろ」
「三十代前半だって十分おっさんだろ」
少なくとも中身十七の俺から見たらそうだ。
俺は厚くなった掌を片手でほぐしながら、口角を持ち上げて意地悪く笑った。
「ーーお前に勝ちたくて、片っ端から戦いに出てたからな。歳も取る」
その意外な言葉に、俺は顔を上げた。
「ゼクスより強くなって、そうしたら……」
俺は別に鈍いたちではない。他の皆がわかりやすい告白じみたことを言ってはいたが、ガイス殿下は回りくどい。だが、俺INおっさんのことが好きだというのはよくわかる。強姦とやらも、本当に若さ故の過ちだったのだろう。しかしなんで、おっさんは覚えていなかったんだ? これまでにも思い出せないことはいろいろあったが、ちょっと不思議でもある。まさか運命の相手じゃないだろうな……!
もうこの際、その相手が男でもいい!
だが痛そうなのは嫌だ!
「お前をぐちょぐちょちょにしたいと思ってた」
はい却下。気持ち悪いのでダメ。
「俺様とやりたいやつなんて五万といる」
「じゃあそいつらとやってろ」
つい本音が出てしまった。しかも本題からそれている。
「俺は好きな人とやりたいから、悩んでるんです!」
「ッ、やっぱり兄上か」
「違うみたいだから困ってるんだ。だから根本的に好きって感覚を知りたくて」
だがこんなおっさん相手に純愛なぞしてくれる相手はいるのだろうか。それも中身は童貞。男どころか女の人とも経験なし。体は筋肉以外取り柄がない。
「……え? 本気で兄上のことが好きなんじゃないのか?」
「だから中身違うんですって」
「じゃあ俺にしとけよ」
「グチャグチャにされるのはちょっと」
「物は試しだ」
そう言われた時には、俺はソファに押し倒されていた。
縫い付けるように手首を掴まれている。
そして首筋を噛まれた。思わず喉仏が動く。そこそこ太い俺の首の筋を、舌で丹念に殿下が舐め上げた。老化は首あたりから来るらしいから、顔が引きつった。
しかも風呂にまだ入ってないから絶対加齢臭がするはず。
「俺お前の匂い好きだわ」
しかし殿下は構わないようだった。記憶の中に押し込められていたものとは違い、丁寧に上着を紐解かれる。そして俺の自慢の筋肉があらわになった。
殿下はその筋肉を指先で撫でて行く。ぞわりと変な感覚がした。
「相変わらず鍛えてるんだな」
俺が鍛えたわけじゃないので何とも答え難い。
というか脇の下の剛毛と匂いが気になる。胸毛がないのはましか。いやあるんだが若干薄い。殿下は気にした様子もなく、筋肉で若干出ている俺の胸を鷲掴みにした。モミモミとされているようで、なんだか不思議だ。
そのまま割れた筋肉の線をなぞられ、腰へと手がたどり着いた。よく引き締まっているのがひっそりと自慢だ。だがそこを静かに撫でられるうちに、ゾクゾクとした感覚がこみ上げてくる。
「殿下、冗談はいい加減にーー」
「本気で最後までするに決まってるだろ」
そう言うと、殿下が俺のヘソを舐めた。
「っ」
そして俺のベルトを外し、下ろしにかかった。慌てて両手で抵抗する。筋肉と筋肉の攻防だったが、やはり若さには勝てなかった。露わになった俺の陰茎は、ヒンヤリとした外気にさらされ縮こまっている。
「相変わらず長いのに細いな」
「うるさい」
人が気にしていることをとイライラした、だが。
「おい……!」
唐突に握られ口へと含まれ、俺はうろたえた。上下する殿下の薄い唇には次第に力がこもり、俺の肉茎は硬度を増して行く。すると重点的に雁首を刺激され、手で側部を上下された。無骨な指の繊細な動きと巧みな舌使いに、あっけなく俺の息子は勃起した。思わず腰が反り返り、射精感が煽られる。このままでは出る。確かに体はおっさんだが、俺は未経験の十七歳なのだ。当然こんな経験はない。
「止めろ!」
すると殿下が口を離して意地悪く笑った。
「早漏」
「う、うるさい!」
「一回抜いてやるよ」
一回も何も、肉体疲労的に、一回しか無理だ。俺はもう、体的に、体力の全盛期は過ぎている!
「うあッ」
しかし再び咥えられ、あっけなく俺は精を放った。
それだけで体は弛緩し、ソファにぐったりと体を預ける。
そうしていたら体を反転させられ、猫のような体制を取らされ、尻を突き出す格好にさせられた。
「無理だぞ、もう無理だぞーーというか、本当無理だ、いろんな意味で!」
「平気だろ」
何を根拠にそんなことを言うんだよ。
「ひっ」
今度は、唐突に後孔を指でつつかれた。それから次第に襞の一つ一つを線に沿って撫でられる。優しい動きで、丹念に何度も撫でられた。そうしてまた孔をつつかれる。
「ん!」
それからぬめる感触が、孔の中へと押し入ってきた。固いようでいて、入り口の周囲をぐるりと蠢いたそれが、舌だとわかる。
「やめろ、汚いだろ!」
「もちろん魔術で綺麗にした」
そんな魔術が存在するのか……魔術って神秘だな……。
それから暫く舌先で弄られたあと、今度は静かに指が一本押し入ってきた。
その感覚に思わず体に力が入る。
「落ち着いて息しろよ」
いくら中身が子供の俺だとはいえ、おっさんの体だ。息とかそういう問題じゃない。すでに息切れだ! 落ち着けるわけがない。そのまま二本目が入って来た時には、呼吸が苦しかった。その上緩急つけて動かされたものだからたまったもんじゃない。変な体勢も手伝って腰が痛い。
「あ、あ」
だが、妙に気持ちのいい場所を見つけられ、思わず声が漏れた。
「ここか?」
余裕たっぷりの殿下の声に、完全に顔が引きつった。
その箇所を念入りに突かれ、時に入口付近をほぐすようにいじられて行くうちに、疲労感が増して行く。
「だいぶほぐれてきたな」
そんな実況いらない。俺は力尽きそうになって上半身をソファに預け、尻だけを突き出していた。
その瞬間だった。
「ん、ぅあ、あああッ」
中へと大きく太い楔が入って来た。ギチギチと肛門が広がって行くのがわかる。血こそ出なかったが、痛い。涙がこぼれそうになる。酸素が喉に張り付いたようになり、息をするのが苦しかった。内部で殿下の形を生々しく感じ、先端の太さにガクガクと体が震えた。
「入ったな」
その言葉と同時にゆるゆると腰を上下に動かされる。同時に俺の体も揺れた。
「突くぞ」
楽しげにそう言った後、殿下が抽送を開始した。激しく抜き差しされる度、内部の肉と殿下の陰茎がこすられ、痛みが次第に熱へと変わり、そして疼きに変わって行く。同時に萎え始めていた俺の前を殿下が片手で掴みしごいた。もう抵抗する体力なんて、俺のおっさんの肉体には残っていなかった。そのまま長々と抜き差しされ、動きが止まったかと思えば緩やかに角度を変えて突かれ、そしてまた激しくなる。流石に殿下は性欲も体力も有り余っているのか、そのうちに俺の腰を掴み、音がするほど腰を打ち付けた。ぶっちゃけ気持ち良くて、喉がしなった。
ようやく殿下が出した時には、俺の体は限界で、ソファに崩れ落ちた。
再び仰向けになり、大きく吐息する。
一言で言えば疲れた。
だがーー気持ち良くなかったと言ったら嘘だ。
そんなことを考えていたら、不意に殿下が俺の足の指を舐め上げた。
「ひゃッ」
指を含んだかと思えば、今度は指の合間に舌を這わせ、それを一本ずつ繰り返して行く。
左右の足が終わると、今度は太ももを舐め始めた。
往復する舌の感触に、再び熱がこみ上げてくる。
「待ってくれ、もうーー」
「断る」
そのまま身体中を舐め上げられ、いつの間にか俺の陰茎は再び立ち上がった。先走りの液が漏れ始めたというのに、決定的な刺激は与えられない。もどかしさに腰が震えた。それから手で扱かれ、俺は再び呆気なく射精し、気を失ったのだった。
目を覚ますと、体が綺麗になっていた。
これも魔術だろう。魔術とは随分と便利だな。服も元どおりになっていた。
周囲を見渡すと、殿下がテーブルのところに座り、優雅に紅茶を飲んでいた。
「起きたか」
「……いきなり何するんだ」
「俺のことを好きだって、体に認めさせようと思ってな。この俺が優しく抱いてやるなんて、貴重な事なんだぞ」
俺は老体に鞭打って起き上がり、何とか立って殿下の前に座った。
「俺はもう子供じゃないってわかっただろ」
楽しげに殿下は言うが、俺は引きつった笑顔を浮かべた。
「あのな、同意がなけりゃ気持ち良くたって強姦だ」
「そうかそうか、気持ちよかったか」
「それは、そのだな」
否定はできない。だが気持ちいいのと好きなのは別だろうと俺は思った。とはいえ好きな人としたいと思っていたが、好きじゃなくとも気持ちいいようだ。
「これから次の討伐に行くまでの間、毎日来てやるよ。開発してやる。その間にせいぜい好きな相手を探すんだな」
殿下はそう言って笑うと帰って行った。俺は身体中が痛くて、これが歳かと実感したのだった。
それにしても、男とやってしまう日が来るだなんて……!
翌日目が覚めると、全身を疲労感が襲ってきた。
確実に性行為のせいじゃない。
痛みもあるが、全身の体力が根こそぎ持って行かれた感覚だ。
男盛りの殿下と、曲がり角を過ぎたおっさんの体では、スペックが違いすぎる。
だが俺はさっさと運命の相手とやらを見つけなければならないし、シュリオーノ写本も読まなければならない。
とりあえず写本をめくることにした。適当に開く。
ーーさて、大問題がある。男性同士の性交渉は、気持ちがいいのである。
俺は写本を閉じた。また今度読もう。
それよりも運命の相手だ。好きな人好きな人。一応これまでは、国王陛下ということになっていたわけなのだから、やはり少しは好きなのだろう。それに陛下は突っ込まれたがっている。俺もどちらかといえば、突っ込む方が楽な気がする。こうなったら、片っ端から突っ込んでしまおうか……だが、それには誘わなければならない。俺には、王弟殿下のような度胸もなければ、経験もないからどうすればいいのかわからない。ひたすら俺がINしているおっさんはモテるわけだが、いかんせんそこからどうやって性交渉に持ち込めばいいのだろうか。
それに面倒くさいのは困る。
そもそも性交渉は必要なのだろうか?
プラトニックでいいではないか。
とすればやはり妄想だけしてくれてショタコンの国王陛下が無難だ。
そんなわけで、俺は玉座の間へと向かった。
「ンぁあ、陛下ぁ、もっとぉ」
「どうして欲しいか言ってごらん?」
「やぁいじわるしないで、さっきのところぉ」
美少年がとろけた顔をしていて、陛下は少年の肛門に夢中だ。
やはり視覚と聴覚への暴力だったので、俺は帰ってきた。
ため息を尽きながら、アイトの部屋へと食事を運ぶ。
すると美青年は真っ赤な顔をしていた。
「どうかしたのか?」
熱でもあるのかと思い近づくと、さらに青年は赤くなった。
「き、昨日……」
あ。
聞かれていたと察して、俺も赤くなってしまった。
「あ、あれは、その……」
「……」
「……」
そういえばアイトは、清らかな体でなければならない蛇の末裔だ。
おそらく刺激が強すぎたはずである。
だがそれ以上に羞恥に駆られて、俺は両手で顔を覆った。
今日からは殿下の部屋に行こうーーってなに考えてるんだよ俺は!
それにしても、運命の相手か。
俺は特定の相手ではなく、その概念について考えることにした。
一般的に考えたら、赤い糸で結ばれているとか、そういうことだろう。
男同士でも赤い糸って存在するのだろうか。
見えればいいのにと俺は思ったのだった。