運命の赤い糸!★





結局俺と殿下は寝台の上にいる。
性急に押し倒された俺は、服の首元を剥かれた。露わになった首筋に口付けられながら、下衣の中に手を差し込まれ、陰茎をしたから上へと撫でられる。下着越しだったがその感触に、体が震えた。そのまま、手はさらに中へと入ってきて、俺の根元を、輪にした指で扱く。もう一方の手の親指では、左の乳首をこすられた。気づけばするりと下衣はそのまま降ろされていた。
「殿下……」
「あ?」
「これ以上脱がせないでくれ」
「は?」
俺は怪訝そうな顔をしている殿下から視線をそらした。衰えた体を見せたくなかったのだ。十七歳の思考では筋肉があるなどと言って喜んでいたが、それは勘違いだ。だいぶ筋力が落ちている。今は同意でベッドにいるとはいえ、嘗てなら押し返すことだってできたはずなのだ。それが今では、殿下の体をいくら押し返そうと試みたところで、どうにもならない。老いから食の好みが変わり、量も減ったことを自覚しているーーそのため、貧弱で貧相な体になりつつある。
「断る」
「殿下!」
「お前の体を隅々まで見たいんだよ俺は。いいだろ、ゼクス。お前は俺のものだよな?」
「それは……」
言葉に詰まった。そうであることを俺は望んでいるのかもしれない。だが俺は近衛騎士団の団長なのだから、基本的には陛下の所有物と言って差し支えないだろう。
そんな一般論に逃げたくなるのは、あんまりにも王弟殿下の瞳が真剣だからだ。
肉食獣じみたその瞳に見つめられると、凍りついたように動けなくなってしまうのだ。何故だろう、ドラゴン退治をしていた時ですら、こんな風に硬直したことはないというのに。
「ンな、ぁ」
考え事をしていたら、不意に唇を貪られた。先ほどの執務室でのキスとは異なり、深く深く唇を重ねられ、舌が押し入ってくる。上の歯の後ろを喉の方へと向かい舐められる。何度も往復する舌が、小さな疼きをもたらした。その後は舌先で、俺の舌を嬲られた。
「っ、フ、は」
唇が一時離れた瞬間に、大きく吐息する。
しかし口づけは終わらず、無理やり舌を引っ張り出されて甘噛みされた。
それから角度を何度も変え、息が上がるまで唇を貪られた。
涙が浮かんできたのは、確実に酸欠からだった。
肺活量だって衰えるのだ。殿下はそれをわかっていない。俺は、これから始まるであろう行為に不安になった。十七歳の気分でいた時の俺は、それでも精神的に若い分まだ勢いで受け入れる余裕があった気がする。だが、我に返った三十七歳の俺には、はっきり言えば余裕がない。大人の方が、年上の方が余裕があるなどというのは、絶対に見栄を張った誰かの嘘だ。
「で、殿下……あの」
「あー?」
「その……」
根元扱くのやめてもらえないか、という言葉が、うまく出てこない。
先ほどからずっとゆるゆると撫でられ続け、俺の陰茎は半分ほど立ち上がっているのだが、正直言ってじれったい。やるんならやる、やらないんならやらないで、はっきりして欲しい手つきだ。だが、俺はそんなことを言えない。これでも羞恥という感情を持ち合わせているし、そのなの感情を捨てる気はない。恥ずかしがっているウブな年頃なんかじゃないわけだけれど、そんなもん関係がない。恥ずかしいのは何歳になろうとも恥ずかしいのだ。
「口の方がいいか?」
「いいえ」
「あ、そう」
「……」
殿下はなぜこんなにも余裕そうなのだろう。俺には殿下のことがよくわからない。それこそ俺のことをわからないと思った十七気分の俺と同じような心境だ。
「う」
次第に手の動きが早まり、俺の肉茎は硬度を増し始めた。認めたくないわけではなかったが、気持ちいいという事実がそれだけで周知を煽り、体を固くした。明らかに俺は、緊張していた。こんな事はどうって事が無いはずで、幾度か殿下と体を重ねたことがあるはずなのに、感情がこれほどまでに揺さぶられるのは初めてである気がする。何故なのか、今までとは比べようもないほどの現実感があるのだ。
いつの間にかそそり立った俺の自身は、射精を求めるように反り返り、先走りの液を垂らし始めた。
「っ、殿下、もう止めッっ」
「ああ、一回イくだけで疲れるんだったな」
どうしてそういう覚えていなくていいことを覚えているのだろう。
確かに俺の体では、一回が限界だ。それは間違いがない。
「そこでこの俺が良い物を用意して来てやったんだ。有難く思え」
王弟殿下はそういうと、金色の輪っかを取り出した。
「……?」
「これを前に嵌めときゃ出せねぇだろ」
さも良い案だという顔で殿下は言うが、俺は耳を疑った。どこに何を嵌めるって……? 冷や汗が背筋を伝って行く。冗談じゃない。
「殿下、やめて下さい」
「あ? せっかく俺が用意してやったのになに言ってんだよ」
「何言ってるのかだと? それは俺のセリフだ。いい加減にしろ」
「それじゃあ俺の体力について来られないだろ」
「自制しろ!」
俺は敬語という概念を忘れた。元々殿下相手には気を使わないことも多々あったが、今回はそれとは話が違う。
「ーーいいだろう。お前が堪えきれなくなったら嵌めるからな」
殿下はそう言うと、俺の左足を持ち上げて、肩に乗せた。
それから左手の指を二本口へと含んで濡らす。
某然と見上げていると、ゆっくりとそのうちの一本を菊門へと差し入れられた。
「アアッ、うあ」
異物感に思わず声を上げると、気を良くしたかのように殿下が唇の両端を持ち上げた。指は入口をほぐすように撫でた後、内部へと進んでくる。指だとわかっているのに、どうしようもなく太く感じた。
「ああ、待ッ、ぅああ」
なのだから二本目を差し入れられた時、腰がはねたのは仕方が無いと思う。思いたい。二本の指が、俺の中を暴いて行く。ゆっくりとそれを揺さぶられたかと思えば、今度は浅く抜き差しされる。次第に妙な熱が集まり始め、それは陰茎へと直結した。
「うう」
肩が震える。指を揺らされるたびに腰が揺れてしまった。俺の体は知っている、内部の気持ちのいい場所を。殿下にこれまでに教えられた場所をだ。
舌を出すように何度も浅く呼吸をしながら、俺は辛くなってまぶたを伏せた。
「ひ!」
その瞬間だった。内部の最も感じる場所を疲れて、俺は仰け反った。喉が動いたのが自分でもわかる。
「うあああああ」
そこを断続的に刺激され、思わず俺は声を上げた。指の腹で突かれるたびに、ガクガクと足が震える。しかし左足を引かれしっかりと掴まれている俺は、逃れられない。両手でシーツを握り耐えるので精一杯だ。
「出そうか?」
「っ」
「やっぱりリング必要なんじゃねぇのか?」
「嫌だ、やめてくれ」
「ふぅん。じゃ、挿れんぞ」
「ーーッ??」
言うが早いか指を引き抜くと、殿下の陰茎が俺の中へと押し入ってきた。
入り口がギチギチと広がって行く感覚がして、それだけで背筋が震えた。
「あ、あ……ンぅ、う」
何とか声を殺そうと、唇をきつく噛む。一気に貫かれた俺は、汗が髪をこめかみに張り付かせたのを実感した。左足を持ち上げられたまま、勢いよく突かれる。そのあとは、緩慢の腰を揺らされた。その度に最も感じる内部の箇所がこすられ、ゾクゾクした。ジンと腰がしびれ、次第に声が抑えきれなくなって行く。
「は、ぁ……うあ……ア、ンぅ、ぅあ」
「中、すげぇ気持ちいいぞ」
「殿下、くッ、あ、ああああ、やめ、も、もう??」
「出そうなのか? じゃあやっぱりリング」
「断ってるだろ!」
「じゃあしばらくこのままな」
「あ、ああっ、うああ」
殿下に緩やかに腰を動かされ、俺は完全に声がこらえられなくなった。
ぴちゃぴちゃと水音が響いてくる気がした。
「駄目だ、あ、ああ、もうッ」
ついに俺の理性は倒壊した。ただ、ただ気持ちよかった。
「殿下、殿下?? 頼むから、動いてくれ」
「そんなに俺に動いて欲しいのか? 俺がその頼みを聞くとでも?」
「殿下!」
「すげぇエロい顔」
「あ、ああ……嫌だ、早く」
「……ああ。俺も限界だわ」
「うああああ??」
そのままガンガンと激しく突かれ、俺はあっけなく精を放った。
ぐったりと寝台に体を預けると、ギシリと軋んだ音がした。
疲れきった体が、もう何も考えたくないという。
「次は後ろからな」
「待て馬鹿、ふざけるな!」
「それともお前が上に乗るか?」
「もう無理だって言ってるんだ!」
「せっかくこの俺がーー」
「うるさい黙れ、さっさと本隊に帰れ!」
本当に体は限界を訴えていたのだが、俺は半ば羞恥交じりに叫んだ。
周知で赤くなった顔を怒りの色で塗り隠す。
快楽から照れているだなんて決して知らせてやるものか。大体いい歳で、なんで俺はこんなにーー恥じ入っているんだ。自分で自分が情けない、恥ずかしい、ああもう何故だ!
そこで俺は気がついた。あんまり俺、十七の時と思考が変わっていないんじゃないのかと。いやそんなまさか。深呼吸してそんな内心を落ち着ける。
「照れるなよ、可愛いな。わかった、今日は帰ってやる。明日凱旋したら覚悟してろよ」
殿下はそう言うと部屋を出て行った。のこされた俺は布団にくるまりただ悶えた。そうして見れば、布団を縫っている赤い糸が、少しだけほつれていた。
ーー俺とガイス殿下の間には赤い糸があるにだろうか?
そんな子供じみたことを考えた自分にもまた悶えって、俺は頭から布団をかぶる。
静かにひっそりとそれでも確かに、殿下のことが好きだと思いながら。
月が綺麗な夜だった。