06
「や、ぁ、そんなところ舐めるな……ァぁっ」
ピチャピチャと響く音に、真っ赤になってしまう。僕の両方の太股を持ち上げて、クルスが後孔を舌で刺激してくるのだ。入り口の襞の一本一本を舐められ、時に中へと舌を差し入れられた。舌を抜き差しされるたびに、腰の感覚がなくなっていく。
「陛下の精気は美味しすぎて――……もう陛下以外から”食べる”なんて考えられない。だが別に食事がしたいだけじゃないんだ。何故こんなにも――愛してしまったんだろうな」
「あ、ああっ、あ」
それから太股の付け根を噛まれ、ビクンと体が震えた。体から力と共に”何か”が抜けていく。
「……今夜の”宴”の事も忘れてくれ」
今日は、雨が降りそうな曇り空だ。
白い陽光が眩しくて、思わず手で視界を覆う。その瞬間、クラっときた。次ぎに気づいた時僕は、一歩後ろを歩いていたサイトの腕の中にいた。貧血だ。ここのところ貧血気味なんだよね。どうしゃったんだろう、僕の体。
そのままサイトが寝台まで運んでくれた。
文官にしては力があるんだよね。細いのに。
そう言うところも受けに良い。僕は、ちょっと強そうな受けが好きなんだよね。
サイトはその後――何故なのか人払いをした。
「?」
「陛下。最近お顔の色が悪すぎます」
「そう言われてもな」
僕のせいじゃないと思う。三食食べているし、ぐっすり眠っているし。
「少し取られすぎ何じゃないか」
「え?」
これまでに聞いたことの無いほど低い声で、ポツリとサイトが言った。トラレスギ――?
何の話だろう?
「倒れるほどとはな――……少し僕の側の精気を、今回に限り”与えて”やる。少しは元気が出る。体力が戻るはずだ」
「っ!? ン――!!」
するといきなりサイトにキスをされた。
サイトが僕にキスをしてる! どうして!? サイトがキスをすべきなのは僕じゃなくてクルスだよ!? っていうか、え、本当に、なんで!? 僕は大混乱した。
舌を絡め取られ、強く吸われる。その部分から、体内に”何か”が流れ込んでくる気がした。温かい海で泳いでいるような気分になる。
――扉が開いたのはその時だった。
「やはり貴様か、宰相閣下」
「……これは、これは、近衛様」
入ってきたのはクルスだった。走るように近づいてきた彼は、サイトの腕から僕を解放してくれた。
「陛下に余計な混じり物を入れるな!」
「黙れ。お前は取りすぎだ!」
「っ!?」
今度はクルスに、首筋へと噛みつかれた。その痛みに驚愕して、僕は目を見開く。しめった舌が僕の首筋を舐める。その感触にビクリとしたのとほぼ同時に、体からガクン土地空が抜けた。後ろから回すようにして首の正面に掌を当てられているのだが、触れ合っている部分全てが熱くて、気持ちいい。”何か”が熔けていく。そして僕の視界は白くなり、プツンと途切れた。
――目を覚ますと僕は、白い大理石の床の上に横たわっていた。
寝室の床だ。右の頬が床に触れていて冷たい。僕は倒れたのだろうか。周囲には、白い花瓶の破片と、赤い薔薇の花びらが散っている。少なくとも花瓶は倒れて割れたようだ。
ずきずきと鈍く痛む頭で考える。ええと、僕は、何をしているんだろう?
「陛下は僕の”容れ物”だ!」
「違う。陛下は俺の”餌”だ!!」
その時、聞き慣れた二人の声がした。
そこで僕は、これまで失われていた夜ごとの記憶が、全て戻ってきたのを感じた。
――今日はまだ記憶を消されていないからだ。
いつもサイトもクルスもどちらか一方が訪れては、その度に記憶を消していくのだが、本日は、正面から対峙している。互いにやり合うのに必死で、僕の記憶を消すことを失念しているようだ。あるいは後で消すつもりなのかな。どちらにしろゾワッとした。
事情は知らないが、サイトは青の申し子だ。人間に精気を注入する生き物だ。その青い目が何よりの証拠だ。青の申し子は人間の容れ物を求め……嗚呼。
一方のクルスは、月神の子達だ。紅い瞳がそれを物語っている。人間の精を吸う。人間はある種の餌だ。
要するに僕は、常に側にいてくれる二人の、容れ物であり餌だったようだ……。
その事実を理解しながら起きあがり、両腕で体を抱く。
嘘だよね? 夢だよね? ま、まさか僕自身がBL……! ありえない!
無理がある。僕は顔面蒼白になっただろう。
寒気がした。
嫌だ。見るのは良いけど、自分が関わるのは嫌だ! だって僕は、ノーマルなのだから!!
しかしこれは大問題だ。僕は仮にも国王だ。
その僕を操ったり、記憶を消したりって……まぁ元々僕がいなくとも二人がいれば国は動いては行くけど、僕はあんまり必要ではないけど、それでも……ちょっとまずいんじゃないのかな。
今回、サイトは戦争反対だったみたいだけど。もしもサイトの意見が、戦争賛成だったら、今頃僕は、強引に戦争を開始し推し進めていた可能性がある。それに、貧血だって問題だ。クルスに吸われ続けたら、確実に弱っていくはずだ。最悪死ぬ。
――僕はどうすればいい?
二人をクビにするとか?
そうしたらこの国は回らなくなるし、二人を見て生BL妄想が出来なくなってしまう。
本当、どうすれば良いんだろう!?
僕にはそれが分からなかった。